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第4章
208.幻の郷愁
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ヴァリタスと別れ、外へ引き返すと校舎裏の方へと向かった。
人に見つからないように昼休みまで時間を潰すためには、授業中誰も近づかないところに行くのが良いだろう。
そういうことに関しては、この広すぎる学院はとても都合がよかった。
この学院では貴族の令息令嬢がほとんどということもあり、有り余る土地を有意義に使っている。
校舎の周りは生い茂った木々に囲まれ、少し歩けば芝生が一面に広がるグラウンドがある。
中庭には美しい花々が咲き誇る花壇が四季を彩ってくれるし、気が向けば少し歩くが湖だって備わっているのだ。
王宮ほどの広さを有するこの学び舎は、まるで自然豊かな田舎にでも瞬間移動してきたかのような感覚にさせてくれる。
そうだ!
折角だから校内を散策しよう。
中等部にいたころはよく森林浴をしたり湖へ行ってぼんやり眺めたりしていたけれど、高等部に上がってからは遅く帰れないということもあってそっちの方に行けなくなっていた。
お父様の影が怖かったのもあるけど、そういうのをしていたのって休日が多かったのよね。
自然を眺めるているとすごく癒されるから好きなのよね。
それに。
きっとこの学院で自由に過ごせるのも残り僅かだろう。
いくら公爵家の令嬢といっても今後起こるであろう騒動を引き起こした張本人であれば、噂は瞬く間に広がる。
それは学院に留まらず、社交界にまで及ぶのは必然だろう。
それがお父様に伝わらないはずないのだ。
きっと監視がついたり放課後は真っ直ぐ帰らされたりして私の自由は本当に無くなってしまうだろう。
そうなれば、この学院を歩きまわる機会だってほとんどなくなってしまう。
益々自由が無くなることに少し息苦しくなるはずだ。
それに備えるためにも、今日は思いっきり羽を伸ばさせてもらおう。
「よし、じゃあさっそく森林浴でも……」
林へ一歩足を踏み入れた瞬間。
何かが視線の端を横切ったように見えた。
「?」
しかし、周りを見渡しても何もない。
「幻覚?」
いやいや。
そんなものを見るほど、精神的に参ってはいないのだけど。
一体何なのかしら。
そう思って振り返ると。
「あ、あれ?」
先ほどまで見慣れた景色だったはずなのに。
いつの間にか深い森の中へと迷い込んだかのように鬱蒼とした木々が私の周りを囲んでいた。
見えるはずの校舎さえ確認できない。
一体どういうこと?
そもそも学院の林ってこんなに鬱蒼としたものではなかったはず。
どうだったとしても一歩踏み出しただけでこんなに深いところまで歩けるはずないし。
もしかして魔法でも掛けられた?
でも一体誰が何の目的で?
そもそも本人に気づかれずにどこかへ飛ばす魔法なんて存在するのかしら。
ぐるぐると思考を巡らせても、今の私に打開策など見つかるはずがない。
それに、1つ重大な問題がある。
もし魔法でここに連れて来られたのだとしたら今私がいるのって学院じゃないかもしれない、ということ。
そう思うと急に不安な気持ちが込み上げてくる。
自分が今どこにいるのか全くわからない。
その恐怖心が徐々に私を侵していった。
「と、とりあえずどこかに……」
何かこの場所がどこなのかわかるような手がかりを見つけないと。
もしかしたらただの私の勘違いかもしれないし。
いや、多分そんな都合の良いことないと思うけど。
周りを必要以上に警戒しつつ、慎重に足を進める。
そうして歩みを進めて5分ほど経った頃だろうか。
木々の先がぼんやりと明るくなっている場所を発見した。
それを見つけた瞬間、助かる保証もないのになぜかホッとした。
自然と胸が高鳴る。
早足でそちらへ向かう。
木々の開けたそこには……。
「湖……」
向こう岸まで見えないほどの広すぎる湖。
以前良く来ていた学院の湖に少し似ている。
しかし、その思い出の湖はここまで広いものではなかった。
全くの別のものはずだ。
それなのに、酷く懐かしい感情が胸にこみ上げてくる。
どうしてこんなに懐かしく思うんだろう。
澄んだ空気が似ているだけなのに。
……違う。
もっと昔に来たことがあるんだ。
そう、とても昔。
私がまだ生まれる前の、幼い頃に来たことが……。
『ねぇ***、どこへいくのですか?』
手を離さないよう、しっかりと握りしめていた。
深い深い森の中。
どうしても守りたくて。
そうするためにはここに来なければならなかった。
あの儀式を行うために。
でも恐らくあれをしたとしても、わたしはこの子を救えない。
それは夢で知っていた。
しかし、わたしではなくても。
きっと次には。
『ごめんね、本当はもっと早くに夢を見られれば良かったんだけど』
そう告げると、その子は不安そうな顔をしてわたしを見つめた。
それは恐怖からくるものというよりも。
わたしを心配している表情だった。
『大丈夫だよ。今の私には無理だけど』
握った手に、さらに力を込める。
『生まれ変わったら、絶対助けてみせるから』
そう告げるとその子は目を見開いた。
瞳が激しく揺れている。
まるで零れてしまいそうなほど大きな瞳に、意識が吸い込まれてしまいそうだと思った。
『死んじゃうの?』
その言葉にハッとした。
人に見つからないように昼休みまで時間を潰すためには、授業中誰も近づかないところに行くのが良いだろう。
そういうことに関しては、この広すぎる学院はとても都合がよかった。
この学院では貴族の令息令嬢がほとんどということもあり、有り余る土地を有意義に使っている。
校舎の周りは生い茂った木々に囲まれ、少し歩けば芝生が一面に広がるグラウンドがある。
中庭には美しい花々が咲き誇る花壇が四季を彩ってくれるし、気が向けば少し歩くが湖だって備わっているのだ。
王宮ほどの広さを有するこの学び舎は、まるで自然豊かな田舎にでも瞬間移動してきたかのような感覚にさせてくれる。
そうだ!
折角だから校内を散策しよう。
中等部にいたころはよく森林浴をしたり湖へ行ってぼんやり眺めたりしていたけれど、高等部に上がってからは遅く帰れないということもあってそっちの方に行けなくなっていた。
お父様の影が怖かったのもあるけど、そういうのをしていたのって休日が多かったのよね。
自然を眺めるているとすごく癒されるから好きなのよね。
それに。
きっとこの学院で自由に過ごせるのも残り僅かだろう。
いくら公爵家の令嬢といっても今後起こるであろう騒動を引き起こした張本人であれば、噂は瞬く間に広がる。
それは学院に留まらず、社交界にまで及ぶのは必然だろう。
それがお父様に伝わらないはずないのだ。
きっと監視がついたり放課後は真っ直ぐ帰らされたりして私の自由は本当に無くなってしまうだろう。
そうなれば、この学院を歩きまわる機会だってほとんどなくなってしまう。
益々自由が無くなることに少し息苦しくなるはずだ。
それに備えるためにも、今日は思いっきり羽を伸ばさせてもらおう。
「よし、じゃあさっそく森林浴でも……」
林へ一歩足を踏み入れた瞬間。
何かが視線の端を横切ったように見えた。
「?」
しかし、周りを見渡しても何もない。
「幻覚?」
いやいや。
そんなものを見るほど、精神的に参ってはいないのだけど。
一体何なのかしら。
そう思って振り返ると。
「あ、あれ?」
先ほどまで見慣れた景色だったはずなのに。
いつの間にか深い森の中へと迷い込んだかのように鬱蒼とした木々が私の周りを囲んでいた。
見えるはずの校舎さえ確認できない。
一体どういうこと?
そもそも学院の林ってこんなに鬱蒼としたものではなかったはず。
どうだったとしても一歩踏み出しただけでこんなに深いところまで歩けるはずないし。
もしかして魔法でも掛けられた?
でも一体誰が何の目的で?
そもそも本人に気づかれずにどこかへ飛ばす魔法なんて存在するのかしら。
ぐるぐると思考を巡らせても、今の私に打開策など見つかるはずがない。
それに、1つ重大な問題がある。
もし魔法でここに連れて来られたのだとしたら今私がいるのって学院じゃないかもしれない、ということ。
そう思うと急に不安な気持ちが込み上げてくる。
自分が今どこにいるのか全くわからない。
その恐怖心が徐々に私を侵していった。
「と、とりあえずどこかに……」
何かこの場所がどこなのかわかるような手がかりを見つけないと。
もしかしたらただの私の勘違いかもしれないし。
いや、多分そんな都合の良いことないと思うけど。
周りを必要以上に警戒しつつ、慎重に足を進める。
そうして歩みを進めて5分ほど経った頃だろうか。
木々の先がぼんやりと明るくなっている場所を発見した。
それを見つけた瞬間、助かる保証もないのになぜかホッとした。
自然と胸が高鳴る。
早足でそちらへ向かう。
木々の開けたそこには……。
「湖……」
向こう岸まで見えないほどの広すぎる湖。
以前良く来ていた学院の湖に少し似ている。
しかし、その思い出の湖はここまで広いものではなかった。
全くの別のものはずだ。
それなのに、酷く懐かしい感情が胸にこみ上げてくる。
どうしてこんなに懐かしく思うんだろう。
澄んだ空気が似ているだけなのに。
……違う。
もっと昔に来たことがあるんだ。
そう、とても昔。
私がまだ生まれる前の、幼い頃に来たことが……。
『ねぇ***、どこへいくのですか?』
手を離さないよう、しっかりと握りしめていた。
深い深い森の中。
どうしても守りたくて。
そうするためにはここに来なければならなかった。
あの儀式を行うために。
でも恐らくあれをしたとしても、わたしはこの子を救えない。
それは夢で知っていた。
しかし、わたしではなくても。
きっと次には。
『ごめんね、本当はもっと早くに夢を見られれば良かったんだけど』
そう告げると、その子は不安そうな顔をしてわたしを見つめた。
それは恐怖からくるものというよりも。
わたしを心配している表情だった。
『大丈夫だよ。今の私には無理だけど』
握った手に、さらに力を込める。
『生まれ変わったら、絶対助けてみせるから』
そう告げるとその子は目を見開いた。
瞳が激しく揺れている。
まるで零れてしまいそうなほど大きな瞳に、意識が吸い込まれてしまいそうだと思った。
『死んじゃうの?』
その言葉にハッとした。
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