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第5章
230.明ける名前
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聖女様の魔法に反応したように胸元が光出す。
途端にひどく熱くなった。
じりじりとした痛みを伴って、文字が浮かびあがっていく。
全ての文字が光によって描かれた後、それは私の体の中へと落ちていく。
その光は体に触れた瞬間、刻み込むように赤く変色した。
”リヴェリオ・ヴァン・オルフェリウス”
今とは少し形の違うその綴りに懐かしさを覚える。
まるで久しぶりにあった古い友人の名前を見たときのような感覚。
今は亡き、故郷に帰ってきたような寂しさと暖かさを感じた。
しかし今はその心地よい郷愁に浸っている暇などない。
その場にいる誰の顔も見る勇気もなく、俯いた。
「やはり……」
コツコツと小気味のよい音を立てながらヴァリタスが近づいてくる。
彼は私の目の前まで来ると、胸元を乱暴に掴んだ。
更に胸元が開いたことで、赤く刻まれた彼の名前が露わになる。
「ずっと僕を騙してたんだな」
淡々とした声色に感情は読み取れない。
しかし鋭い瞳には光がなく、彼の怒りがどれほどのものなのかを示しているようだった。
一瞬見えた彼の顔が恐ろしくて、さらに顔を下に下げた。
私の反応の薄さにに苛立ったのか、彼は私の体を揺すりながら訴えた。
「何とか言ったらどうなんだ。ずっと僕を騙して、一体どんな気分だったんだ?」
彼の怒りも、苛立ちも理解できる。
理解できるけど……。
私にだって事情があった。
どうしても、彼に言えない事情が。
しかし訴えたところでどうなるというのか。
本当の事を言って、ヴァリタスが満足するか?
そんな都合の良い事、考えられない。
「さぞ滑稽だっただろう? 面白かったか? 殺したいほど憎んだ奴の生れ変わりを好きになった僕を見るのは!」
目の前に映る彼の表情はまるで鬼のよう。
憎しみと怒りで支配されていた。
こんな風に彼を変えてしまいたくなかった。
できることなら、あの温厚な彼のままでいてほしかった。
しかしこうしてしまったのは私。
ならばちゃんと責任は取るべきなのだろう。
「面白かった、ですって?」
笑いを堪えるようにそう呟く。
彼にだけ聞こえる声で。
「当たり前だろ! だってお前は私の事など何も知らないしわからない。どれだけ傍にいても、理解なんてしない! そんなの娯楽を見せられて笑わない方がおかしいだろ。馬鹿みたいなお前が私の言葉で一喜一憂している姿だぞ!」
高笑いをしようと上を向く。
そうして出した声はただの嗚咽にしかならなかった。
いつの間にか零れた涙を拭うこともできない。
それでも激情に任せて私は怒号を上げる。
「私はリヴェリオじゃない。でも、私は彼の願いを叶える。だって私は彼を、自分を愛してるから。たとえどんな犠牲を払ったとしても――――」
「私は私の願いを叶える」
例え彼がその言葉をどう受け止めようと関係ない。
ただ彼を突き放せればそれでよかった。
だからといって、今の言葉が嘘だということはない。
多少妥協はしたけれど私は絶対に幸せになる。
そのためならどんなものも捧げると決めた。
私が犠牲にできるものなど、私の持つ感情しかないとはわかっている。
掃き溜めに捨てるしかできない感情なんて犠牲にしても、大したものにはならないことも。
それでもそれが私にとっての精一杯の犠牲だった。
虚勢であることは重々承知している。
しかし私のそれは彼には相当効いたもののようだった。
ヴァリタスは乱暴に私の顔を掴むと強引に顔を上げさせた。
人形のような虚ろな顔が目に入る。
赤い瞳が黒く染まり、そこには漆黒の闇が広がっていた。
「好きにすれば良い。その前にお前を消してしまえば良いだけなのだから」
首に手を掛けられ、グッと力を込められる。
私の目に、にやりと笑う彼の顔が見えた。
いやっ!
まだ死にたくない!
ヴァリタスの手を振りほどこうと、必死に抵抗する。
しかしいくら力を入れても、彼の手を引っ掻いても力が緩まることはなかった。
反対に徐々に力は強くなっていく。
周りにいた3人もはじめはその光景に茫然と見つめているだけだったが、目の前の光景に頭が追い付くと彼を止めようと駆け寄ってきた。しかし3人はヴァリタスに触れることもできず、何かにぶつかったと思ったら体が跳ね返された。
まるで光のか壁に遮られたように。
尚も近づくものの、途中でそれは遮られてしまう。
どうやら私たちから2歩ぐらい先に結界のようなものが張られており、近づけないようになっているようだ。
誰も彼を止められない。
彼は私を本気で殺すつもりなのだ。
ああ、やっぱり。
彼は私を許しはしない。
生まれ変わっても、私たちはこうして殺し殺される。
巡る運命に抗うことはできないのだ。
例え今逃げて、平穏な暮らしを手に入れたとしても私はその先に何を願うのだろう。手に入れた瞬間、目的もなく彷徨う亡霊となるのか。それとも、本当に叶えたかった願いを乞うあまり失意に沈むのか。
それなら。
もしそうやって命を浪費してしまうのなら。
今ここで、彼のために死んだ方が良いのではないだろうか。
途端にひどく熱くなった。
じりじりとした痛みを伴って、文字が浮かびあがっていく。
全ての文字が光によって描かれた後、それは私の体の中へと落ちていく。
その光は体に触れた瞬間、刻み込むように赤く変色した。
”リヴェリオ・ヴァン・オルフェリウス”
今とは少し形の違うその綴りに懐かしさを覚える。
まるで久しぶりにあった古い友人の名前を見たときのような感覚。
今は亡き、故郷に帰ってきたような寂しさと暖かさを感じた。
しかし今はその心地よい郷愁に浸っている暇などない。
その場にいる誰の顔も見る勇気もなく、俯いた。
「やはり……」
コツコツと小気味のよい音を立てながらヴァリタスが近づいてくる。
彼は私の目の前まで来ると、胸元を乱暴に掴んだ。
更に胸元が開いたことで、赤く刻まれた彼の名前が露わになる。
「ずっと僕を騙してたんだな」
淡々とした声色に感情は読み取れない。
しかし鋭い瞳には光がなく、彼の怒りがどれほどのものなのかを示しているようだった。
一瞬見えた彼の顔が恐ろしくて、さらに顔を下に下げた。
私の反応の薄さにに苛立ったのか、彼は私の体を揺すりながら訴えた。
「何とか言ったらどうなんだ。ずっと僕を騙して、一体どんな気分だったんだ?」
彼の怒りも、苛立ちも理解できる。
理解できるけど……。
私にだって事情があった。
どうしても、彼に言えない事情が。
しかし訴えたところでどうなるというのか。
本当の事を言って、ヴァリタスが満足するか?
そんな都合の良い事、考えられない。
「さぞ滑稽だっただろう? 面白かったか? 殺したいほど憎んだ奴の生れ変わりを好きになった僕を見るのは!」
目の前に映る彼の表情はまるで鬼のよう。
憎しみと怒りで支配されていた。
こんな風に彼を変えてしまいたくなかった。
できることなら、あの温厚な彼のままでいてほしかった。
しかしこうしてしまったのは私。
ならばちゃんと責任は取るべきなのだろう。
「面白かった、ですって?」
笑いを堪えるようにそう呟く。
彼にだけ聞こえる声で。
「当たり前だろ! だってお前は私の事など何も知らないしわからない。どれだけ傍にいても、理解なんてしない! そんなの娯楽を見せられて笑わない方がおかしいだろ。馬鹿みたいなお前が私の言葉で一喜一憂している姿だぞ!」
高笑いをしようと上を向く。
そうして出した声はただの嗚咽にしかならなかった。
いつの間にか零れた涙を拭うこともできない。
それでも激情に任せて私は怒号を上げる。
「私はリヴェリオじゃない。でも、私は彼の願いを叶える。だって私は彼を、自分を愛してるから。たとえどんな犠牲を払ったとしても――――」
「私は私の願いを叶える」
例え彼がその言葉をどう受け止めようと関係ない。
ただ彼を突き放せればそれでよかった。
だからといって、今の言葉が嘘だということはない。
多少妥協はしたけれど私は絶対に幸せになる。
そのためならどんなものも捧げると決めた。
私が犠牲にできるものなど、私の持つ感情しかないとはわかっている。
掃き溜めに捨てるしかできない感情なんて犠牲にしても、大したものにはならないことも。
それでもそれが私にとっての精一杯の犠牲だった。
虚勢であることは重々承知している。
しかし私のそれは彼には相当効いたもののようだった。
ヴァリタスは乱暴に私の顔を掴むと強引に顔を上げさせた。
人形のような虚ろな顔が目に入る。
赤い瞳が黒く染まり、そこには漆黒の闇が広がっていた。
「好きにすれば良い。その前にお前を消してしまえば良いだけなのだから」
首に手を掛けられ、グッと力を込められる。
私の目に、にやりと笑う彼の顔が見えた。
いやっ!
まだ死にたくない!
ヴァリタスの手を振りほどこうと、必死に抵抗する。
しかしいくら力を入れても、彼の手を引っ掻いても力が緩まることはなかった。
反対に徐々に力は強くなっていく。
周りにいた3人もはじめはその光景に茫然と見つめているだけだったが、目の前の光景に頭が追い付くと彼を止めようと駆け寄ってきた。しかし3人はヴァリタスに触れることもできず、何かにぶつかったと思ったら体が跳ね返された。
まるで光のか壁に遮られたように。
尚も近づくものの、途中でそれは遮られてしまう。
どうやら私たちから2歩ぐらい先に結界のようなものが張られており、近づけないようになっているようだ。
誰も彼を止められない。
彼は私を本気で殺すつもりなのだ。
ああ、やっぱり。
彼は私を許しはしない。
生まれ変わっても、私たちはこうして殺し殺される。
巡る運命に抗うことはできないのだ。
例え今逃げて、平穏な暮らしを手に入れたとしても私はその先に何を願うのだろう。手に入れた瞬間、目的もなく彷徨う亡霊となるのか。それとも、本当に叶えたかった願いを乞うあまり失意に沈むのか。
それなら。
もしそうやって命を浪費してしまうのなら。
今ここで、彼のために死んだ方が良いのではないだろうか。
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