悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第5章

240.不調、後悔

 一度出て行ったミリアが夕食を持って戻ってきた。

軽くと言ったリクエスト通り、掌サイズのボウルに盛られたサラダと小さなお肉が2、3切れ程度のものだった。水を一口飲むとフォークを手に取る。レタスに突き刺すとしゃくりと小気味の良い音がした。

しかし、どうしてか口に運ぶ気になれない。

でも持ってきてもらった手前、食べないわけにもいかない。
そんなに量もないし、これぐらいなら食べきれるだろうと無理やり口の中に押し込んだ。

「おえっ」
「お嬢様⁈」

気持ち悪い。

ほんの小さな欠片を入れただけなのに、すぐに口から戻してしまった。

食欲が無いわけではないのに、体が受け付けていない。

なんで……。

まさか、日中の事を引きずっているのだろうか。
食べ物を受けつけないほどに。

私ってそんな軟弱だったっけ……。

口を押えながら差し出されたコップを断ると、ナフキンを要求した。
さっと口を拭くと、心配そうなミリアを見上げる。

「思ったより食欲がないみたい。水だけ貰ったら、今日は寝るわ」
「お体の調子が悪かったのですか? それなら言ってくだされば」

首を横に振り、言葉を遮る。

「自分でもこんなに調子が悪いとは思わなかったの。ごめんなさいね、せっかく用意してくれたのに……」
「それは良いのですが」

尚も心配そうなミリアに笑ってみせた。
やはり、体が重い。

「大丈夫よ、もともと私の管理の甘さがいけないのだから。ミリアは何も悪くないわ」
「……、あまりご自分を責めないでください」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ」

本格的に体がだるくなってきたように思え、水を一口飲むとベッドへ潜り込んだ。
これ以上ミリアと話したら埒が明かなくなりそうだし。

「じゃあ、片付けだけお願いね。ああ、あとシルビアには今日は相手できないから部屋には来ないようにって伝えておいて」
「畏まりました」

最近では毎日来るようなことはなくなったけれど、時々不安になるのか夜中に私のベッドへ潜り込む修正ができてしまった。色々な事があったから不安になるのは理解できないこともないけれど、もう13歳になるのだからそろそろ自立させる方向でこちらも動かないと。

寂しいのは、痛いほどわかるけれどね。

「お休みなさい、ミリア」
「良い夢を、お嬢様」

小さく灯ったランプが徐々にぼやけていく。
深い闇に落ちていくように眠りについていた。


   ***


 明るい陽射しが廊下を照らす。
装飾された窓の影が、床を飾り立てていた。

長い廊下を意識半分で歩いていた。

昨日の事のはずなのに、まるでさっき起こったことのように思えてしまうのはあの場面を何度も反芻しているからかもしれない。

聖女といえば、今朝の早い時間に王宮を発っていた。
なんでもこれから早急に教会本部へ戻らなければならないのだとか。

あのおかしすぎる聖女が居ないというのは有難いこと。
それに、彼女を見てしまうと昨日のことをより鮮明に思い出してしまいそうだった。

『……ごめ、んね』

何の関係もない景色を見ているだけで、彼女の声が聞こえてくる。
首を絞めたとき、笑ってみせた彼女の顔が脳裏に張り付いて剥がれない。

なぜ、あんな顔をしたのか。
どうして、あんなことを言ったのか。

疑問だけが浮かんでは答えも出ずに沈んでいく。

「まるで呪いだ……」

彼を殺したときと何もかも同じだった。首を落とす寸前に見せた彼の表情も言葉も、彼女が発したものとまるで同じもので。目の前で当時の再現を見せられているようだった

なぜ謝ったのだろう。

反省しているのなら、はじめから犯さなければよかったのに。
人々を汚し貶めるようなことなどしなければ、そんな目にあわなかったはずなのに。

馬鹿だと思った。あんなに綺麗なものが、欲に塗れた結果こんなに穢れたものになるとは。ただの塵芥だった男に、見下した民衆に命を奪われるなんて。

なんて、哀れだと。

彼女の事も彼の事も何も理解できない。

人を傷つけて喜ぶような人種など根から腐っている。おそらくこの考えは間違っていないはずだ。だから彼を殺したことは間違っていなかったはずなのに。

どうして謝る?
どうしてそんなに寂しそうに笑ってみせる?

それではまるで、僕がしたことが間違っていたみたいじゃないか。

わからない。

彼らの心がわからない。

胸が痛くて堪らない。
寂しさに酷く似ていて、それよりももっと胸を抉る感情があふれ出して止まらなかった。

「なんでお前がこんなところに……」

恨めしそうな声で我に返った。
いつの間に、こんなところにいたのだろう。

目の前には龍宮があり、入口のところでこちらを睨みつける黒龍を見つけた。
声の主は彼だとすぐに判断できたが、どうしてこんなところにいるのか自分でもわからず困惑する。

引き返そうかとも思ったのだが、なぜか足が動かなかった。

―彼に聞けば答えがわかるかもしれない―

その言葉が頭から離れなかった。

「黒龍にとって、リヴェリオとは一体何なのですか?」

気付けばそんな言葉を口にしていた。
龍宮の奥へ引っ込もうとしていた黒龍は、ピタリと足を止める。

振り返った彼の瞳は赤く鋭く光っていた。

「何が言いたい?」

怒っている。
激怒していると言う方が正しいのかもしれない。

ほんの少し彼に話しかけたのを後悔した。
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