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第5章
241.過去の彼
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恐らく僕の疑問を解決できるのは彼しかいない。本人に聞くのが一番だとは思うが、今彼女を前にしたらまた理性を失い、首を絞めてしまうそうだ。
そんな自分にはもう、なりたくなかった。
例え彼女が悪かったとしても。
「龍というのは、神の使いのはずです。そんな貴方が彼に仕えていたのは何よりの苦痛だったのではないかと思いまして」
言っていて、彼の怒りが更に増していることに気付いた。
挑発するつもりはない。
龍とは元来そういう存在なのだ。
ただでさえ人間を嫌う彼が、穢れにまみれたリヴェリオにどうしてここまで執着するのか理解できなかった。
「くだらない。お前たちの勝手な思い込みに付き合わされるこっちの気にもなれよ」
やはり黒龍はおかしいのかもしれない。
どこか歪んでいるから、あの極悪人を今でも思い続けているのではないだろうか。
この黒龍は親に捨てられたと聞いた。
人間と同じく親子の絆が強い龍にとって、親に見捨てられるのは龍にとっては強いストレスだったはず。
そんな龍ならば歪んでいてもおかしくなはない。
「生んだ親を知らないから、わたしにひどく懐いているのだ」と黒龍と契約してすぐの頃、リヴェリオがそう口にしていた。愛おしいものに思いを馳せるように語る彼に、強い嫌悪感を覚えた記憶がある。
だから、黒龍の事はあまり好きではなかった。
しかしリヴェリオを殺したとき、この龍は言ったのだ。
『ぼくをここにのこしてください』と。
彼にとっての親代わりであるリヴェリオが犯した罪は重い。
本人を処刑してもなお、償い切れないほどの罪だった。
そのために、黒龍は自分を差し出したのだと思っていた。例え種族が違くても、黒龍は親代わりとなってくれたリヴェリオの罪を自分が背負おうとしているのだと。
なんて心の綺麗な龍なのだろう。
あの極悪人の所為でこの龍が穢されなくてよかった。
いいや、彼が死んでくれたおかげで黒龍は正常に戻ったのかもしれない。
きっと神の使いとしての魂の強さが彼をリヴェリオという悪の手から守ってくれたのだろう。
その時はそう思っていた。
だが、それは勘違いだったようだ。リヴェリオの洗脳は時を超え、彼の中でまた復活してしまった。彼が彼女として生まれ変わったことでその洗脳が蘇ってしまったのだろう。
もう、彼はリヴェリオを崇拝する悪の存在となってしまったのかもしれない。
なんて悲しく、虚しい存在なのだろう。
そう思うと、目の前の龍を恐れることなどできなかった。
「安心してください。彼女には必ず制裁を下します。貴方もこれ以上苦しまなくて済むはずですよ」
彼女への対処はまだ決めかねている。
しかし、前世の悪行を思うと今世でも安らかな生活を送らせるなんてことは考えられなかった。
例え彼女が何もしていなかったとしても。
彼女の前世がリヴェリオだという事実は決して変わらないのだ。
「……お前って、本当に救いのないお馬鹿さんなんだな。自分が操られていることもわからない。そうやって、また悪戯に主様を傷つける」
「?」
黒龍が何を言っているのかわからない。
と、思っているといつの間にか黒龍が目の前まで近づいていた。
恐ろしいまでの憎悪を含めた瞳が、僕を見つめている。
「ぐっ!」
瞬間、黒龍が僕の腹を殴っていた。
鈍い痛みが僕を襲う。
痛い――!
と、同時に僕の中で思考がクリアになっていく。
先ほどまで覆っていた黒い感情がなぜか晴れていく感じがした。
「応急処置だけど、これでしばらく操られることはないだろうよ。全く……、なんでそんなに憑かれやすいんだかな」
処置……とは?
黒龍が言っていることはわからなかったが、何かが僕の中で起こっていたことは確かだ。
リヴェリオへの憎しみは消えてはいない。
しかし彼女へ制裁を下さなければ、などという思考は薄れていた。
だって彼女は何もしていない。まだリヴェリオへの憎しみは残っているし、彼女とあまり関わりたくないと思うのは変わらないけど。しかし、彼女を殺そうなどとは思わなくなっていた。
一体僕はどうしてあんなことを……。
黒龍はどこか呆れたように僕を見つめていた。
しかし、何かを思い出したようにパッと表情を変えた。
嘲るような表情の彼に、嫌な予感しかしない。
「そういえばどうしてお前が生きているのか、やっと理由がわかったよ」
「?」
脈略もなくそんなことを言われたものだから、きょとんとしてしまう。
一体何のことなのか、僕には見当もつかなかった。
「言っただろ、おまけだって。お前にはそもそも生まれ変わる権利なんて与えられてない」
何を言っているのだろう。
なぜ僕が生まれ変わっただって?
そんなの言われなくてもわかるはずだ。
「自分で言うのもなんですが、私の前世は多くの人々を救った実績があります。生まれ変わる理由なんて、それだけで十分じゃないですか?」
「それは人間にとって、もっと言えばこの国の人間に限定したときの評価だろ?」
黒龍に鼻で笑われカチンとくる。
僕は至極真っ当な事を言ったはずだ。
笑われるいわれなどないはず。
そんな自分にはもう、なりたくなかった。
例え彼女が悪かったとしても。
「龍というのは、神の使いのはずです。そんな貴方が彼に仕えていたのは何よりの苦痛だったのではないかと思いまして」
言っていて、彼の怒りが更に増していることに気付いた。
挑発するつもりはない。
龍とは元来そういう存在なのだ。
ただでさえ人間を嫌う彼が、穢れにまみれたリヴェリオにどうしてここまで執着するのか理解できなかった。
「くだらない。お前たちの勝手な思い込みに付き合わされるこっちの気にもなれよ」
やはり黒龍はおかしいのかもしれない。
どこか歪んでいるから、あの極悪人を今でも思い続けているのではないだろうか。
この黒龍は親に捨てられたと聞いた。
人間と同じく親子の絆が強い龍にとって、親に見捨てられるのは龍にとっては強いストレスだったはず。
そんな龍ならば歪んでいてもおかしくなはない。
「生んだ親を知らないから、わたしにひどく懐いているのだ」と黒龍と契約してすぐの頃、リヴェリオがそう口にしていた。愛おしいものに思いを馳せるように語る彼に、強い嫌悪感を覚えた記憶がある。
だから、黒龍の事はあまり好きではなかった。
しかしリヴェリオを殺したとき、この龍は言ったのだ。
『ぼくをここにのこしてください』と。
彼にとっての親代わりであるリヴェリオが犯した罪は重い。
本人を処刑してもなお、償い切れないほどの罪だった。
そのために、黒龍は自分を差し出したのだと思っていた。例え種族が違くても、黒龍は親代わりとなってくれたリヴェリオの罪を自分が背負おうとしているのだと。
なんて心の綺麗な龍なのだろう。
あの極悪人の所為でこの龍が穢されなくてよかった。
いいや、彼が死んでくれたおかげで黒龍は正常に戻ったのかもしれない。
きっと神の使いとしての魂の強さが彼をリヴェリオという悪の手から守ってくれたのだろう。
その時はそう思っていた。
だが、それは勘違いだったようだ。リヴェリオの洗脳は時を超え、彼の中でまた復活してしまった。彼が彼女として生まれ変わったことでその洗脳が蘇ってしまったのだろう。
もう、彼はリヴェリオを崇拝する悪の存在となってしまったのかもしれない。
なんて悲しく、虚しい存在なのだろう。
そう思うと、目の前の龍を恐れることなどできなかった。
「安心してください。彼女には必ず制裁を下します。貴方もこれ以上苦しまなくて済むはずですよ」
彼女への対処はまだ決めかねている。
しかし、前世の悪行を思うと今世でも安らかな生活を送らせるなんてことは考えられなかった。
例え彼女が何もしていなかったとしても。
彼女の前世がリヴェリオだという事実は決して変わらないのだ。
「……お前って、本当に救いのないお馬鹿さんなんだな。自分が操られていることもわからない。そうやって、また悪戯に主様を傷つける」
「?」
黒龍が何を言っているのかわからない。
と、思っているといつの間にか黒龍が目の前まで近づいていた。
恐ろしいまでの憎悪を含めた瞳が、僕を見つめている。
「ぐっ!」
瞬間、黒龍が僕の腹を殴っていた。
鈍い痛みが僕を襲う。
痛い――!
と、同時に僕の中で思考がクリアになっていく。
先ほどまで覆っていた黒い感情がなぜか晴れていく感じがした。
「応急処置だけど、これでしばらく操られることはないだろうよ。全く……、なんでそんなに憑かれやすいんだかな」
処置……とは?
黒龍が言っていることはわからなかったが、何かが僕の中で起こっていたことは確かだ。
リヴェリオへの憎しみは消えてはいない。
しかし彼女へ制裁を下さなければ、などという思考は薄れていた。
だって彼女は何もしていない。まだリヴェリオへの憎しみは残っているし、彼女とあまり関わりたくないと思うのは変わらないけど。しかし、彼女を殺そうなどとは思わなくなっていた。
一体僕はどうしてあんなことを……。
黒龍はどこか呆れたように僕を見つめていた。
しかし、何かを思い出したようにパッと表情を変えた。
嘲るような表情の彼に、嫌な予感しかしない。
「そういえばどうしてお前が生きているのか、やっと理由がわかったよ」
「?」
脈略もなくそんなことを言われたものだから、きょとんとしてしまう。
一体何のことなのか、僕には見当もつかなかった。
「言っただろ、おまけだって。お前にはそもそも生まれ変わる権利なんて与えられてない」
何を言っているのだろう。
なぜ僕が生まれ変わっただって?
そんなの言われなくてもわかるはずだ。
「自分で言うのもなんですが、私の前世は多くの人々を救った実績があります。生まれ変わる理由なんて、それだけで十分じゃないですか?」
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僕は至極真っ当な事を言ったはずだ。
笑われるいわれなどないはず。
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