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第5章
239.嵐、去る
「いやぁ~、なんて綺麗な友情なんでしょうねぇ~」
両手で頬杖を付き、満面の笑みを向けられる。
一気に空気が悪くなったわね。
すごいキラキラした笑顔を向けられても、なんだか見世物にされてるみたいで気分が悪い。
さっきは見直した彼女に対して、やっぱり
「どうしてそんなに友人思いの方を、裏切ることなんてできたんでしょうねぇ……」
ん?
何の話?
私、ミリアの事裏切ったことなんてないのだけど。
いや、まぁね。普段の些細なことだったら約束破るとこだってあるわよ。でもこないだの食事を蔑ろにしたとか、そういう些細なことなんだからそれぐらいは見逃してほしいわ。
「馬鹿だったんでしょう?」
シリウスは吐き捨てるように小さく呟く。
なんて容赦のない声。
でも、やっぱり誰の事を言っているのかはわからなかった。
「人間とは醜いものです。綺麗なものであればあるほど、汚い自分と同じくらいそれを汚したくなる。それが自分の不利益になることなど、何も考えずに」
寂しそうに目を細めた彼女は一体誰を思っていたのだろうか。
もしかして、シリウスにも契約した人がいたりしたのだろうか。
そして、黒龍みたいに……。
「だから人間は嫌いなのです」
あれ、違ったみたい。
強い嫌悪感がシリウスから漏れ出している様子を見るにおそらく人と契約すること自体したくなさそうだ。
でも、数日しか一緒にいなかったとはいえ時計塔でのシリウスは優しかった気がする。
とても人を嫌っているようには思えなかったんだけどなぁ。
「さて、断られてしまったのなら仕方がありませんね。長居するのも迷惑でしょうし、帰りましょうか」
聖女様はひょいと椅子から立ち上がる。断られたにも関わらず上機嫌なのが若干の不安ではあるけれど、さすがにこの変人の相手をするのに限界が近づいてきたころだったから正直言って有難かった。
まぁ、カップの中身がなくなったのが本当の理由ではないかと思わなくもないけれど。
「また、お会いしましょう。エスティ様」
手を握られ激しく上下させられた。
「ええ、そうですね。またご縁があれば」
上手く笑えた気がしないけれど、彼女であればそんなことなど全く気にはしないだろう。なんだか短い時間だったけれど、聖女様の事十分すぎるほど知れた気がする。
もう話さなくてもいいぐらいには。
シリウスを連れだって聖女様はそう挨拶すると、部屋の入口ではなく窓の方へと向かう。
窓を開け、小さなバルコニーに出ると彼女は手すりに乗り上げた。
「聖女様! 危ないですよ!」
思わず駆け寄る私に、聖女様は振り返る。
「大丈夫ですよ、エスティ様。私たちは魔法使いですから」
風が吹き、彼女たちの髪を揺らした。
なんて綺麗な白。
見惚れていたのも束の間、ビュウッと強い風が吹く。
目を瞑って風が過ぎ去るのを待って再度開くと、そこにはもう聖女様とシリウスの姿はなかった。
「まるで嵐のような方々でしたね」
傍にいるミリアが呆れたように呟いた。
「ええ、そうね」
ただ言いたいことだけ言って去っていった彼女たち。
やっと緊張に解放されたのか、どっと疲れた体を今すぐ休めたかった。
ベッドへ勢いよくダイブする。
うつ伏せに倒れると、顔を布団に埋めた。
「お嬢さま、お休みになられるのでしたら着替えませんと」
「いいわ、このままで。ちょっと寝るから夕食の時間になったら起こしてくれない?」
ミリアの忠告を無視し、言いたいことだけ言うと目を閉じる。
彼女の気配を感じなくなった瞬間、深い眠りに落ちていた。
***
『エスティ……、起きて』
だれ?
誰が私を呼んでるの?
『貴方はいつも私の事を見てくれないんですね』
そんな事ないわ。
ただ、貴方を真っ直ぐ見るのは勇気がいるだけ。
『どうして?』
だって貴方は私が嫌いでしょう?
そうじゃなきゃ、私を殺そうとするなんてことしないもの。
『そうですね。でも、本当は貴方がいてくれただけで幸せだったんです』
嘘よ。
そんなはずないもの。
『泣かないで』
泣いてなんかないわ。
『大丈夫、今度はちゃんと守ってみせますから』
嘘よ。
本当の貴方はそんなこと思ってない。
『陛下……』
そんな言葉で呼ばないで。
ほら、私の血に濡れて貴方は笑っているでしょう?
それが答えよ。
痛い。
痛くて堪らない。
ずっと暗闇に落ちていく。
《ならいっそ、死んでしまえばいい》
***
「だれ……?」
夢を見ていた。
ずっと暗闇の中で会話をしているだけの夢。
ただ最後に聞こえた声だけ、誰なのかわからない。
それに、どこか現実から聞こえているようなはっきりとした声だった。
「こんばんわ、お嬢様」
薄暗い中、サイドテーブルのランプに照らされたミリアがそこにいた。ぼんやりとした意識であったからさほど驚かなったが、こういう登場の仕方はできれば止めてほしい。
「今、何時?」
起き上がる気力が無く、寝たまま問いかける。
「もう夜の20時です。お食事、お持ちしますか?」
「そうね……。軽くで良いから頂戴」
起き上がると自分の体が重い事に気が付いた。
思った以上に疲れが溜まっているらしい。
両手で頬杖を付き、満面の笑みを向けられる。
一気に空気が悪くなったわね。
すごいキラキラした笑顔を向けられても、なんだか見世物にされてるみたいで気分が悪い。
さっきは見直した彼女に対して、やっぱり
「どうしてそんなに友人思いの方を、裏切ることなんてできたんでしょうねぇ……」
ん?
何の話?
私、ミリアの事裏切ったことなんてないのだけど。
いや、まぁね。普段の些細なことだったら約束破るとこだってあるわよ。でもこないだの食事を蔑ろにしたとか、そういう些細なことなんだからそれぐらいは見逃してほしいわ。
「馬鹿だったんでしょう?」
シリウスは吐き捨てるように小さく呟く。
なんて容赦のない声。
でも、やっぱり誰の事を言っているのかはわからなかった。
「人間とは醜いものです。綺麗なものであればあるほど、汚い自分と同じくらいそれを汚したくなる。それが自分の不利益になることなど、何も考えずに」
寂しそうに目を細めた彼女は一体誰を思っていたのだろうか。
もしかして、シリウスにも契約した人がいたりしたのだろうか。
そして、黒龍みたいに……。
「だから人間は嫌いなのです」
あれ、違ったみたい。
強い嫌悪感がシリウスから漏れ出している様子を見るにおそらく人と契約すること自体したくなさそうだ。
でも、数日しか一緒にいなかったとはいえ時計塔でのシリウスは優しかった気がする。
とても人を嫌っているようには思えなかったんだけどなぁ。
「さて、断られてしまったのなら仕方がありませんね。長居するのも迷惑でしょうし、帰りましょうか」
聖女様はひょいと椅子から立ち上がる。断られたにも関わらず上機嫌なのが若干の不安ではあるけれど、さすがにこの変人の相手をするのに限界が近づいてきたころだったから正直言って有難かった。
まぁ、カップの中身がなくなったのが本当の理由ではないかと思わなくもないけれど。
「また、お会いしましょう。エスティ様」
手を握られ激しく上下させられた。
「ええ、そうですね。またご縁があれば」
上手く笑えた気がしないけれど、彼女であればそんなことなど全く気にはしないだろう。なんだか短い時間だったけれど、聖女様の事十分すぎるほど知れた気がする。
もう話さなくてもいいぐらいには。
シリウスを連れだって聖女様はそう挨拶すると、部屋の入口ではなく窓の方へと向かう。
窓を開け、小さなバルコニーに出ると彼女は手すりに乗り上げた。
「聖女様! 危ないですよ!」
思わず駆け寄る私に、聖女様は振り返る。
「大丈夫ですよ、エスティ様。私たちは魔法使いですから」
風が吹き、彼女たちの髪を揺らした。
なんて綺麗な白。
見惚れていたのも束の間、ビュウッと強い風が吹く。
目を瞑って風が過ぎ去るのを待って再度開くと、そこにはもう聖女様とシリウスの姿はなかった。
「まるで嵐のような方々でしたね」
傍にいるミリアが呆れたように呟いた。
「ええ、そうね」
ただ言いたいことだけ言って去っていった彼女たち。
やっと緊張に解放されたのか、どっと疲れた体を今すぐ休めたかった。
ベッドへ勢いよくダイブする。
うつ伏せに倒れると、顔を布団に埋めた。
「お嬢さま、お休みになられるのでしたら着替えませんと」
「いいわ、このままで。ちょっと寝るから夕食の時間になったら起こしてくれない?」
ミリアの忠告を無視し、言いたいことだけ言うと目を閉じる。
彼女の気配を感じなくなった瞬間、深い眠りに落ちていた。
***
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だれ?
誰が私を呼んでるの?
『貴方はいつも私の事を見てくれないんですね』
そんな事ないわ。
ただ、貴方を真っ直ぐ見るのは勇気がいるだけ。
『どうして?』
だって貴方は私が嫌いでしょう?
そうじゃなきゃ、私を殺そうとするなんてことしないもの。
『そうですね。でも、本当は貴方がいてくれただけで幸せだったんです』
嘘よ。
そんなはずないもの。
『泣かないで』
泣いてなんかないわ。
『大丈夫、今度はちゃんと守ってみせますから』
嘘よ。
本当の貴方はそんなこと思ってない。
『陛下……』
そんな言葉で呼ばないで。
ほら、私の血に濡れて貴方は笑っているでしょう?
それが答えよ。
痛い。
痛くて堪らない。
ずっと暗闇に落ちていく。
《ならいっそ、死んでしまえばいい》
***
「だれ……?」
夢を見ていた。
ずっと暗闇の中で会話をしているだけの夢。
ただ最後に聞こえた声だけ、誰なのかわからない。
それに、どこか現実から聞こえているようなはっきりとした声だった。
「こんばんわ、お嬢様」
薄暗い中、サイドテーブルのランプに照らされたミリアがそこにいた。ぼんやりとした意識であったからさほど驚かなったが、こういう登場の仕方はできれば止めてほしい。
「今、何時?」
起き上がる気力が無く、寝たまま問いかける。
「もう夜の20時です。お食事、お持ちしますか?」
「そうね……。軽くで良いから頂戴」
起き上がると自分の体が重い事に気が付いた。
思った以上に疲れが溜まっているらしい。
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お楽しみいただけると幸いです。