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第5章
244.素敵な気分転換
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暗闇に落ちていくような感覚は、まるで昔たった1度だけ迎えた最期みたいだった。何も見えないはずなのに、なぜか怖くなかった。ただ彷徨っているだけの空間。
ああ、このまま彷徨っていられたら楽なのに。
体の重さも心の陰りも忘れて漂うだけの存在になれたら。
けど、私の願うものはいつだってすぐに零れ落ちてしまうもの。
ほら、遠い向こうから光が差してきた。
すごく眩しくて、私を現へと引き戻す光……。
希望なんかじゃない。
私にとっては酷い絶望が私を包みこんだ。
「お嬢様、そろそろ起きてはいかがですか?」
ミリアの声で瞳を開けた。
どうやら私を引き戻したのは彼女だったようだ。
なら、恨むこともできない。
いつもは彼女が来るよりも早く起きているのに、今日はそうはいかなかったみたいだ。それに”そろそろ”なんて言葉を付け加えられてしまったという事は、もう朝でもない時間なのかもしれない。
体が重い。
やっぱり現実の方が残酷なのよね。
横目に時計を確認すると、まだ10時過ぎぐらいだったようで少しだけホッとする。昼過ぎくらいかもと思っていたけれどそんなことはなかったみたい。流石に昼過ぎまで寝ていたなんてお父様が知ったら、怒られるじゃ済まないもの。そしてそういう情報に限ってすぐにあの人に回ってしまうものなのよね。
さっと体を起こすが、何かをする気分にもなれずぼうっと前を向くだけになってしまう。
ミリアが軽い朝食を持ってきてくれていたようで、ベッドの上で寝間着のままそれを食す。
だが、やはり食欲は戻っていないようでパン3切れにミルクを一杯飲むともう口にはできなかった。
心配そうな表情のミリアは食べ残しを少し見つめていたが、パッと体を上げると私を見つめた。
「お嬢様、今日は私と一緒にお出かけしませんか?」
「?」
お出かけ……と言われても。
それなりの理由がなければ私は外へ出ることはできない。
ミリアは知っているはずなのに。
彼女は私の考えを予期していたように、紅茶を足しながら静かに告げた。
「確かもう1カ月ほどもなかったはずですよね。ベリエル殿下とコンディアス公爵令嬢の結婚祝賀会」
「あっ」
ベリエル殿下とフィーネ様の結婚式は来年の4月、私とヴァリタス殿下の正式な婚約発表と同時期に行われる。それに先駆けて、上位貴族だけが参加できる祝賀会が行われる予定となっているのだ。ちなみに、結婚式が行われた後も国外の主賓を呼んだ記念パーティーが催されたりとベリエル殿下とフィーネ様の結婚は国を挙げた一大行事となっている。
まぁ当然よね。
次期国王である彼の結婚など、大袈裟にしてし過ぎることなどないのだ。それにしたって、結婚するだけでも3回も催し物が企画されているなんてベリエル殿下の性格を考えると相当面倒臭がっているのではないかしら。フィーネ様が喜んでいれば喜々としてやっているかもしれないけど。
ということで、その結婚祝賀会が来月にまで迫っていることは私はすっかり忘れていたというわけです。
招待状は届いていたけれど、最近色々あった所為ですっかり忘れていたわ。ミリアに指摘されて気づくなんて相当ね。
それに今年は毎年恒例の夏の王家主催パーティーが王子2人の欠席によって中止されていたし、その埋め合わせも兼ねている節があった。
「確かに、その準備だって言えばお父様も納得されるとは思うけど……」
今日いきなり出かけるといって、お父様が了承されるかしら。
「ご安心ください、お嬢様。本日は旦那様を含め、ベルフェリト一家はお出かけなさっていますので」
「……」
何それ知らない。
多分お兄様もシルビアも私に知らせなかったのは、言ったところで両親が私を同行させるなど了承するはずがない事を知っていたからだろう。最近の両親の様子を見るに、あの人達に逆らえるような状況じゃないし。
お兄様は未来の宰相候補として、今は大事な時期だ。騒ぎを起こすわけにはいかない。特にベルフェリト家の家族愛を汚すようなことをすれば、たとえ小さなことだとしても傷がつくし。
こういう時、外聞が異様に良いって結構厄介よね。
シルビアに関していえば……、考えるまでもないわよね。彼女の母に対する怯え方は異常だ。母が一言いえば、彼女は逆らえなくなってしまうほどになってしまっている。
外面だけは取り繕えているけど、今のベルフェリト家って過去例を見ないほどぐちゃぐちゃなのかもしれない。
大体私の所為なんだけどね。
「じゃあ今日勝手に出かけても……」
「問題ないかと」
「!」
うそ! 本当に!
やった、久しぶりのお出かけだわ!
最近は本当に自由に外へ出かけられる時間が無くなっていたからすごく嬉しいわ。
正直体は重いし、心はズタボロだし、気分で言えばそうでもないってのが本音だけど。
でも今日を逃したら次いつ外に出掛けられるかなんてわからない。
そうと決まれば早速支度しなくちゃ!
ベッドから立ち上がり、鏡台の前へ座るとミリアに呼びかける。
「今日は結わなくて良いから、なんか良い感じに整えてくれない」
「はい、お嬢様」
早く出掛けたい。
無意識に鼻歌など歌っていた私に、ミリアは嬉しそうに微笑んだ。
ああ、このまま彷徨っていられたら楽なのに。
体の重さも心の陰りも忘れて漂うだけの存在になれたら。
けど、私の願うものはいつだってすぐに零れ落ちてしまうもの。
ほら、遠い向こうから光が差してきた。
すごく眩しくて、私を現へと引き戻す光……。
希望なんかじゃない。
私にとっては酷い絶望が私を包みこんだ。
「お嬢様、そろそろ起きてはいかがですか?」
ミリアの声で瞳を開けた。
どうやら私を引き戻したのは彼女だったようだ。
なら、恨むこともできない。
いつもは彼女が来るよりも早く起きているのに、今日はそうはいかなかったみたいだ。それに”そろそろ”なんて言葉を付け加えられてしまったという事は、もう朝でもない時間なのかもしれない。
体が重い。
やっぱり現実の方が残酷なのよね。
横目に時計を確認すると、まだ10時過ぎぐらいだったようで少しだけホッとする。昼過ぎくらいかもと思っていたけれどそんなことはなかったみたい。流石に昼過ぎまで寝ていたなんてお父様が知ったら、怒られるじゃ済まないもの。そしてそういう情報に限ってすぐにあの人に回ってしまうものなのよね。
さっと体を起こすが、何かをする気分にもなれずぼうっと前を向くだけになってしまう。
ミリアが軽い朝食を持ってきてくれていたようで、ベッドの上で寝間着のままそれを食す。
だが、やはり食欲は戻っていないようでパン3切れにミルクを一杯飲むともう口にはできなかった。
心配そうな表情のミリアは食べ残しを少し見つめていたが、パッと体を上げると私を見つめた。
「お嬢様、今日は私と一緒にお出かけしませんか?」
「?」
お出かけ……と言われても。
それなりの理由がなければ私は外へ出ることはできない。
ミリアは知っているはずなのに。
彼女は私の考えを予期していたように、紅茶を足しながら静かに告げた。
「確かもう1カ月ほどもなかったはずですよね。ベリエル殿下とコンディアス公爵令嬢の結婚祝賀会」
「あっ」
ベリエル殿下とフィーネ様の結婚式は来年の4月、私とヴァリタス殿下の正式な婚約発表と同時期に行われる。それに先駆けて、上位貴族だけが参加できる祝賀会が行われる予定となっているのだ。ちなみに、結婚式が行われた後も国外の主賓を呼んだ記念パーティーが催されたりとベリエル殿下とフィーネ様の結婚は国を挙げた一大行事となっている。
まぁ当然よね。
次期国王である彼の結婚など、大袈裟にしてし過ぎることなどないのだ。それにしたって、結婚するだけでも3回も催し物が企画されているなんてベリエル殿下の性格を考えると相当面倒臭がっているのではないかしら。フィーネ様が喜んでいれば喜々としてやっているかもしれないけど。
ということで、その結婚祝賀会が来月にまで迫っていることは私はすっかり忘れていたというわけです。
招待状は届いていたけれど、最近色々あった所為ですっかり忘れていたわ。ミリアに指摘されて気づくなんて相当ね。
それに今年は毎年恒例の夏の王家主催パーティーが王子2人の欠席によって中止されていたし、その埋め合わせも兼ねている節があった。
「確かに、その準備だって言えばお父様も納得されるとは思うけど……」
今日いきなり出かけるといって、お父様が了承されるかしら。
「ご安心ください、お嬢様。本日は旦那様を含め、ベルフェリト一家はお出かけなさっていますので」
「……」
何それ知らない。
多分お兄様もシルビアも私に知らせなかったのは、言ったところで両親が私を同行させるなど了承するはずがない事を知っていたからだろう。最近の両親の様子を見るに、あの人達に逆らえるような状況じゃないし。
お兄様は未来の宰相候補として、今は大事な時期だ。騒ぎを起こすわけにはいかない。特にベルフェリト家の家族愛を汚すようなことをすれば、たとえ小さなことだとしても傷がつくし。
こういう時、外聞が異様に良いって結構厄介よね。
シルビアに関していえば……、考えるまでもないわよね。彼女の母に対する怯え方は異常だ。母が一言いえば、彼女は逆らえなくなってしまうほどになってしまっている。
外面だけは取り繕えているけど、今のベルフェリト家って過去例を見ないほどぐちゃぐちゃなのかもしれない。
大体私の所為なんだけどね。
「じゃあ今日勝手に出かけても……」
「問題ないかと」
「!」
うそ! 本当に!
やった、久しぶりのお出かけだわ!
最近は本当に自由に外へ出かけられる時間が無くなっていたからすごく嬉しいわ。
正直体は重いし、心はズタボロだし、気分で言えばそうでもないってのが本音だけど。
でも今日を逃したら次いつ外に出掛けられるかなんてわからない。
そうと決まれば早速支度しなくちゃ!
ベッドから立ち上がり、鏡台の前へ座るとミリアに呼びかける。
「今日は結わなくて良いから、なんか良い感じに整えてくれない」
「はい、お嬢様」
早く出掛けたい。
無意識に鼻歌など歌っていた私に、ミリアは嬉しそうに微笑んだ。
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