悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

200.偽りの私

信じたいと思う気持ちと疑念の中でナタリーは揺れている。
それは痛みと苦しみを伴い彼女を苛んでいく。

なら、もう良いのではないだろうか。

ナタリーはそこまでしてもまだ私を信じてくれる。

でも、もう無理だ。
耐えられない。

私が、耐えられない。

これ以上大切な人を傷つけてまで私は縁を結び続けたいとは思わない。

だからもう終わりだ。

終わりにしよう。

「ふ、ふふ。ふふふっ」

絆なんて私には重すぎる。

私にそんな綺麗なもの似合わない。


だから壊すの。

もう二度と手の届かないところに仕舞えるように。


「嫌だわ、可笑しくてつい笑っちゃった」

お腹を抱えて、まるで喜劇でも見ているかのように笑う。
自分の声のはずなのに、知らない人が話しているような感じがした。

「なんでって、考えればすぐわかることじゃない。貴方には散々話したんだから」

節々でクスクスと笑いながら言葉を口にする。
こうしておけば少しは悪人のように見えるだろうか。

「全てはヴァリタスとの婚約を破棄するのが目的。だからセイラはそれを進めるためのただの駒でしかないわ。それも理解できていなかったなんて」

「じゃあどうして? どうしてあの時いじめていないって否定したの?」

「あら、わからないの?」

まるでお父様と話をしている気分だ。
あの人の前では感情を生んでは苦しいだけだったから、いつの間にか心を殺して会話をするようになった。

まさかナタリーに対してもそんなことをすることになるとは思いもしなかった。

「貴方だって駒にすぎないのよ? あの時はまだ貴方を手放すリスクの方が高かった。だから貴方が満足するようなことを言っただけよ」

「そんなっ」

ナタリーは何かを堪えるように顔を歪めた。
目を細める彼女の顔を見ていられなかった。

でも、私に目を逸らす資格なんて無い。

「私は貴方を信じていたわ。優しい貴方だからきっと、セイラにしていることも傷つきながらそうしているのだと。どうして? どうしてそんな風になってしまったの?」

零れだす彼女の感情は怒りというよりも、悲しみに近いものだった。

どうして私は彼女にとってこんなに大きなものになってしまったのだろう。
やはり仲良くなんてならなければよかったのだ。

「貴方がそうであるように、前世の性格を色濃く継ぐのは後世の特徴だと思わない?」

ナタリーはハッとして私を見つめたまま、驚きと恐ろしさを含んだ表情で固まった。
私はそれに笑顔で返す。

ナタリーはそれを知っている。

彼女が小説を好きなのは、確実に前世の影響からだ。
前世の彼女はそういう物語に強い憧れを抱いていた。
しかし、平民ゆえに本を読める機会は少なかった。

その反動からか、今は本の虫とまで言われるほど様々な書物を読み漁っている。
これは本人から聞いた話だから、彼女もはっきりと自覚している事。

だから、ナタリーが私の言葉を否定できるわけないのだ。

「人が苦しんでいるのを見ると、すごく心地良くて堪らないの。確かに最初の方は罪悪感が勝って苦しいばかりだった。でもね、最近前世の事をたくさん思い出せるようになって気付いたの。彼を傷つけときもセイラをいじめているときも、罪悪感と共に胸の奥で何かが私を満たしていた。そう、それが本当に私が欲しかったものだったのよ」

「でも、夏休みに入る前はあんなに……」

「あの時はまだあまり前世の事を思い出せていなかっただけよ」

それが止めだったのかもしれない。
ナタリーはキッと目を細めると、私を強く睨みつけた。

彼女の中で、私が敵になった瞬間だった。

「じゃあ、セイラをいじめるのはヴァリタス殿下との婚約破棄が目的ではなく、ただ自分の欲望を満たすためだけにしているということ?」

「まぁ、彼女が苦しんでいる姿を見るのは楽しいけれど、別にその目的は今も変わらないわよ」

もし、私が非人道的な快楽主義者であり黒魔術を使うものだとしたら。
彼の近くにいるのを拒むだろう。

たとえ権力を手に入れ、さらに欲望を満たすことができるようになったとしても。

「あの王子は私にとっては危険なの。流石に彼の前世を教えることができないからはっきりとした理由は言えないけれど、彼が近くにいると私は思ったように動けなくなるのよ。彼の前世って結構な大物だから」

神様に愛され、生まれ変わった人物。

邪悪なものがそんな神聖なものの近くにいたいと思うだろうか。
そんなもの、説明されなくてもわかるだろう。

彼女はヴァリタスの前世を知らないため今のところ理由としては弱いかもしれない。
でももしそれを知った時、十分納得できる理由になる。

「そう。貴方はもう、私が知っているエスティではないのね」

下を向いた彼女は弱弱しく呟く。

「なら、良い事を教えてあげる」

それでも顔を上げた彼女の瞳にはまだ光が灯っていた。

これが私と彼女の違いなのだろう。

私はナタリーを失っただけでも、結構なダメージを負う。
だって私の友人なんてヴァリタスを覗けば3人しかいない。

その一人を失うのだ。

でも、友人の多いナタリーなら私一人を失ったところで大したダメージではないのだろう。

「セイラは貴方が犯人だと知っているわよ」

「はっ?」

その一言で、一気に焦りが込み上げた。
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