悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

210.私にはいらないものだから

白銀の美しい御髪に、空を切り取ったような天色の瞳。
8歳のとき初めて見て以来ここまで鮮明に見たことはなかった。

あの時は気づかなかったが、やはり私と彼はどこか似ている。
瞳の色は以前から全く同じものだと思っていたけど、それだけじゃない。

でもそれが何なのか私にはわからなかった。

彼は私を真っ直ぐと見つめながら微笑みかける。

それはとても脆く儚いものだった。
まるで千年に一度咲く幻の花のように。

触れたら、一瞬で散ってしまうのではないかと思うほどに彼は危うかった。

「どうして? どうして貴方がここにいるの? ここは一体どこなの?」

盃の向こう側。
彼はただ、私を見つめたままそこにいた。

私の問いかけに答えることなく、彼はただ私に笑顔を向けるだけ。

その表情から、何かを訴えようとしているような。
とても大事な事を伝えようとしているような。

そう思うと、ただ彼を見つめることしかできなかった。

私がじっと見つめる中、リヴェリオはゆっくりと瞳を閉じる。
そして同じくらいゆっくりと瞳を開けた。

そこにあったのは、先ほどまでの穏やかな表情の彼ではなく。

とても苦しく、寂しそうな彼だった。

「……ごめんね」

その声には様々な感情が渦巻いていた。

一つだけわかるのは、彼が酷く傷ついているという事実。

彼の頬には、一筋の涙が零れていた。
あの部屋以外で、彼が泣いたことなどない。

それなのに、彼は涙を流している。

誰でもない。

私に対して。

「違う! 違うの! 私も、貴方も、同じ”わたし”だから! だから、私には! 私にだけは」

そんな感情、抱かなくていいの!

そう伝えたかった。

何より、愛する”私”だから。

でも、その声は届かない。
いや、始めから届くようなものではなかった。

恐らく、彼はそんなこと全て知っている。
私の思っていることも、感じていることも。

知っていて、言っているんだ。
私に。

そう、私自身に。

じゃあどうして。

彼は私に謝ったのだろう?

一体これから、私は何を受け止めなければならないのだろう。

彼が泣いてしまうほどの事とは一体……。

視界が徐々に滲んでいく。

どうして、私は泣いているのだろう。

ボロボロと零れ落ちる涙を止めることはできず、ただ彼を見つめたままそれを止められないでいた。

そんな私に彼は手を伸ばした。
滲んだ視界の中でも、彼が悲しんでいることがわかる。

違う。
違うの。

自分でもわからないの。

どうして泣いているのか。

だから、大丈夫だから。

どうか。

どうか……。

彼の指が私の頬に触れる直前。

私の右手から眩い光が放たれた。
その強く赤い光は空間全体を包み込み、リヴェリオの姿を掻き消していく。

手を伸ばそうとするも、彼に触れることはできなかった。

『主様っ!』

「キュウッ」

誰かが私を呼ぶ。
そこ声に答えることもできず、私は強すぎる光から自分の目を守るのに精一杯だった。

光に包み込まれた後、目を開けるとそこは木々の生い茂った林の中だった。

「え?」

いつの間にかまた違う場所に移動していた。
さっきまで立っていたはずなのに、なぜか地面にしりもちをついているのに困惑する。

見渡してみるも神殿もなければリーヴェもいない。

今度は一体どこへ来てしまったのだろう。

しかしよく周りを見渡すと、その答えはすぐに見つかった。
林が途切れた先に校舎を発見したのだ。
どうやらどことも知らない土地から戻ってこれたらしい。

でも、一体どうして?

その疑問に浸るのも束の間、右手の違和感に顔を顰めた。

右手が異様に熱い。
見てみると以前黒龍が私の手に刻んだ刻印が眩い光を放っている。

主様って言っていたし、やはり先ほどの声は黒龍だったのだろうか。
でも、どうして彼の声が聞こえたんだろう。

「キュウ」

そのとき何かの鳴き声が聞こえた。
そういえば黒龍の声が聞こえてきたときと同じタイミングで何か小さな動物の鳴き声みたいなのを聞いたきがする。
おそらくそれと同じものだ。

顔を上げると探す手間もなく、それはそこにいた。

真っ白な兎がそこにいて、青い瞳で真っ直ぐ私を見つめている。
その兎には見覚えがあった。

そう、母方の祖父母の家に行ったときに森で出会ったあの……。

「貴方もしかして、あの時の……」

「キュウ」

今のもしかして返事したとか?
いやいや、まさかね。

しかし何よ今の媚びるような泣き声は。
思わずキュンとしてしまったじゃないか。

かわいい。

さっきまでちょっとしんみりした気分だったから、今の可愛らしすぎる衝撃に思わず顔がにやけてしまう。

ちょっと、ちょっとぐらいなら……。

その毛玉に癒されようと手を伸ばしたとき。
またしても私の右手から赤い光が放たれた。

先ほどよりも強くはないが、ピリピリとした痛みが走る。
体が硬直した瞬間、またしても黒龍の声が聞こえた。

『主様、そいつに触れちゃダメだっ!』

やはりはっきりと彼の声が聞こえる。
しかし見渡しても黒龍はどこにもいない。

じゃあ一体どこから声が?

「もしかして、この刻印から声が聞こえるの?」

尚も光り続けている右手の甲を眼前へもってくると、そこに向けて話しかける。

『良かった。ちゃんと聞こえてたんだね』

安堵した黒龍の声が聞こえ、私の推測は確信に変わった。
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