悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

202.薄汚れた冊子

       γ

条件はその身に恨みを受けるもの。
恨みが多ければ多いほど好ましい。

       γ



どう見ても紙束と本の紙が同じものとは思えなかった。
落ちてしまった紙束の方が随分と日に焼けている。

見比べてみるとそれは一目瞭然だった。

と、いうことはこの本が壊れていたのではなく違う冊子が挟まれていたということだろう。
誰かが間違えて別に借りた本を挟んでしまったのだろうか。

そう思い裏表紙を見てみるが、図書館の本ならば必ずあるはずの登録番号が書かれていない。

これってもしかして、個人の本を間違えて借りた本と一緒に返してしまったということ……?

だとすればこの本の持ち主はこれを探しているのでは?
どうしよう。

とは思っても、私にはどうすることもできないし。

おそらく元あった状態に戻しておくのが賢明だろう。
とは思っていたのだが。

少しだけ、その本の中身が気になってしまった。

元来前世の影響からか書物に強く興味を持つタイプの私だ。
ふとした拍子に目に入った本に関心をよせないわけはなく。

一体何の本だろう。

表紙を見て題名を確認する。

「何これ? 呪術、読本……?」

掠れてしまっているが読めなくもないその表紙に書かれていたものは、指南書にはよくある題名だった。

それにしたってなんて捻りのない題名。

しかし、呪術とは。
またなんとも不穏な響きの題名だこと。

どうやら手書きの文字らしくただ書き殴ったような文字がそこに書かれている。

ん? 待って。
もしかしてこれ、個人が書いたものなんじゃ……。

1枚ページを捲って中を確認する。
そこに書いてあった文字も表紙と同じように手書きの文字で文章が書かれていた。
どうやら本当に個人で書いた書物らしい。

途端に何とも言えない罪悪感に襲われる。
まるで誰かの私室を土足で踏み荒らしているような、そんな感覚。

しかし、そんな居心地の悪い感覚を味わっているはずなのにその本の中身がどうしても気になって仕方なかった。
中の文章に目を落とし、字を追っていく。

〈愛しきプレイグ公に捧ぐ〉

一番最初の文字はそう書かれていた。

本のはじめにはよく書かれているものではあるが、売り物として出されていたものではないだろうし、もしかしたらこの人に宛てたものなのかもしれない。

そこでようやく、これは本当に読んではいけないものなのではないかと思った。

しかしそう思っているはずなのに、なぜか私の瞳は文章を追う事をやめようとしない。

結局そのページに書かれていることを読んでしまった。
特に当たり障りのない、ふつうのよくある扉の挨拶のようなもの。
ただ、プレイグという人物が如何に偉大で素晴らしいかが懇々と書かれていただけだった。

ここまでつまらない文章もないだろう。
普段の私ならばさっさと本を閉じていたはずだった。

それなのに、私の手はいつの間にか次のページを捲っていた。

そこには、一番初めに大きな文字で書かれている。

「セイマイ、カイタイ……?」

読んでみたけど意味はよくわからなかった。
おそらく魔法の名前なのだろうけど。

視線を下に移す。

ページの真ん中には何かの魔法陣……、ではなさそうだ。
魔術解析の図のようなものが書かれている。

あまり魔法に明るくないため詳しいことはわからないが、魔法の効果などをわかりやすく図にして表すことがある。
しかし、こんな風に魔法陣かと見間違えるほど複雑な構造のものなんて見たことない。

相当高度な魔法なのだという事だけは理解できた。

そしてその横下には……。

〈供物〉

という文字が書かれていた。
その単語に一瞬にして冷水を浴びたような感覚が体を駆け巡る。

強力な魔法を使うとき、魔力の他にも道具を使うときはよくある。
おそらくこの<供物>というのもそれを指しているのだろう。

それにしたって、普通なら使う道具とかそんな言葉で表現するはずなのに。
供物なんて……。

やっぱりこの本、黒魔術系の本なのだろうか。
挟まっていたものも黒魔術の本だったし、これもそうかもしれないとは若干思っていたけれど。

そう思っているはずなのに目で追う事を辞められず、その部分を読んでしまった。

<子羊を7匹用意すること
無垢でよく鳴くものがよし>

子羊……。
その内容に冷や汗が出る。

どんなに道具が必要な魔法でも、生き物自体を使うものなど聞いたことがない。
大体が植物だし、あるとしても角や毛などの体の一部を使うぐらいが限度だ。

つまり、この魔法はそれを使うほど強力な魔法だということ。
それも羊を7匹も。

一体どんな魔法なのだろう。

お兄様に聞いてみようかしら。

でもきっとこれって良くない魔法だよね。
それぐらいなら、魔法に疎い私でもわかる。

見開きの次のページにはその魔法を発動させる方法らしきものが書かれていたが、
文字が掠れすぎているのと所々黒く変色しているおかげで読めたものではなかった。

なんだかそれに水を差されたように興味が無くなっていった。
それ以降のページも捲らずにパタリと冊子を閉じる。

でもどうしてかその本を戻す気になれなかった。

私はナタリーが投げつけた本は棚に戻したものの挟まっていた冊子を手に持ったまま、気づいたらそれを鞄の中へと仕舞っていた。
なぜかそれだけは手元に持っておく必要があると思ってしまったのだ。

とても大事なものが、ここにある気がして仕方なかった。

それが私たちの運命の手がかりであるとも知らずに。
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