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第5章
217.落ちる私
「これに覚えがない、と」
なんで。
どうして、私は止められなかったのだろう。
俯きながら後悔するがもう遅い。
また、セイラを傷つけた。
それも同じ手紙で2度も。
私の手紙は自分で聞いていても稚拙で、あまりにも幼稚な内容のもの。それでも読んでほしくなかったのは、彼女に向けた悪意は私自身、言いたくないようなものばかりだったから。
その内容が自分でも耐えられないから、手紙という内容で彼女に伝えたのに……。
「いいわ。もういいわよ」
私の口から出たその言葉は、おそらく心の底から思っていた言葉だった。
「その手紙の犯人は私。だってそうでしょう? あんなマナーもなってないような小娘と一緒の空間にいるってだけで嫌だったのよ。本当に、吐きそうなくらい」
淡々と。
ただ淡々と口が動く。
思考が停止してもなお、口は望むように言葉を紡いでくれている。
それが今の私にとって良いことなのか悪いことなのか。
もう私にはわからなかった。
「やっと認めたわね」
ナタリーは少し気の抜けたようではあったが、表情や言い方は険しいままだった。
対峙する私と彼女。
しかし、それはとある少女の一言で遮られた。
「やっぱり、犯人はエスティ様だったのですね……」
か細く弱弱しい、けれど美しい声が聞こえて思わずそちらに顔を向けた。
言葉を発した本人、セイラは俯きながら苦しそうな表情をしている。
彼女の姿を瞳に映した瞬間、私は気づく。
このまま落ち込んでいる場合じゃない。
彼女をこんなにも傷つけたのだ。
ならば絶対にこの計画を成功させなければ。
そうしなければ、セイラが可哀そうで……。
気を引き締め、先ほどの演技を思い出しながら大振りな仕草で訴える。
「だって、だって貴方が悪いのよ! 私の婚約者に馴れ馴れしくするから! だから私は」
私はセイラを睨みつけた。
しかし、私たちの視線がぶつかることはなかった。
ただただ俯く彼女に、私は容赦のない我が儘をぶつける令嬢になっていた。
俯いたままのセイラは、か細い声を絞り出した。
「私は、ただエスティ様と仲良くなりたかっただけです。確かにヴァリタス殿下は素敵な人です。でも、私は殿下を好きになったりしません。そうお伝えしました。それなのに、どうして……」
最後の方は、本当に小さな声だった。
「平民だった人間の言葉なんて、誰が信じられるのよ」
彼女の言葉を否定するつもりで発したものだった。
しかし、周りの人達はそうは受け取らなかった。
私の言葉を聞いた瞬間、全ての視線がピリ付いた。
オルタリア王国にとって、国民が何よりの財産。
その常識は貴族の中で十分浸透している。
だからこそ、貴族たちは守るべき民たちを大事にするのだ。
たとえそれが表面上のものであったとしても。
詰まるところ、今の私の発言は先ほどのものよりもっと問題になるということ。
先ほどの男爵を卑下するのとでは訳が違う。
だって貴族と平民は違うから。
「オルタリア王国の、しかも公爵令嬢である貴方がそんな考え方をするなんて……」
ナタリーが怯えた様子で言葉を震わせた。
「エスティ嬢。今の発言は民を統治する貴族令嬢が発して良いものではありません」
それは非常に冷たい声だった。
ヴァリタスは、私と距離を取るように言い放った。
婚約者としているというよりも、王族の1人として私に対峙しているように見えた。
まるで私を王子としての立場で叱責するように。
その姿に気づき、狼狽えるように怯える。
「なっ! ち、違うのです! 今のはその……。言葉の綾で!」
「いいえ違うわね! 貴方の手紙にも同じことが書いてあったもの。それはつまり、今の言葉が本心だったということでしょう?」
言い訳を聞いたナタリーが食い下がる。
言い返す言葉もなく、苦々しい表情を作ることしかできなかった。
「エスティ様」
凛とした声で私を呼ぶと、セイラが近づいてきた。
目の前まで来ると彼女の瞳の端が僅かに赤くなっていることに気づく。
一瞬、動揺してしまった。
恐らく、誰にも気づかれていないとは思うがこのまま彼女と面と向かって話すのは回避した方が良さそうだ。下手したら私の化けの皮が剥がれてしまう。
「貴方のような方にヴァリタス殿下は不釣り合いです。このままでは、あの方を不幸にする未来しか見えません。もしエスティ様の心に良心があるのでしたら……」
「ヴァリタス殿下との婚約を破棄していただけませんか?」
まるで戦線布告。
もしこの状況でなければ無礼だと叱責の嵐を食らっていたことだろう。
しかし周りの人々は誰も彼女に反論しない。
それどころか、その提案に頷くような空気が漂っていた。
まさか、彼女がここまで強い意志を持った姿を見せるとは思わなかった。凛とした声と表情。何か大事な事を決意したような彼女を見ると、いつもの可愛らしい彼女とはまるで別人のようにも見える。
私はその空気に耐えられなくなり、教室を勢いよく出ていった。
廊下にはすでに、野次馬で埋め付くされていたが私が通ると合わせたように道を開けていく。
まるで私が酷く穢れたもののように、触りたくない畏怖の存在を避けるように。
今日はこのまま図書室に籠ろう。
そして時間になったら真っ直ぐ帰ろう。
そう思った瞬間、胸を締め付ける痛みにやっと気づいた。
なんで。
どうして、私は止められなかったのだろう。
俯きながら後悔するがもう遅い。
また、セイラを傷つけた。
それも同じ手紙で2度も。
私の手紙は自分で聞いていても稚拙で、あまりにも幼稚な内容のもの。それでも読んでほしくなかったのは、彼女に向けた悪意は私自身、言いたくないようなものばかりだったから。
その内容が自分でも耐えられないから、手紙という内容で彼女に伝えたのに……。
「いいわ。もういいわよ」
私の口から出たその言葉は、おそらく心の底から思っていた言葉だった。
「その手紙の犯人は私。だってそうでしょう? あんなマナーもなってないような小娘と一緒の空間にいるってだけで嫌だったのよ。本当に、吐きそうなくらい」
淡々と。
ただ淡々と口が動く。
思考が停止してもなお、口は望むように言葉を紡いでくれている。
それが今の私にとって良いことなのか悪いことなのか。
もう私にはわからなかった。
「やっと認めたわね」
ナタリーは少し気の抜けたようではあったが、表情や言い方は険しいままだった。
対峙する私と彼女。
しかし、それはとある少女の一言で遮られた。
「やっぱり、犯人はエスティ様だったのですね……」
か細く弱弱しい、けれど美しい声が聞こえて思わずそちらに顔を向けた。
言葉を発した本人、セイラは俯きながら苦しそうな表情をしている。
彼女の姿を瞳に映した瞬間、私は気づく。
このまま落ち込んでいる場合じゃない。
彼女をこんなにも傷つけたのだ。
ならば絶対にこの計画を成功させなければ。
そうしなければ、セイラが可哀そうで……。
気を引き締め、先ほどの演技を思い出しながら大振りな仕草で訴える。
「だって、だって貴方が悪いのよ! 私の婚約者に馴れ馴れしくするから! だから私は」
私はセイラを睨みつけた。
しかし、私たちの視線がぶつかることはなかった。
ただただ俯く彼女に、私は容赦のない我が儘をぶつける令嬢になっていた。
俯いたままのセイラは、か細い声を絞り出した。
「私は、ただエスティ様と仲良くなりたかっただけです。確かにヴァリタス殿下は素敵な人です。でも、私は殿下を好きになったりしません。そうお伝えしました。それなのに、どうして……」
最後の方は、本当に小さな声だった。
「平民だった人間の言葉なんて、誰が信じられるのよ」
彼女の言葉を否定するつもりで発したものだった。
しかし、周りの人達はそうは受け取らなかった。
私の言葉を聞いた瞬間、全ての視線がピリ付いた。
オルタリア王国にとって、国民が何よりの財産。
その常識は貴族の中で十分浸透している。
だからこそ、貴族たちは守るべき民たちを大事にするのだ。
たとえそれが表面上のものであったとしても。
詰まるところ、今の私の発言は先ほどのものよりもっと問題になるということ。
先ほどの男爵を卑下するのとでは訳が違う。
だって貴族と平民は違うから。
「オルタリア王国の、しかも公爵令嬢である貴方がそんな考え方をするなんて……」
ナタリーが怯えた様子で言葉を震わせた。
「エスティ嬢。今の発言は民を統治する貴族令嬢が発して良いものではありません」
それは非常に冷たい声だった。
ヴァリタスは、私と距離を取るように言い放った。
婚約者としているというよりも、王族の1人として私に対峙しているように見えた。
まるで私を王子としての立場で叱責するように。
その姿に気づき、狼狽えるように怯える。
「なっ! ち、違うのです! 今のはその……。言葉の綾で!」
「いいえ違うわね! 貴方の手紙にも同じことが書いてあったもの。それはつまり、今の言葉が本心だったということでしょう?」
言い訳を聞いたナタリーが食い下がる。
言い返す言葉もなく、苦々しい表情を作ることしかできなかった。
「エスティ様」
凛とした声で私を呼ぶと、セイラが近づいてきた。
目の前まで来ると彼女の瞳の端が僅かに赤くなっていることに気づく。
一瞬、動揺してしまった。
恐らく、誰にも気づかれていないとは思うがこのまま彼女と面と向かって話すのは回避した方が良さそうだ。下手したら私の化けの皮が剥がれてしまう。
「貴方のような方にヴァリタス殿下は不釣り合いです。このままでは、あの方を不幸にする未来しか見えません。もしエスティ様の心に良心があるのでしたら……」
「ヴァリタス殿下との婚約を破棄していただけませんか?」
まるで戦線布告。
もしこの状況でなければ無礼だと叱責の嵐を食らっていたことだろう。
しかし周りの人々は誰も彼女に反論しない。
それどころか、その提案に頷くような空気が漂っていた。
まさか、彼女がここまで強い意志を持った姿を見せるとは思わなかった。凛とした声と表情。何か大事な事を決意したような彼女を見ると、いつもの可愛らしい彼女とはまるで別人のようにも見える。
私はその空気に耐えられなくなり、教室を勢いよく出ていった。
廊下にはすでに、野次馬で埋め付くされていたが私が通ると合わせたように道を開けていく。
まるで私が酷く穢れたもののように、触りたくない畏怖の存在を避けるように。
今日はこのまま図書室に籠ろう。
そして時間になったら真っ直ぐ帰ろう。
そう思った瞬間、胸を締め付ける痛みにやっと気づいた。
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お楽しみいただけると幸いです。