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第5章
224.呼び出し
昨日の投稿が重複となっておりました。
申し訳ありません……。本日は2話分投稿いたします。
***
「昔、黒い病が流行ったとき、とある聖人たちが病人に使っていたんだ。痛みに泣き叫ぶ病人を見ていられなかったのかもしれないね」
「へぇ」
黒い病ってなんだろう。
確か似たような名前の病気が、西の方の地域で流行っていたような記憶があるけれど。
遠い地の話だからか、あまり覚えていない。
しかし、そんな魔法の使い方をしていたなんて初めて知った。
彼女は魔法にも歴史にも詳しいのかもしれない。
「シリウスって魔法や歴史が得意なのね」
「違うよ」
そういうと、彼女は時計を背に私に微笑む。
逆光の中、彼女の青い瞳だけがぼんやりと光っている。
鋭い瞳に、私は妙な既視感を覚えた。
「私はそれを見てきたから。だから知っているのさ」
え?
「それって――――」
ゴーンゴーンゴーン
鐘の音が響き渡った。
昼休みの終わりを知らせるチャイムだ。
「さぁ、昼休みはおしまいだ。はやく教室に戻らなければ、先生に怒られてしまうよ」
「え、ええ」
僅かに灯った疑問を口にすることもできず、私たちは時計塔を後にした。
授業に出ても、意識がぼうっとしてしまう。あの日から数日経っていたが、あの時感じた疑問をシリウスにはまだ話せていない。
出会ってから数日しか経っていないとはいえ、彼女と私にははっきりとした壁があった。その壁のおかげで私たちの仲は保たれている。しかし、この話をして彼女との仲が壊れてしまうのではないかと思うと怖くて話を切り出せないのだ。
それはきっと友情を大事にしているとかではなく。
ただ居心地の良い関係が無くなってしまうのが怖いのだと思う。
はぁ。
それでもやっぱり聞き出さなきゃいけないような気がするのよね。
私の見立てが正しければ、彼女はおそらく人間ではない。
でも、それならどうしてあんな姿で現れたのか。
それに、もしその予想が外れていたら……。
そう思うと、どうしても口には出せなかった。
と、そんなことをぼんやりと考えている間に鐘が3回鳴ってしまった。
午前の授業が終わった合図だ。
どうせ今日も話題には出せないのだろうなぁ。
まぁ別にいいか。
この距離感が私には心地良い。
それに相手が人間でないのならそっちの方が都合が良いのは確かだし。
さて、今日もいつものごとく図書館に行こうかな。
席を立ち鞄からお昼を取り出すと教室の外へと向かおうとしたところで足を止めた。
教室のドアに誰かいたからだ。
今、一番会いたくない相手がそこにいた。
声を掛けられたクラスメイトが彼の話を聞き、こちらへ振り向いて私を呼ぶ。
「ベルフェリト様、ヴァリタス殿下が……」
クラスメイトが放った言葉が私の心を凍らせる。
言いえぬ不安が私を支配した。
久しぶりの校舎裏は以前とは比べ物にならないほど冷え切っていた。
まさかここがこんなに寒くなるなんて思わなかった。
良かった、早めに場所を移動して正解だったわけね。
そんな現実逃避をしていると、先導して歩いていた殿下が歩みを止めた。
私も彼に合わせる形で歩みを止める。
ゆっくり振り返った彼の表情には温度が感じられない。
まるで氷のように冷たい視線で私を見つめていた。
以前は絶対に想像もできないようなもの。
ずっと私が求めていたものだった。
少しだけ揺れた心に鞭を打つ。
しっかりして、私。
この瞳なんて、慣れたものでしょう。
やり返すように私も同じような瞳で彼を見つめ返す。
すると彼は、さらに目を細めて不快そうな顔をした。
「久しぶりですね、エスティ」
「……そうですわね、殿下」
少しの沈黙が場を包む。
空気が気まずすぎて、何とか声を絞り出した。
「まさか殿下から話しかけてくださるなんて! とっても嬉しいですわ」
無理やり笑いかける。
こういう風に媚を売る女を男の人は嫌う傾向にあるって小説で書いてあった。
今更演技する必要もないのかもしれないけど、何も言わないよりましだ。
空気が重すぎて耐えられないのだもの。
私の努力が功を奏したのか、私の言葉を完全に無視すると彼は冷たい声を出した。
「今度、また王宮へ来てください。客人が来るので、歓迎会をするのです」
「客人?」
予想と反した言葉に思わず聞き返してしまった。
王宮に客人?
しかも私を招くほどの人って一体……。
「パーティーでも開くのですか?」
思った疑問を口に出す。
彼は会話しているのにも関わらず、私の方を一切見ずに答えた。
「そこまで大きなものではありません。相手もお忍びで来るので、あまり公にはできないのです」
「はぁ……」
王宮がそこまで気を遣う客人とは一体誰なのだろう。
でも今の彼に聞いても、答えてくれないような気がした。
本当はドレスを選ぶにもそういった情報は必要なのだが、彼に言っても仕方ないか。
しょうがない、とりあえず日程だけでも聞いておこう。
「その催しはいつなのですか?」
無理やり笑顔を作り優しげな声を出した。
こちらが歩み寄っているのにも関わらず、彼はそっけない。
せめて表面上だけでも繕ってほしいのだけど。
まぁ、それをしたくなくて場所を移動したのだろうけど。
「今度の土曜日ですね」
「どっ――――」
土曜日⁈
それって明後日じゃない!!
どうしてそんな急に言うのよ!
これからドレスや装飾品を揃えないといけないのに、どうしてそんな直前になって……。
これは意地悪されているとしか思えない。
申し訳ありません……。本日は2話分投稿いたします。
***
「昔、黒い病が流行ったとき、とある聖人たちが病人に使っていたんだ。痛みに泣き叫ぶ病人を見ていられなかったのかもしれないね」
「へぇ」
黒い病ってなんだろう。
確か似たような名前の病気が、西の方の地域で流行っていたような記憶があるけれど。
遠い地の話だからか、あまり覚えていない。
しかし、そんな魔法の使い方をしていたなんて初めて知った。
彼女は魔法にも歴史にも詳しいのかもしれない。
「シリウスって魔法や歴史が得意なのね」
「違うよ」
そういうと、彼女は時計を背に私に微笑む。
逆光の中、彼女の青い瞳だけがぼんやりと光っている。
鋭い瞳に、私は妙な既視感を覚えた。
「私はそれを見てきたから。だから知っているのさ」
え?
「それって――――」
ゴーンゴーンゴーン
鐘の音が響き渡った。
昼休みの終わりを知らせるチャイムだ。
「さぁ、昼休みはおしまいだ。はやく教室に戻らなければ、先生に怒られてしまうよ」
「え、ええ」
僅かに灯った疑問を口にすることもできず、私たちは時計塔を後にした。
授業に出ても、意識がぼうっとしてしまう。あの日から数日経っていたが、あの時感じた疑問をシリウスにはまだ話せていない。
出会ってから数日しか経っていないとはいえ、彼女と私にははっきりとした壁があった。その壁のおかげで私たちの仲は保たれている。しかし、この話をして彼女との仲が壊れてしまうのではないかと思うと怖くて話を切り出せないのだ。
それはきっと友情を大事にしているとかではなく。
ただ居心地の良い関係が無くなってしまうのが怖いのだと思う。
はぁ。
それでもやっぱり聞き出さなきゃいけないような気がするのよね。
私の見立てが正しければ、彼女はおそらく人間ではない。
でも、それならどうしてあんな姿で現れたのか。
それに、もしその予想が外れていたら……。
そう思うと、どうしても口には出せなかった。
と、そんなことをぼんやりと考えている間に鐘が3回鳴ってしまった。
午前の授業が終わった合図だ。
どうせ今日も話題には出せないのだろうなぁ。
まぁ別にいいか。
この距離感が私には心地良い。
それに相手が人間でないのならそっちの方が都合が良いのは確かだし。
さて、今日もいつものごとく図書館に行こうかな。
席を立ち鞄からお昼を取り出すと教室の外へと向かおうとしたところで足を止めた。
教室のドアに誰かいたからだ。
今、一番会いたくない相手がそこにいた。
声を掛けられたクラスメイトが彼の話を聞き、こちらへ振り向いて私を呼ぶ。
「ベルフェリト様、ヴァリタス殿下が……」
クラスメイトが放った言葉が私の心を凍らせる。
言いえぬ不安が私を支配した。
久しぶりの校舎裏は以前とは比べ物にならないほど冷え切っていた。
まさかここがこんなに寒くなるなんて思わなかった。
良かった、早めに場所を移動して正解だったわけね。
そんな現実逃避をしていると、先導して歩いていた殿下が歩みを止めた。
私も彼に合わせる形で歩みを止める。
ゆっくり振り返った彼の表情には温度が感じられない。
まるで氷のように冷たい視線で私を見つめていた。
以前は絶対に想像もできないようなもの。
ずっと私が求めていたものだった。
少しだけ揺れた心に鞭を打つ。
しっかりして、私。
この瞳なんて、慣れたものでしょう。
やり返すように私も同じような瞳で彼を見つめ返す。
すると彼は、さらに目を細めて不快そうな顔をした。
「久しぶりですね、エスティ」
「……そうですわね、殿下」
少しの沈黙が場を包む。
空気が気まずすぎて、何とか声を絞り出した。
「まさか殿下から話しかけてくださるなんて! とっても嬉しいですわ」
無理やり笑いかける。
こういう風に媚を売る女を男の人は嫌う傾向にあるって小説で書いてあった。
今更演技する必要もないのかもしれないけど、何も言わないよりましだ。
空気が重すぎて耐えられないのだもの。
私の努力が功を奏したのか、私の言葉を完全に無視すると彼は冷たい声を出した。
「今度、また王宮へ来てください。客人が来るので、歓迎会をするのです」
「客人?」
予想と反した言葉に思わず聞き返してしまった。
王宮に客人?
しかも私を招くほどの人って一体……。
「パーティーでも開くのですか?」
思った疑問を口に出す。
彼は会話しているのにも関わらず、私の方を一切見ずに答えた。
「そこまで大きなものではありません。相手もお忍びで来るので、あまり公にはできないのです」
「はぁ……」
王宮がそこまで気を遣う客人とは一体誰なのだろう。
でも今の彼に聞いても、答えてくれないような気がした。
本当はドレスを選ぶにもそういった情報は必要なのだが、彼に言っても仕方ないか。
しょうがない、とりあえず日程だけでも聞いておこう。
「その催しはいつなのですか?」
無理やり笑顔を作り優しげな声を出した。
こちらが歩み寄っているのにも関わらず、彼はそっけない。
せめて表面上だけでも繕ってほしいのだけど。
まぁ、それをしたくなくて場所を移動したのだろうけど。
「今度の土曜日ですね」
「どっ――――」
土曜日⁈
それって明後日じゃない!!
どうしてそんな急に言うのよ!
これからドレスや装飾品を揃えないといけないのに、どうしてそんな直前になって……。
これは意地悪されているとしか思えない。
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お楽しみいただけると幸いです。