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第5章
219.お昼の校舎裏
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騒動から1週間もせず私の評判は地に落ちた。
以前から人を遠巻きにしてはいたが、それに拍車がかかった。面白いことに、半径1メートル以内に近寄ってくる人がいなくなっていた。
その評判は教師陣にも届いているようで、以前までは魔法学以外成績優秀な私に先生たちは優しかったが、今は見る影もない。
完全に私は、この学院で孤立していた。
人の口に蓋はできないと言うけれど、ここまで広がるのが早いなんて思わなかったわね。
手のひらを返されたところで、人間関係に頼った生活を送って来なかった私からすれば学院で一言も話さない状況に陥っても大したダメージは受けない。
ということで、今日も元気にぼっちめしを決め込もうか。
誰もいない校舎裏までは結構距離があるため本当は移動したくはないのだが、私が教室にいるとクラスメイト達が落ち着いてご飯を食べられなくなってしまうから致し方ない。
日の当たらない校舎裏はまず人が通らない。
辛うじてベンチはあるものの、白塗りの壁と林しか視界に入らない場所に誰が好き好んでくるのだという話だ。
「とはいえ、ここ結構寒いのよね……」
まだ9月下旬ともなれば少しづつ秋の気配を感じてくる季節。肌寒さも僅かに漂ってきているのと合わせて、日光の恩恵がないこの場所は食事をするのにそろそろ不適切な場所になりつつあった。
「そろそろ他の場所を探さなくちゃ」
お弁当を広げ咀嚼しながら呟く。
最近、ミリアを昼食に同伴させるのを辞めてしまったため、小さな呟きはどこにも届かず消えていった。騒ぎを起こしたあの日から、ミリアには学院で極力一緒にいないようにさせていた。
理由は私が彼女に甘えてしまうからだ。
あの日、どうやら相当精神的なダメージを負ってしまった私は、誰かが傍にいると甘えてしまいたくなってしょうがなくなってしまった。今のところ何とか抑えつけてはいるが、ずっと傍に居られてしまえばそのたがが外れてしまいそうで怖いのだ。
本当は一緒に通学するのも辞めにしようかと考えていたのだが、彼女が頑として譲らなかったため妥協案として行き帰りのみ行動を共にすることになった。
「これが貴方の望みってこと?」
「……ナタリー嬢」
草の踏みつける音がして誰かが来ていることには気づいていたが、ただ通りすがりだと思っていた。
そもそも彼女が私に用があるわけがない。
幻聴かとも一瞬考えたものの、はっきりと声が聞こえるし姿も見えるから、まだ私は正気を保っているということだろう。
「良かったじゃない。貴方の願い事が叶って。あの二人は今でも仲良く昼食を取っていて、以前より一層仲良くなっているわよ」
嫌味の籠った言い方をして、現状を伝えにきてくれるあたり、やっぱり彼女は優しい。え? そうじゃないって? まあまあいいじゃない。言葉の受け取り方なんて、人それぞれよ。
一週間ぶりに話をする彼女は、もう以前のような優しい態度を取ってくれることはないだろう。
もう、友情を育む必要もない。
私にとっては結構関わりやすい存在になってくれた。
「それは良かった。私の計画がやっと成功したのね」
穏やかな笑顔で答えると、ナタリーは眉を顰める。
恐らく彼女は私が落ち込んでいると思っていたのだろう。
それなのに、本人はいつもとあまり変わらない様子。
その予想外の私の姿に違和感を覚えたのだろう。
それもそのはず。
私は彼女に重要な事を伝えていなかった。
私の最も叶えたい願い。
1人で生きていきたいという願いを。
私の今の状況は夢に王手をかけたようなものだった。
あとはヴァリタスとの婚約が破棄できれば上がりなのだ。
心も穏やかになるというもの。
まぁ、今はちょっと居場所がなくて困ってはいるけれどね。
とはいえ、そんな些細な事に憂鬱になるなんてことはないのだ。
「普通の令嬢であれば、今頃学院を去っているぐらいな事だと思うのだけど」
「普通の令嬢なら、ね」
令嬢と社交界は切っても切れない間柄。
社交界とは噂好きで、一度悪い評判が流布すればいつまで経っても言われ続けるのが常である。
居心地の悪い居場所と一生過ごす事など、令嬢や夫人にとっては拷問にもなるだろう。
そんな人生を送るぐらいなら、さっさと手放したほうが良い。
それに、貴族とは噂や評判に敏感だ。
自分の息子娘に悪評がつけば遠ざけるのは貴族として当然のことである。
それなのに私は学院に残っている。
つまり、本人か当主、またはその両方が学院を去るという選択をまだ行っていないということ。
1週間も経っているのにこの状況というのは、貴族の間では非常に奇妙な事なのだ。
本当の事をいえば、婚約破棄をされるまではここに在籍しなければならないというわがままなだけだし、父にとってすれば私の悪評が広まれば広まるほどシルビアとヴァリタスとの婚約が近づくからという
考えか何かがあるだけだとは思うが。そんな事を知らないナタリーにとってみれば、ベルフェリト家は相当おかしな人たちだと思われても仕方ないだろう。
以前から人を遠巻きにしてはいたが、それに拍車がかかった。面白いことに、半径1メートル以内に近寄ってくる人がいなくなっていた。
その評判は教師陣にも届いているようで、以前までは魔法学以外成績優秀な私に先生たちは優しかったが、今は見る影もない。
完全に私は、この学院で孤立していた。
人の口に蓋はできないと言うけれど、ここまで広がるのが早いなんて思わなかったわね。
手のひらを返されたところで、人間関係に頼った生活を送って来なかった私からすれば学院で一言も話さない状況に陥っても大したダメージは受けない。
ということで、今日も元気にぼっちめしを決め込もうか。
誰もいない校舎裏までは結構距離があるため本当は移動したくはないのだが、私が教室にいるとクラスメイト達が落ち着いてご飯を食べられなくなってしまうから致し方ない。
日の当たらない校舎裏はまず人が通らない。
辛うじてベンチはあるものの、白塗りの壁と林しか視界に入らない場所に誰が好き好んでくるのだという話だ。
「とはいえ、ここ結構寒いのよね……」
まだ9月下旬ともなれば少しづつ秋の気配を感じてくる季節。肌寒さも僅かに漂ってきているのと合わせて、日光の恩恵がないこの場所は食事をするのにそろそろ不適切な場所になりつつあった。
「そろそろ他の場所を探さなくちゃ」
お弁当を広げ咀嚼しながら呟く。
最近、ミリアを昼食に同伴させるのを辞めてしまったため、小さな呟きはどこにも届かず消えていった。騒ぎを起こしたあの日から、ミリアには学院で極力一緒にいないようにさせていた。
理由は私が彼女に甘えてしまうからだ。
あの日、どうやら相当精神的なダメージを負ってしまった私は、誰かが傍にいると甘えてしまいたくなってしょうがなくなってしまった。今のところ何とか抑えつけてはいるが、ずっと傍に居られてしまえばそのたがが外れてしまいそうで怖いのだ。
本当は一緒に通学するのも辞めにしようかと考えていたのだが、彼女が頑として譲らなかったため妥協案として行き帰りのみ行動を共にすることになった。
「これが貴方の望みってこと?」
「……ナタリー嬢」
草の踏みつける音がして誰かが来ていることには気づいていたが、ただ通りすがりだと思っていた。
そもそも彼女が私に用があるわけがない。
幻聴かとも一瞬考えたものの、はっきりと声が聞こえるし姿も見えるから、まだ私は正気を保っているということだろう。
「良かったじゃない。貴方の願い事が叶って。あの二人は今でも仲良く昼食を取っていて、以前より一層仲良くなっているわよ」
嫌味の籠った言い方をして、現状を伝えにきてくれるあたり、やっぱり彼女は優しい。え? そうじゃないって? まあまあいいじゃない。言葉の受け取り方なんて、人それぞれよ。
一週間ぶりに話をする彼女は、もう以前のような優しい態度を取ってくれることはないだろう。
もう、友情を育む必要もない。
私にとっては結構関わりやすい存在になってくれた。
「それは良かった。私の計画がやっと成功したのね」
穏やかな笑顔で答えると、ナタリーは眉を顰める。
恐らく彼女は私が落ち込んでいると思っていたのだろう。
それなのに、本人はいつもとあまり変わらない様子。
その予想外の私の姿に違和感を覚えたのだろう。
それもそのはず。
私は彼女に重要な事を伝えていなかった。
私の最も叶えたい願い。
1人で生きていきたいという願いを。
私の今の状況は夢に王手をかけたようなものだった。
あとはヴァリタスとの婚約が破棄できれば上がりなのだ。
心も穏やかになるというもの。
まぁ、今はちょっと居場所がなくて困ってはいるけれどね。
とはいえ、そんな些細な事に憂鬱になるなんてことはないのだ。
「普通の令嬢であれば、今頃学院を去っているぐらいな事だと思うのだけど」
「普通の令嬢なら、ね」
令嬢と社交界は切っても切れない間柄。
社交界とは噂好きで、一度悪い評判が流布すればいつまで経っても言われ続けるのが常である。
居心地の悪い居場所と一生過ごす事など、令嬢や夫人にとっては拷問にもなるだろう。
そんな人生を送るぐらいなら、さっさと手放したほうが良い。
それに、貴族とは噂や評判に敏感だ。
自分の息子娘に悪評がつけば遠ざけるのは貴族として当然のことである。
それなのに私は学院に残っている。
つまり、本人か当主、またはその両方が学院を去るという選択をまだ行っていないということ。
1週間も経っているのにこの状況というのは、貴族の間では非常に奇妙な事なのだ。
本当の事をいえば、婚約破棄をされるまではここに在籍しなければならないというわがままなだけだし、父にとってすれば私の悪評が広まれば広まるほどシルビアとヴァリタスとの婚約が近づくからという
考えか何かがあるだけだとは思うが。そんな事を知らないナタリーにとってみれば、ベルフェリト家は相当おかしな人たちだと思われても仕方ないだろう。
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