悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

文字の大きさ
242 / 339
第5章

237.教皇の血族

「教会へ来いとは、一体どういう意味なのですか?」

 真意を掴みかねた私は直球で聞いてみることにした。自分でうじうじ考えるぐらいならさっさと聞く方が良い。

聖女様は少し視線を泳がせた。
何か躊躇っていたようだが、決心したように顔を上げた。

「貴方は家族に蔑ろにされていると聞きました。それに先ほどの殿下の様子を見るに……。あまり婚約者様からも大事にされていないとお見受けします。ですから、私たちが保護しようと思いましてね」

まさか聖女様にまでそんな情報が届いていたとは……。

教会の影響力は凄まじい。
そりゃこの国のほとんどの人間が信者のようなものなのだ。

ならば、私の内情など調査を依頼すればすぐに情報が手に入るのだろう。
まぁ、お父様に大切にされていないのはもはや周知の事実だから調べればすぐにわかることなのだけど。

しかし、保護ねぇ。
その単語に強い違和感を覚えた。

普通の人に対して、そんな単語は使わない。
それじゃあまるで動植物に対するときに使うものだ。

つまり、彼らにとって私はやっぱり人間とは見えない相手だと認識されているのだろう。

ため息を吐きそうになって飲み込む。

やっぱり、誰が相手でも私は同じようにみられる定めなのだろう。

「はっきり言ってください。私の前世が悪人だから、傍にいて見張っておきたいのですよね?」

どうせ前世を知られているのだ。
こういう時は割り切った関係を築いたほうが得策だろう。

主に私の精神衛生上の問題だけれど。

しかし、私の訝しげな目を嘲笑うかのようにフッと吹き出した。
一体何が可笑しかったのだろうか。

彼女の心のうちがわからず困惑してしまう。

「悪人……? あの方が悪人ですって?」

な、なに?
なんだか様子がおかしいような……。

そう思ったのも一瞬で、彼女は大声で笑いだした。
まるで聖女には似合わないその笑い方にドン引きしてしまう。

「あははっ! おかしくて笑ってしまいますよ。悪人ですって? 莫迦なこと言わないでください」

目じりに涙を浮かべながら、それを指でふき取ると聖女様はテーブルに手を付き体を乗り上げた。
私の耳元まで顔を持ってくると囁く。

「あの方は聖人なのですよ? その生まれ変わりを、教会が放っておくはずがないでしょう」

ゾクリとするような甘く、妖艶な声だった。
その奥に隠された不気味な怖さが、私に襲い掛かる。

何だこの人。
本当に聖女なのか?
聖女様と敬称するにはあまりにも俗世的で、あまりにも欲望に忠実だ。

彼女は椅子から離れるとクルリと回る。
まるでおもちゃを貰った少女のように嬉しさに浮かれているようだった。

「私たちはただ、この世界の、この国の平穏を守りたいのです。そのためには脅威となりそうな貴方を閉じ込めておく必要がある。だから保護する。それだけです」

彼女はこちらに顔を向けると唇に人差し指をつけて笑う。

「表向きはね」

頬を染め、嬉しそうに笑う彼女の姿にうちに秘める恐ろしさを隠しきれていない。
一体何を隠しているのか。

理解できず、ただ目の前にある恐怖を茫然と見つめるだけしかできない。

「貴方を保護するのは、私たちの悲願なのです」

少し落ち着いたのか、椅子に戻ると両肘を付く。
しかし、先ほどから見せる笑顔は変わらず畏怖の念は拭い消えない。

「悲願、とは。また大袈裟な物言いですね」

冷や汗が頬を伝う。
どうしてこんなにも体力を奪われるのだろう。

それほど目の前の彼女に警戒しているということなのだろうか。

「私たちはね、もうこれ以上英雄の血を失うわけにはいかないのですよ」

深くため息を吐くような彼女に揶揄いやふざけたような感じはしない。
俯きがちに伏せられた目からは、憂いが感じられた。

「もうこれ以上、英雄の血族を失うわけにはいかないのですよ。ただでさえ、エヒム教では私と教皇しか血族がいないというのに。貴方まで失ってしまえば、本当の意味でオルフェリウスの誇りと誓約は失われてしまいます」

ティーカップを覗いているようで、どこか遠くを見つめているようだった。

告げられた彼女の言葉には、理解できないことが多すぎてよくわからない。
しかし、1つだけ気になることがあった。

「オルフェリウスの誇りと誓約……?」

オルフェリウスとは、前世であるリヴェリオのファミリーネームだ。
どうして今、彼女の口からその単語が出たのだろう。

それに、教皇と聖女様の血族に一体何の関係が?

「あれ? もしかして知りません? 教皇世襲制ですので、代々同じ血族が継いでいます。そしてその権利があるのはオルフェリウスの一族のみなのですよ。今の教皇は直系ではありませんがね」
「えっ――!」

教皇とオルフェリウスが同じ血族?
しかも、教皇になれる権利があるのが、オルフェリウスだけだなんて……。

おそらくこの国の人々は知らないはずだ。
そうでなければエヒム教の信者になんか、なりはしないだろう。

「その様子だと、そこまで記憶を思い出されていないようですね。少し安心しました」

にんまりとした笑顔を向けられた。
安心した、とは。

まるで彼と同じことを言っている。

「私の記憶が思い出されること、貴方も嫌っているのですね」

ここまで来ると、どうして私の記憶を思い出すのを嫌がるのか流石に気になってくる。

黒龍だけでなく聖女様まで願っているということは、ただ単に可哀そうだからとかいう感情論からくるものではないのだろう。

エヒム教まで私の事を隠している。
その理由が何なのか私には知る権利があるはずだ。

「そりゃそうですよ。貴方の記憶は大事な――――」

バンッ!!

言いかけた聖女様を遮るように大きな音がした。
感想 7

あなたにおすすめの小説

亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』

まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」 ​五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。 夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。 生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。 ​冷淡な視線、姉と比較される日々。 「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」 その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。 ​しかし、彼女が消えた翌朝。 カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。 そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。 そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。 ​――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」 ​真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。 だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。 ​これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea
恋愛
 ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、   死んだ  と、思ったら目が覚めて、  悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。   ぽっちゃり(控えめな表現です)   うっかり (婉曲的な表現です)   マイペース(モノはいいようです)    略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、  「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」  と、落ち込んでばかりもいられない。  今後の人生がかかっている。  果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。  ※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。 ’20.3.17 追記  更新ミスがありました。  3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。  本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。  大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。  ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

『処刑された悪女は、今度こそ誰も愛さない』

なつめ
恋愛
断頭台の上で、自分の終わりを見た。 公爵令嬢セラフィーナ・エーデルベルク。傲慢で冷酷、嫉妬深い悪女として断罪され、婚約者である王太子に見放され、社交界の嘲笑の中で処刑された女。 けれど次に目を開けた時、彼女はまだ十七歳の春に戻っていた。 処刑まで残された時間は、三年。 もう誰も愛さない。 誰にも期待しない。 誰も傷つけず、誰にも傷つけられず、静かに生きる。 そう決めて、彼女は人との距離を置きはじめる。 婚約者にも、原作の“主人公”にも、騎士にも、侍女にも、未来で自分を断罪するはずの人々すべてに。 けれど、少しだけ優しくした。 少しだけ、相手の話を聞いた。 少しだけ、誤解を解く努力をした。 たったそれだけのことで、なぜか彼らのほうが先に彼女へ心を寄せ始める。 「……あなたは、こんな人だったのですか」 「もう少し、私を頼ってください」 「君が誰も愛さないつもりでも、俺は君を放っておけない」 「ずっと、怖かっただけなんでしょう」 悪女として死んだはずの令嬢が、二度目の人生で手に入れるのは名誉か、友情か、それとも恋か。 これは、誤解に殺された少女が、静かに息を吹き返していく物語。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

あなたがすき、だったから……。

友坂 悠
恋愛
 あなたが好きだったから、わたしは身を引いた。  もともと、3年だけの契約婚だった。  恋愛感情なしに、偽装夫婦を演じよう。  そういうあなたに同意をして一緒に暮らし出した日々。  それなのに。  約束の期限の三日前、まさか酔ったあなたとそういう関係になるなんて、思わなかった。  だから。 わたしはそのまま翌朝家を出た。  わたしだけが、どんどんあなたを好きになってしまったことを隠したくて。  こんな気持ちを悟られ、あなたに迷惑がかかるのに、耐えられなくて。    ############# なろうさんで開催されていた、氷雨そら先生、キムラましゅろう先生主催、 シークレットベビー企画参加作品だった、「あなたが好きだったから」という短編に、少し加筆修正して連載化しました。 初めてのシクべ、ちょっと変わったタイプのシクべ作品となりました。 お楽しみいただけると幸いです。