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第4章
205.私の守りたいもの
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「当たり前じゃない。私はいつだって正しいのよ」
髪を優雅に払うと、彼女は微笑む。
とてもきれいなのに、私には悪魔が笑っているようにしか見えなかった。
その笑顔が怖くて、見ないように視線を下に移す。
彼女と一緒にいるときはいつもこうだった。
誰かの顔色を伺うのが怖くて、こうやって下を向いて俯くしかできない。
こんないつも委縮している自分が心底嫌い。
でも、いつまでもこのままじゃ駄目だ。
いつまでも逃げていては、何も変わらない。
ちゃんと向き合わなくちゃ。
お姉さまが私にそうしてくれたように。
グッと手に力を込め、少しずつ顔を上げる。
眉間に皺を寄せて恐怖と戦いながら、私は何とか口から言葉をひねり出した。
「あの……、シャルロット殿下はどうしてこちらに」
「ん~。まぁそうね。そろそろあんたをいじめるのも飽きてきたころだし、もう良いかなぁって思って。それを伝えにきたの」
「えっ?」
退屈そうに指を遊ばせながら彼女は告げる。
しかし、その言葉は私にとってなによりも強い希望の光だった。
解放される。
あの苦しい毎日から。
どうしてかはわからない。
この気まぐれな王女様の事なんて、理解する方が難しいだろう。
そんなことよりも、彼女の言った言葉の方が何倍も価値のあるものだった。
思わず嬉しくて泣きそうになるのを何とか堪えていると、またしても彼女から退屈そうな声色が発せられた。
「それでね、あんたにお願いがあるのよ」
「お願い、ですか?」
「そうよ。もしこのお願いを聞いてくれたら、もうあんたをいじめたりしない。約束するわ」
まるで暗闇に差した一筋の光を与えられたように思えた。
あの最悪の日常から解放される。
もう悪口を言われることも、無視されることも、痛い事をされることもない。
それはどれほど心地よい日常だろう。
そんな日々を送ることができるなら、どんな願いでも叶えられる。
そう思った。
彼女のその邪悪が微笑みが、一番恐ろしいものになっていたのにも気づかずに。
「お願いっていうのはね」
彼女は私を見つめると、優しく微笑みながら告げる。
「あんたの姉の弱点が知りたいのよ」
「えっ?」
お姉さまの弱点?
シャルロット殿下は何を言っているのだろう。
一体何を望んでいるのだろう。
「妹なんだから、一つぐらい知っているでしょう? ああ、言っておくけど他の人が知っているようなものは駄目よ。前世が卑しいこととか、魔力が無い事とか。あの女、あそこまで何もない卑しい人間の癖に、まだお兄様の隣を陣取っているんだから……」
爪を噛みブツブツと呟く王女殿下の言葉など、私の耳には届かない。
なぜ、そんな事を知ろうとするのだろう。
そんなものを知って、一体何を……。
「でも、婚約を望んでいるのは、ヴァリタス殿下だと聞いておりますが……」
「だからよ、お兄様が捨ててしまいたいと思うほどの理由が私は欲しいの。本当にあんたって理解の遅い愚図な頭しか持ってないのね」
その言葉で、初めて彼女の望んでいることを理解した。
そうか。
この人はお姉さまを傷つけたいんだ。
お父様やお母さまと同じように。
お姉さまを傷つけたくて、堪らない人なんだ。
なら、それなら私がするべきことは1つだけ。
この人に。
この女にお姉さまを汚されるわけにはいかない。
私がお姉さまを守らなきゃ。
もう二度と、お姉さまのあんな姿見たくない。
お父様とお母さまの事を話すときの、あんな苦しそうなお顔なんて二度と……。
「申し訳ありません。私はお姉さまの弱点など、存じ上げません」
怖かった。
それでも真っ直ぐ彼女の瞳を見つめた。
赤く光る宝石のような瞳。
その中に僅かに見える暗黒も、今の私に恐怖を与えることはできない。
だって、私はお姉さまが好きだから。
好きな人を守るためなら、私はなんだってできる。
強い意志の籠った私の瞳を見て、とうとう彼女の逆鱗に触れてしまった。
彼女はガタンと大きな音を立てて立ち上がると、憎悪にも似た感情を宿した瞳で私を強く睨みつけた。
「なに? なによ、その目は! お前、私に逆らう気なの?!」
途端に彼女は暴れ出した。
彼女の周りを囲むように空気が渦を巻いていく。
間違いなく、彼女の魔法だった。
王族は魔力が強い。
しかし、私は王族が魔法を使っているところなど見たことがなかった。
だから彼らの魔法の才能がどれほどのものなのかを実感したことがない。
今までのいじめの中には魔法を使ったものもあった。
しかし彼女自ら手を下されたことはなかったし、彼女がどれ程の魔法が使えるのかなんていつも本気で授業を受けていない様子の彼女からは伺い知ることはできなかった。
でも、この感じは結構。
まずい、かもしれない。
今までは彼女の地位の高さから逆らえずにいた。
なにより王族に逆らったらどんな罰が待っているのかが怖かった。
けれど今は違う。
圧倒的な力の差。
それを見せつけられて、今度こそ私の心は完全に屈服させられようとしていた。
でも。
それでも!
私は、絶対に――――。
お姉さまを守ってみせる。
髪を優雅に払うと、彼女は微笑む。
とてもきれいなのに、私には悪魔が笑っているようにしか見えなかった。
その笑顔が怖くて、見ないように視線を下に移す。
彼女と一緒にいるときはいつもこうだった。
誰かの顔色を伺うのが怖くて、こうやって下を向いて俯くしかできない。
こんないつも委縮している自分が心底嫌い。
でも、いつまでもこのままじゃ駄目だ。
いつまでも逃げていては、何も変わらない。
ちゃんと向き合わなくちゃ。
お姉さまが私にそうしてくれたように。
グッと手に力を込め、少しずつ顔を上げる。
眉間に皺を寄せて恐怖と戦いながら、私は何とか口から言葉をひねり出した。
「あの……、シャルロット殿下はどうしてこちらに」
「ん~。まぁそうね。そろそろあんたをいじめるのも飽きてきたころだし、もう良いかなぁって思って。それを伝えにきたの」
「えっ?」
退屈そうに指を遊ばせながら彼女は告げる。
しかし、その言葉は私にとってなによりも強い希望の光だった。
解放される。
あの苦しい毎日から。
どうしてかはわからない。
この気まぐれな王女様の事なんて、理解する方が難しいだろう。
そんなことよりも、彼女の言った言葉の方が何倍も価値のあるものだった。
思わず嬉しくて泣きそうになるのを何とか堪えていると、またしても彼女から退屈そうな声色が発せられた。
「それでね、あんたにお願いがあるのよ」
「お願い、ですか?」
「そうよ。もしこのお願いを聞いてくれたら、もうあんたをいじめたりしない。約束するわ」
まるで暗闇に差した一筋の光を与えられたように思えた。
あの最悪の日常から解放される。
もう悪口を言われることも、無視されることも、痛い事をされることもない。
それはどれほど心地よい日常だろう。
そんな日々を送ることができるなら、どんな願いでも叶えられる。
そう思った。
彼女のその邪悪が微笑みが、一番恐ろしいものになっていたのにも気づかずに。
「お願いっていうのはね」
彼女は私を見つめると、優しく微笑みながら告げる。
「あんたの姉の弱点が知りたいのよ」
「えっ?」
お姉さまの弱点?
シャルロット殿下は何を言っているのだろう。
一体何を望んでいるのだろう。
「妹なんだから、一つぐらい知っているでしょう? ああ、言っておくけど他の人が知っているようなものは駄目よ。前世が卑しいこととか、魔力が無い事とか。あの女、あそこまで何もない卑しい人間の癖に、まだお兄様の隣を陣取っているんだから……」
爪を噛みブツブツと呟く王女殿下の言葉など、私の耳には届かない。
なぜ、そんな事を知ろうとするのだろう。
そんなものを知って、一体何を……。
「でも、婚約を望んでいるのは、ヴァリタス殿下だと聞いておりますが……」
「だからよ、お兄様が捨ててしまいたいと思うほどの理由が私は欲しいの。本当にあんたって理解の遅い愚図な頭しか持ってないのね」
その言葉で、初めて彼女の望んでいることを理解した。
そうか。
この人はお姉さまを傷つけたいんだ。
お父様やお母さまと同じように。
お姉さまを傷つけたくて、堪らない人なんだ。
なら、それなら私がするべきことは1つだけ。
この人に。
この女にお姉さまを汚されるわけにはいかない。
私がお姉さまを守らなきゃ。
もう二度と、お姉さまのあんな姿見たくない。
お父様とお母さまの事を話すときの、あんな苦しそうなお顔なんて二度と……。
「申し訳ありません。私はお姉さまの弱点など、存じ上げません」
怖かった。
それでも真っ直ぐ彼女の瞳を見つめた。
赤く光る宝石のような瞳。
その中に僅かに見える暗黒も、今の私に恐怖を与えることはできない。
だって、私はお姉さまが好きだから。
好きな人を守るためなら、私はなんだってできる。
強い意志の籠った私の瞳を見て、とうとう彼女の逆鱗に触れてしまった。
彼女はガタンと大きな音を立てて立ち上がると、憎悪にも似た感情を宿した瞳で私を強く睨みつけた。
「なに? なによ、その目は! お前、私に逆らう気なの?!」
途端に彼女は暴れ出した。
彼女の周りを囲むように空気が渦を巻いていく。
間違いなく、彼女の魔法だった。
王族は魔力が強い。
しかし、私は王族が魔法を使っているところなど見たことがなかった。
だから彼らの魔法の才能がどれほどのものなのかを実感したことがない。
今までのいじめの中には魔法を使ったものもあった。
しかし彼女自ら手を下されたことはなかったし、彼女がどれ程の魔法が使えるのかなんていつも本気で授業を受けていない様子の彼女からは伺い知ることはできなかった。
でも、この感じは結構。
まずい、かもしれない。
今までは彼女の地位の高さから逆らえずにいた。
なにより王族に逆らったらどんな罰が待っているのかが怖かった。
けれど今は違う。
圧倒的な力の差。
それを見せつけられて、今度こそ私の心は完全に屈服させられようとしていた。
でも。
それでも!
私は、絶対に――――。
お姉さまを守ってみせる。
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