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第5章
234.忍び込む来訪者
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私の顔を見て、黒龍は何かを感じたのか私から数歩離れると明るい調子で言った。
「主様がそこにいるだけで、僕は幸せなんだ。だから主様は難しく考えなくて良いんだよ。今ここに存在しているだけで、ぼくは……幸せだから」
吹っ切ったように笑う。
その笑顔は何かを諦めた訳でも、自棄になったわけでもなさそうなものだった。
恐らく彼は心の底からそう思っているのだろう。
「主様、傍にいなくても良い。僕を忘れてしまったって構わない。ただ……、ただ、貴方に生きていてほしい。僕の願いはそれだけなんだよ」
真っ直ぐ見つめる。
「今も昔も、それは変わらない」
まるで愛の告白だ。
でもそれは恋愛とかの男女が抱く類の愛じゃない。
もっと根本の、存在への愛。
彼にとって私は、生きる意味そのもの。
そう理解したとき、私は彼が酷く寂しい存在に見えて仕方なかった。
ずっと待っていた存在に忘れられて、それでも良いから生きていて欲しいなんて願うなんて。
なんて寂しいんだろう。
それと同時に思い知らされる。
リーヴェはちゃんと、この子に愛されていた。
それだけで、報われているような感覚に落とされる。
しかしそれは、この子の存在を犠牲にして証明しているようなもの。
彼の感情を犠牲にしてしまうものだ。
そんなものをリーヴェは欲しがっているのだろうか。
本当に?
本当にあの優しい王様がそんな事願うだろうか。
この子にそんな目にあってほしくない。
そこまで自分を犠牲にしてほしくなんかない。
きっとそう思っているはず。
なら、どうすれば良い?
どうすればこの子を救える?
どうすればこの子をリーヴェから解放できるのだろう。
ただそう思ってしまった。
本当はそんなの、黒龍の為にはならないと知っているのに。
いつの間にか目の前まで黒龍が近づいてきており、俯いた私の顔を覗いた。
「それとも、主様は僕がいて迷惑?」
「そ、そんなことは」
ないの、だけれど……。
どう返せばよいのかわからず、目を泳がせる。
黒龍が願う事ってなんだろう。
ちゃんと考えなければならない。
私が楽になりたいとか、そういうのではなく。
本当に黒龍が幸せになる未来を、見つけなければ。
そうでなければ200年もの間、主を待っていた彼が報われない。
私は黒龍の手を取ると、強く握りしめた。
「ねぇ、もし私が出来ることがあるなら、なんでもするから。だから私になんでも言ってね」
一瞬きょとんとした顔が子供のようだった。
そういう表情を見ると、まるで中身まで少年のように見える。
「いきなりどうしたの?」
少し照れくさそうに笑う彼の手をさらに強く握りしめた。
私の思いが伝わったのか、次第に真剣な表情に変わると恐る恐る口を開く。
「じゃあ、1つだけ……」
躊躇いがちに目を泳がせながら私を見た。
僅かに纏った寂しさに心が揺れた。
「もしも、どんなに辛い事があったとしても」
「生きることを、諦めないでほしい」
一瞬、時が止まったような気がした。
私には叶えられるような気がしなかったからだ。
でも、彼が願ったことなら叶えると決めた以上、自分の心を偽ることはしたくない。
何より、ここで頷かなければ黒龍をもっと不幸にしてしまうだろう。
躊躇いを諭されぬよう、必死に笑顔を作ると彼の言葉に頷いた。
「わかった。絶対に叶えるわ。約束よ」
「うん。絶対だからね」
2人して微笑み合うが、きっと黒龍は心の底から私を信じてはいない。
それが私にとって辛い事だと知っているから。
それでも願ってくれた彼の思いを失いたくない。
これから何が起こるかわからないけれど。
黒龍の願う未来が来ることを、願わずにはいられなかった。
***
屋敷に帰ると、一目散に自室へ行きベッドに倒れ込んだ。
今日は一日の間に色々あり過ぎて疲れた。
時計を見るともう夕方だ。
寝転んだまま横目に窓を見ると、確かに外はオレンジ色に染まっている。
馬車で外の景色を見ながら帰ってきたはずなのに、そんな事にも気づいていないとは。
相当上の空だったのだろう。
とりあえず起きて紅茶でも貰おうかしら。
そう思いミリアを呼んだ。
しかし、彼女が再び戻って来たときあり得ないお客を連れてきた。
「どうも~。さっきぶりなのですぅ」
「せ、聖女様!!」
思わず座っていた椅子の背もたれに縋るように両手をつけて驚いてしまう。
なぜ彼女がここにいるのか、全く理解できなかった。
「いやぁ、どうすればこちらにお邪魔できるのか途方に暮れていたときに、丁度このお嬢さんが通りかかりましてね。案内してもらっちゃいました」
「窓からこちらを覗いていたので、不審者かと思って声を掛けたら捕まってしまいまして……」
じとっとした目で聖女様を見つめるミリア。
そんな彼女の視線など意に介さず、聖女様は私の向かいにある客用の椅子にひょいっと座った。
「それにしても、お嬢さん。相当すごい魔力の持ち主ですねぇ。世が世なら聖女も夢じゃないですよ」
ミリアは聖女様の言葉にさらに機嫌を悪くしたのか、さらに威嚇するような視線を向ける。
だが、彼女の指すような視線もきゃっきゃと笑いながら受け流していた。
この人見た目は同じだけど、さっき会った時と全くの別人みたい。
「主様がそこにいるだけで、僕は幸せなんだ。だから主様は難しく考えなくて良いんだよ。今ここに存在しているだけで、ぼくは……幸せだから」
吹っ切ったように笑う。
その笑顔は何かを諦めた訳でも、自棄になったわけでもなさそうなものだった。
恐らく彼は心の底からそう思っているのだろう。
「主様、傍にいなくても良い。僕を忘れてしまったって構わない。ただ……、ただ、貴方に生きていてほしい。僕の願いはそれだけなんだよ」
真っ直ぐ見つめる。
「今も昔も、それは変わらない」
まるで愛の告白だ。
でもそれは恋愛とかの男女が抱く類の愛じゃない。
もっと根本の、存在への愛。
彼にとって私は、生きる意味そのもの。
そう理解したとき、私は彼が酷く寂しい存在に見えて仕方なかった。
ずっと待っていた存在に忘れられて、それでも良いから生きていて欲しいなんて願うなんて。
なんて寂しいんだろう。
それと同時に思い知らされる。
リーヴェはちゃんと、この子に愛されていた。
それだけで、報われているような感覚に落とされる。
しかしそれは、この子の存在を犠牲にして証明しているようなもの。
彼の感情を犠牲にしてしまうものだ。
そんなものをリーヴェは欲しがっているのだろうか。
本当に?
本当にあの優しい王様がそんな事願うだろうか。
この子にそんな目にあってほしくない。
そこまで自分を犠牲にしてほしくなんかない。
きっとそう思っているはず。
なら、どうすれば良い?
どうすればこの子を救える?
どうすればこの子をリーヴェから解放できるのだろう。
ただそう思ってしまった。
本当はそんなの、黒龍の為にはならないと知っているのに。
いつの間にか目の前まで黒龍が近づいてきており、俯いた私の顔を覗いた。
「それとも、主様は僕がいて迷惑?」
「そ、そんなことは」
ないの、だけれど……。
どう返せばよいのかわからず、目を泳がせる。
黒龍が願う事ってなんだろう。
ちゃんと考えなければならない。
私が楽になりたいとか、そういうのではなく。
本当に黒龍が幸せになる未来を、見つけなければ。
そうでなければ200年もの間、主を待っていた彼が報われない。
私は黒龍の手を取ると、強く握りしめた。
「ねぇ、もし私が出来ることがあるなら、なんでもするから。だから私になんでも言ってね」
一瞬きょとんとした顔が子供のようだった。
そういう表情を見ると、まるで中身まで少年のように見える。
「いきなりどうしたの?」
少し照れくさそうに笑う彼の手をさらに強く握りしめた。
私の思いが伝わったのか、次第に真剣な表情に変わると恐る恐る口を開く。
「じゃあ、1つだけ……」
躊躇いがちに目を泳がせながら私を見た。
僅かに纏った寂しさに心が揺れた。
「もしも、どんなに辛い事があったとしても」
「生きることを、諦めないでほしい」
一瞬、時が止まったような気がした。
私には叶えられるような気がしなかったからだ。
でも、彼が願ったことなら叶えると決めた以上、自分の心を偽ることはしたくない。
何より、ここで頷かなければ黒龍をもっと不幸にしてしまうだろう。
躊躇いを諭されぬよう、必死に笑顔を作ると彼の言葉に頷いた。
「わかった。絶対に叶えるわ。約束よ」
「うん。絶対だからね」
2人して微笑み合うが、きっと黒龍は心の底から私を信じてはいない。
それが私にとって辛い事だと知っているから。
それでも願ってくれた彼の思いを失いたくない。
これから何が起こるかわからないけれど。
黒龍の願う未来が来ることを、願わずにはいられなかった。
***
屋敷に帰ると、一目散に自室へ行きベッドに倒れ込んだ。
今日は一日の間に色々あり過ぎて疲れた。
時計を見るともう夕方だ。
寝転んだまま横目に窓を見ると、確かに外はオレンジ色に染まっている。
馬車で外の景色を見ながら帰ってきたはずなのに、そんな事にも気づいていないとは。
相当上の空だったのだろう。
とりあえず起きて紅茶でも貰おうかしら。
そう思いミリアを呼んだ。
しかし、彼女が再び戻って来たときあり得ないお客を連れてきた。
「どうも~。さっきぶりなのですぅ」
「せ、聖女様!!」
思わず座っていた椅子の背もたれに縋るように両手をつけて驚いてしまう。
なぜ彼女がここにいるのか、全く理解できなかった。
「いやぁ、どうすればこちらにお邪魔できるのか途方に暮れていたときに、丁度このお嬢さんが通りかかりましてね。案内してもらっちゃいました」
「窓からこちらを覗いていたので、不審者かと思って声を掛けたら捕まってしまいまして……」
じとっとした目で聖女様を見つめるミリア。
そんな彼女の視線など意に介さず、聖女様は私の向かいにある客用の椅子にひょいっと座った。
「それにしても、お嬢さん。相当すごい魔力の持ち主ですねぇ。世が世なら聖女も夢じゃないですよ」
ミリアは聖女様の言葉にさらに機嫌を悪くしたのか、さらに威嚇するような視線を向ける。
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