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第4章
193.今はどこに
暗い暗い奈落の底。
誰も届かない場所まで落ちて行けたなら。
もう二度と傷つかずにすむのに。
ねぇ、リーヴェ。
貴方もそうだったの?
だから死ぬことさえも怖くなかったの?
ねぇ、教えて。
私の幸せはそこにしかないの――――?
朝の騒動の所為か、学院には相当遅く到着するのではないかと思っていたが、その不安とは逆にいつもより早くついてしまっていた。
馬車に乗り始めてしばらくは母に言われた言葉に侵されて息をするのもやっとだった。
しかしそれも5分もすれば落ち着いた。
今更傷ついたって馬鹿らしいと思っていたのに、今更傷つくなんて情けない。
なによりずっと傍にいて私の内心を知るミリアに、その姿を見られたことが酷く恥ずかしかった。
教室まで送ると言い出したミリアを制し、下駄箱へと向かう。
自分のものへと手を伸ばそうとしたとき、ふとそれが気になって彼女の靴箱の方へ行った。
中を確認すると、相変わらず酷い言葉の羅列が張りつけられている。
シルビアもこんなことをされていたりしたのだろうか。
チクリと胸を何かが差したが、気のせいにした。
昨日はかたずけたが、もうそれも必要ないだろう。
それを確認しただけで、私はそっと彼女の靴箱を閉じた。
「エスティ様……?」
それを見ていた人がいたことなど気づきもしないで。
その日はずっと上の空だった。
あの後、シルビアはどうしたのだろう。
それが気になって気になって、勉強に身など入らなかった。
恐ろしい母を見て、あの子が傷ついていたのは明白だ。
シルビアの意見を全く無視した母の姿に相当ショックを受けたに違いない。
始めはシルビアを溺愛する母が、どうして取り乱してまで反対するのかわからなかった。
しかし、母はその直後自ら答えを言い放った。
ヴァリタスと婚約か。
母があんな事を考えるはずがない。
きっとあれは父が言い出したことのなのだと思う
それにしたって、まさかシルビアとヴァリタスが婚約するかもしれないなんて聞いて、こんなにショックを受けるとは思わなかった。
いつか離れていくあの人に、私とは別の、好きな人が出来るのなんて当たり前なのに。
それがふと目の前に現れただけで動揺するなんてどうかしている。
そもそも、私はもうヴァリタスを好きではない。
あの夏の日、熱を出したとき確かにそれを肯定した。
でもそれは、その気持ちを失くすために認めたこと。
もう、この恋は終わったんだ。
そもそも、始まってもいないものだったけど。
大事にしたっていつか離れ離れになる。
なら、この気持ちを育てたって意味なんてない。
どうせ捨てる気持ちなら、いらない。
そうだ。
シルビアがヴァリタスと婚約するなら、もうこの計画だってやらなくて良いのかもしれない。
別にセイラにこだわる必要なんてないのだし。
私が黙ってあの家を出てしまえば代わりにシルビアが彼の隣に座ってくれる。
全て、私の願いが叶うではないか。
それになにより。
そうすればもう、誰かを傷つけずに済む。
「あの、エスティ様っ!」
ぼんやりと考えていたせいで、隣に彼女がいることに全く気付かなかった。
彼女からは珍しい大きな声にびっくりしてしまう。
「……セイラ様。ごめんなさい、気づかなくて」
いつの間にか教室には人がまばらになっていた。
気付かぬうちに放課後になっていたようだ。
いけない。
早く帰らないと。
「ごめんさない。今日は早く帰らないといけなくて」
勢いよく立ち上がると、パパッと帰り支度を済ませてしまう。
「えっ? で、でも私……」
「本当にごめんなさいね」
そう言って、逃げるように教室を後にした。
どうしてもシルビアが気になってしまった私は、らしくなく廊下を走っていた。
どうやら相当焦っているようだ。
しかし、先ほどみたセイラの顔があまり見たことのないような、苦しそうな表情だったのが少しだけ気になった。
***
「ただいま戻りました」
屋敷へ戻ると、いつものように挨拶をしたが声にでさえ焦りが籠っていた。
どうせ誰も聞いていないのにこの癖はどうしても抜けないようだ。
姿勢を崩さないよう気を配りながらもシルビアの部屋へと急いだ。
シルビアの部屋に着くとノックもせずに扉を勢いよく開ける。
バタンッ!! と大きな音が廊下に響いた。
目に入った部屋の様子に、眉を顰める。
またしても、いや、以前よりもっと暗い空間がそこにはあった。
予想していた光景ではあったが、目の前にすると思った以上にダメージを受けている自分がいた。
シルビアは?
シルビアはどこ?
以前とは違い、シルビアからなんの反応もない。
それが余計にシルビアの受けたショックの大きさを表しているように思えて、さらに不安になった。
「シルビア? どこにいるの?」
声を掛けるが、反応はない。
扉を開けたまま、恐る恐る室内へ入りシルビアを探した。
「! ……シルビア」
回りを見回しながらふと視線を下に向けると、やっとシルビアを見つけることができた。
彼女はベッドの下に、膝を抱えながら蹲っていた。
まるで何かに怯えるように、自分の殻に閉じこもった彼女を見たとき、思っている以上に自分が傷ついていることに気づいた。
誰も届かない場所まで落ちて行けたなら。
もう二度と傷つかずにすむのに。
ねぇ、リーヴェ。
貴方もそうだったの?
だから死ぬことさえも怖くなかったの?
ねぇ、教えて。
私の幸せはそこにしかないの――――?
朝の騒動の所為か、学院には相当遅く到着するのではないかと思っていたが、その不安とは逆にいつもより早くついてしまっていた。
馬車に乗り始めてしばらくは母に言われた言葉に侵されて息をするのもやっとだった。
しかしそれも5分もすれば落ち着いた。
今更傷ついたって馬鹿らしいと思っていたのに、今更傷つくなんて情けない。
なによりずっと傍にいて私の内心を知るミリアに、その姿を見られたことが酷く恥ずかしかった。
教室まで送ると言い出したミリアを制し、下駄箱へと向かう。
自分のものへと手を伸ばそうとしたとき、ふとそれが気になって彼女の靴箱の方へ行った。
中を確認すると、相変わらず酷い言葉の羅列が張りつけられている。
シルビアもこんなことをされていたりしたのだろうか。
チクリと胸を何かが差したが、気のせいにした。
昨日はかたずけたが、もうそれも必要ないだろう。
それを確認しただけで、私はそっと彼女の靴箱を閉じた。
「エスティ様……?」
それを見ていた人がいたことなど気づきもしないで。
その日はずっと上の空だった。
あの後、シルビアはどうしたのだろう。
それが気になって気になって、勉強に身など入らなかった。
恐ろしい母を見て、あの子が傷ついていたのは明白だ。
シルビアの意見を全く無視した母の姿に相当ショックを受けたに違いない。
始めはシルビアを溺愛する母が、どうして取り乱してまで反対するのかわからなかった。
しかし、母はその直後自ら答えを言い放った。
ヴァリタスと婚約か。
母があんな事を考えるはずがない。
きっとあれは父が言い出したことのなのだと思う
それにしたって、まさかシルビアとヴァリタスが婚約するかもしれないなんて聞いて、こんなにショックを受けるとは思わなかった。
いつか離れていくあの人に、私とは別の、好きな人が出来るのなんて当たり前なのに。
それがふと目の前に現れただけで動揺するなんてどうかしている。
そもそも、私はもうヴァリタスを好きではない。
あの夏の日、熱を出したとき確かにそれを肯定した。
でもそれは、その気持ちを失くすために認めたこと。
もう、この恋は終わったんだ。
そもそも、始まってもいないものだったけど。
大事にしたっていつか離れ離れになる。
なら、この気持ちを育てたって意味なんてない。
どうせ捨てる気持ちなら、いらない。
そうだ。
シルビアがヴァリタスと婚約するなら、もうこの計画だってやらなくて良いのかもしれない。
別にセイラにこだわる必要なんてないのだし。
私が黙ってあの家を出てしまえば代わりにシルビアが彼の隣に座ってくれる。
全て、私の願いが叶うではないか。
それになにより。
そうすればもう、誰かを傷つけずに済む。
「あの、エスティ様っ!」
ぼんやりと考えていたせいで、隣に彼女がいることに全く気付かなかった。
彼女からは珍しい大きな声にびっくりしてしまう。
「……セイラ様。ごめんなさい、気づかなくて」
いつの間にか教室には人がまばらになっていた。
気付かぬうちに放課後になっていたようだ。
いけない。
早く帰らないと。
「ごめんさない。今日は早く帰らないといけなくて」
勢いよく立ち上がると、パパッと帰り支度を済ませてしまう。
「えっ? で、でも私……」
「本当にごめんなさいね」
そう言って、逃げるように教室を後にした。
どうしてもシルビアが気になってしまった私は、らしくなく廊下を走っていた。
どうやら相当焦っているようだ。
しかし、先ほどみたセイラの顔があまり見たことのないような、苦しそうな表情だったのが少しだけ気になった。
***
「ただいま戻りました」
屋敷へ戻ると、いつものように挨拶をしたが声にでさえ焦りが籠っていた。
どうせ誰も聞いていないのにこの癖はどうしても抜けないようだ。
姿勢を崩さないよう気を配りながらもシルビアの部屋へと急いだ。
シルビアの部屋に着くとノックもせずに扉を勢いよく開ける。
バタンッ!! と大きな音が廊下に響いた。
目に入った部屋の様子に、眉を顰める。
またしても、いや、以前よりもっと暗い空間がそこにはあった。
予想していた光景ではあったが、目の前にすると思った以上にダメージを受けている自分がいた。
シルビアは?
シルビアはどこ?
以前とは違い、シルビアからなんの反応もない。
それが余計にシルビアの受けたショックの大きさを表しているように思えて、さらに不安になった。
「シルビア? どこにいるの?」
声を掛けるが、反応はない。
扉を開けたまま、恐る恐る室内へ入りシルビアを探した。
「! ……シルビア」
回りを見回しながらふと視線を下に向けると、やっとシルビアを見つけることができた。
彼女はベッドの下に、膝を抱えながら蹲っていた。
まるで何かに怯えるように、自分の殻に閉じこもった彼女を見たとき、思っている以上に自分が傷ついていることに気づいた。
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