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第4章
204.悪魔のような王女様
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それは1時間ほど前まで遡る。
シルビアは自室にて、姉の帰りを待ち望んでいた。
最近では姉が学院から帰ってきて、寝るまで一緒にいることが日課となっていた。
毎日の楽しみは姉と一緒にいること。
ただそれだけで、以前とは比べ物にならないほど落ち着いた生活ができるようになっていた。
ミリアともぎこちないながらも会話をするようになり、昔のわだかまりも徐々に解かれているような感覚を感じていた。
このまま、穏やかな時間が続けば良い。
姉が学院を卒業すれば、すぐ結婚してこの家を出ていく。
せめてそれまでの2年間だけは一緒にいたい。
今のシルビアにとって、ただそれだけが彼女の生きる糧になりつつあった。
コンコンと扉を叩く音がする。
時計を見ればそろそろ姉が帰ってくる時間。
きっとお姉さまだ!
そう思い、ガバッとベッドから体を起こすと扉の方へパタパタと駆けていく。
しかし、扉に辿り着く前に外から無機質な声が聞こえピタリと体が止まった。
「シルビアお嬢様、お客様がお見えです」
それはいつもシルビアを世話してくれる気心の知れたメイドの声だった。
しかし、それにしてはいつもの明るい彼女の声ではない。
なんだろう。
馬鹿に緊張気味の声に違和感を覚えた。
扉を開け、顔を覗かせた彼女は加えて告げる。
「シャルロット殿下がお見えです。早く支度を……」
その言葉を聞いた途端、先ほどまでの気力が一気に吹き飛んでいった。
目の前が真っ暗になる。
どうして?
どうしてシャルロット様がここに?
どうやら後ろに他の使用人を数人引きつれていたらしく、静かに部屋へと入っていくとシルビアを椅子に座らせいそいそと支度を始めた。
その間、シルビアの意識はほとんど無いに等しいほど何も考えられなくなっていた。
ただぐるぐると”どうして”という疑問が頭の中で回っている。
「お嬢様、ご支度が終わりました」
その言葉でハッと目が覚める。
一体支度にどれくらいかかっていたのだろう。
時計を確認するが彼女たちがやってきた時間を覚えていないため、かかった時間がわからない。
どうしよう。
もし待たせていた間に不満が溜まっていたら?
そう考えると彼女からまた何かされるのかと想像して恐ろしくなった。
早く、早くシャルロット様の元へ行かなくちゃ。
彼女たちを押しのけてまで廊下に出ると、
「お待たせいたしました……」
最後の方は声が掠れていた。
彼女の姿を捉えたとき、今までの事がフラッシュバックして自分がどうしてここにいるのかすらわからなくなっていく。
怖い。
ただただ彼女が怖い。
私を待っている間、お母さまが相手をしてくれていたみたいで笑顔で会話していた2人がこちらを向くのが見えた。
彼女の顔を見た瞬間、全身に悪寒が走る。
いやだ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!
来ないで!
これ以上私に近づかないでっ!
そう思っているのに、言いたいのに、声が出ない。
体がピクリとも動かない。
そうしている間にも、お母さまは立ち上がり私へと近づいてくる。
いつまでも立ち尽くしている私を見て思うところがあったんだろう。
目の前まで近づくと耳元で何かを囁いている。
「駄目じゃない、シャルロット殿下をこんなにお待たせしてしまっては」
普段は優しいお母さまも、さすがに王族の彼女を待たせたことに気が立っていたのだろう。
でも、お母さまがそこまで言うってことは、やっぱりすごくお待たせしてしまったんだ。
ということは、彼女は相当怒っているのではないだろうか?
恐怖心が更に高まる。
「ごめんなさい、ベルフェリト夫人。少し、シルビア様と2人きりで話がしたいのですけど、よろしいでしょうか?」
「!」
え?
待って。
そんなの嫌。
嫌よ!
お願いお母さま、行かないで。
私を1人にしないで!
お願いっ……。
しかし、いくら心の中で思っていたとしても言葉にしなければ伝わりはしない。
お母さまはシャルロット殿下の方へ振り向くと、笑顔で答えた。
「ええ、構いませんよ」
とても明るいお母さまの声。
でも私にとっては地獄へと突き落とす言葉だった。
「ではごきげんよう、殿下」
パタンと扉の閉まる音がした。
お母さまはもういない。
私とシャルロット殿下だけがいる空間になってしまった。
「いつまでもそんなところで突っ立ってないで、こちらに座りなさいよ」
先ほどまでの柔和な雰囲気など無かったかのように彼女が冷たく言い放つ。
その声が、私の恐怖をさらに蘇らせた。
ガンッ!!
「ヒッ!」
大きな音を立てられ、さらに委縮してしまう。
シャルロット殿下が机の脚を蹴った音だった。
「早く座って。いつまで私を待たせるつもりなの?」
キッと睨まれ急いで彼女の正面へと座る。
こうなってしまっては私に選択肢などない。
ただ黙って彼女のいう事を聞くだけのお人形になるしかないのだ。
ただ彼女の機嫌をこれ以上悪くさせないようにしなければならない。
「全く……、支度にいつまで掛かっているの? しかもあんなに待たせておいてこんなみすぼらしい恰好で来るなんて。私の事、本当は馬鹿にしているんじゃないの?」
「そ、そんなっ! そんな事は決して……」
「はぁ? 私の言う事に反論するんじゃないわよ! それとも何? 私の言っていることが間違っているとでも言いたいの?」
「違います! シャルロット殿下が仰られることはいつも正しい……、です」
そういうと、彼女はやっと機嫌を良くしたようでフッと鼻で笑った。
シルビアは自室にて、姉の帰りを待ち望んでいた。
最近では姉が学院から帰ってきて、寝るまで一緒にいることが日課となっていた。
毎日の楽しみは姉と一緒にいること。
ただそれだけで、以前とは比べ物にならないほど落ち着いた生活ができるようになっていた。
ミリアともぎこちないながらも会話をするようになり、昔のわだかまりも徐々に解かれているような感覚を感じていた。
このまま、穏やかな時間が続けば良い。
姉が学院を卒業すれば、すぐ結婚してこの家を出ていく。
せめてそれまでの2年間だけは一緒にいたい。
今のシルビアにとって、ただそれだけが彼女の生きる糧になりつつあった。
コンコンと扉を叩く音がする。
時計を見ればそろそろ姉が帰ってくる時間。
きっとお姉さまだ!
そう思い、ガバッとベッドから体を起こすと扉の方へパタパタと駆けていく。
しかし、扉に辿り着く前に外から無機質な声が聞こえピタリと体が止まった。
「シルビアお嬢様、お客様がお見えです」
それはいつもシルビアを世話してくれる気心の知れたメイドの声だった。
しかし、それにしてはいつもの明るい彼女の声ではない。
なんだろう。
馬鹿に緊張気味の声に違和感を覚えた。
扉を開け、顔を覗かせた彼女は加えて告げる。
「シャルロット殿下がお見えです。早く支度を……」
その言葉を聞いた途端、先ほどまでの気力が一気に吹き飛んでいった。
目の前が真っ暗になる。
どうして?
どうしてシャルロット様がここに?
どうやら後ろに他の使用人を数人引きつれていたらしく、静かに部屋へと入っていくとシルビアを椅子に座らせいそいそと支度を始めた。
その間、シルビアの意識はほとんど無いに等しいほど何も考えられなくなっていた。
ただぐるぐると”どうして”という疑問が頭の中で回っている。
「お嬢様、ご支度が終わりました」
その言葉でハッと目が覚める。
一体支度にどれくらいかかっていたのだろう。
時計を確認するが彼女たちがやってきた時間を覚えていないため、かかった時間がわからない。
どうしよう。
もし待たせていた間に不満が溜まっていたら?
そう考えると彼女からまた何かされるのかと想像して恐ろしくなった。
早く、早くシャルロット様の元へ行かなくちゃ。
彼女たちを押しのけてまで廊下に出ると、
「お待たせいたしました……」
最後の方は声が掠れていた。
彼女の姿を捉えたとき、今までの事がフラッシュバックして自分がどうしてここにいるのかすらわからなくなっていく。
怖い。
ただただ彼女が怖い。
私を待っている間、お母さまが相手をしてくれていたみたいで笑顔で会話していた2人がこちらを向くのが見えた。
彼女の顔を見た瞬間、全身に悪寒が走る。
いやだ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!
来ないで!
これ以上私に近づかないでっ!
そう思っているのに、言いたいのに、声が出ない。
体がピクリとも動かない。
そうしている間にも、お母さまは立ち上がり私へと近づいてくる。
いつまでも立ち尽くしている私を見て思うところがあったんだろう。
目の前まで近づくと耳元で何かを囁いている。
「駄目じゃない、シャルロット殿下をこんなにお待たせしてしまっては」
普段は優しいお母さまも、さすがに王族の彼女を待たせたことに気が立っていたのだろう。
でも、お母さまがそこまで言うってことは、やっぱりすごくお待たせしてしまったんだ。
ということは、彼女は相当怒っているのではないだろうか?
恐怖心が更に高まる。
「ごめんなさい、ベルフェリト夫人。少し、シルビア様と2人きりで話がしたいのですけど、よろしいでしょうか?」
「!」
え?
待って。
そんなの嫌。
嫌よ!
お願いお母さま、行かないで。
私を1人にしないで!
お願いっ……。
しかし、いくら心の中で思っていたとしても言葉にしなければ伝わりはしない。
お母さまはシャルロット殿下の方へ振り向くと、笑顔で答えた。
「ええ、構いませんよ」
とても明るいお母さまの声。
でも私にとっては地獄へと突き落とす言葉だった。
「ではごきげんよう、殿下」
パタンと扉の閉まる音がした。
お母さまはもういない。
私とシャルロット殿下だけがいる空間になってしまった。
「いつまでもそんなところで突っ立ってないで、こちらに座りなさいよ」
先ほどまでの柔和な雰囲気など無かったかのように彼女が冷たく言い放つ。
その声が、私の恐怖をさらに蘇らせた。
ガンッ!!
「ヒッ!」
大きな音を立てられ、さらに委縮してしまう。
シャルロット殿下が机の脚を蹴った音だった。
「早く座って。いつまで私を待たせるつもりなの?」
キッと睨まれ急いで彼女の正面へと座る。
こうなってしまっては私に選択肢などない。
ただ黙って彼女のいう事を聞くだけのお人形になるしかないのだ。
ただ彼女の機嫌をこれ以上悪くさせないようにしなければならない。
「全く……、支度にいつまで掛かっているの? しかもあんなに待たせておいてこんなみすぼらしい恰好で来るなんて。私の事、本当は馬鹿にしているんじゃないの?」
「そ、そんなっ! そんな事は決して……」
「はぁ? 私の言う事に反論するんじゃないわよ! それとも何? 私の言っていることが間違っているとでも言いたいの?」
「違います! シャルロット殿下が仰られることはいつも正しい……、です」
そういうと、彼女はやっと機嫌を良くしたようでフッと鼻で笑った。
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