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第5章
250.一目惚れとかそういうの
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「今こうして貴方と話をしているのだって、本当はあまりよくない事なのかもしれません。でも、私は貴方と穏やかなひと時を過ごす機会を逃すわけにはいかないのです」
目に涙を溜めながら震える声で訴えた。
彼女の言動を見ると、まるで私に特別な感情を持っているように見える。
でも、そんなはずはない。
先ほどから当たり前のように会話をしているけれど、私は彼女をいじめていたのだ。
そしてそれを大勢の場で認めた。
彼女を苦しめていた人物なのだ。
そんな私を事を恨みこそすれ、好意を抱くなんてありえない。
もしかして罠?
でもそんな器用な事が出来るようには見えない。それに、罠だとして私に近づいて嵌める罠って何よ。今の状態のまま、皆に無視をされている現状が私にとって最大の屈辱だと思っているはず。セイラは仕返しをしようなんて考えるような人ではないだろうし。
しかし、引っかかるのは今日の彼女はいつもの彼女には見えない事。だから警戒を解くことはできなかった。たとえ彼女が目の前で涙を流したとしても。
「その言い方だとまるで私とまだお友達をしていると思っているみたいね。でも、私と貴方の関係が崩れたのはもとはと言えば貴方がナタリー嬢に手紙を横流ししたからでしょう?」
意地悪な声で顔でセイラを詰める。
例え彼女にどんな苦しい背景があったとしても、誰かに同情できるほど余裕があるわけじゃない。
セイラは特に私に好意を持ってくれていた子だ。
なら、突き放すべき人物なのだ。
「そうですね。確かに私はナタリー様に手紙を渡しました」
あっさり認める彼女に肩透かしを食らったような感覚を覚える。
真面目な彼女の事だから手紙を横流しすしたことを否定してくるのかと思ってみたけど、そうでは無いようね。
「でも、それをベルフェリト様は望んでおられた」
「え?」
「そうでしょう?」
な、なんで?
なんでそう思うの?
まるで私の計画を知っているみたいな。
「だから、私は貴方の望むようにヴァリタス様に思いを寄せるか弱い少女としてあの場にいたのです」
「セイラ様があのように振舞うことを私が望んでいたと?」
瞳の奥まで笑っている。
でも、狂気を感じる笑みだった。
動揺を悟られるのが怖くて嘲笑するように言い放った。
しかし、隠しきれていた自信はない。
「だって貴方が望んでヴァリタス様と結ばれる運命を選ぶはずがありません。だってあの男は……」
真っ直ぐ私を見つめる。
小さな憎悪を持って。
「貴方を幸せにできる資格など、持ちあわせていないのですから」
「……資格?」
何を言っているのだろう。
私を幸せにできる資格?
そんなもの誰も持っていない。
というか誰も欲しがらないはずだ。
「私はずっとそれを手に入れたくて。ずっと探しておりました。でも、私にはそれがどこにあるのかわからないのです。この国を転覆させればそれが叶うのか。それとも壊してしまえば良いのか」
なんか今、非常に不穏な単語が聞こえたのだけど。
「でも、どんな選択をしても貴方が笑っている未来が見えないのです」
悲しみに暮れるセイラ。
自分の胸の内を吐露する彼女の口は暴走気味に余計なものまで溢してしまっているように見える。
「ねぇ、聞きたいのだけど」
彼女が何を考えているにしろ、今の言葉を聞いて私が出来ることが何なのか理解できるわけがない。
なら、本人に聞けば良いのだ。
一番理解できないことを。
きっとそれが核心だから。
「どうしてそんなに私が好きなの?」
セイラは途端にぽかんとした表情を浮かべた。可笑しなことを聞いたつもりはないのだけど、そんな顔をされたらまるで私が馬鹿な質問をしたみたいな感じがするわね。
「はっ。あはは。ふふふ。そうですね。そういえばそんな大事な事を私は話していませんでしたね」
セイラはなぜか笑いだすと、納得したように頷いた。
この可愛らしい笑顔を見ても癒されない日が来るとはついこの間まで思いもしなかったわね。
「エスティ様。理由がなくとも誰かに惹かれる感覚があることをご存じですか?」
「?」
理由が無くても、誰かに惹かれること?
理由が無いってことは、セイラに対して可愛いから好きだとかそいう事も抜きにして好きだということかしら。
そんな事ある?
だって好きになるってことは、少なからずその人の事を知っていて感情を抱くものでしょう?
「私にはありました。一目惚れともいうのでしょうか」
「もしかして、それが――」
「ええ、貴方です」
いやいや、そんな事を言われても。好意を抱かれるのは嬉しい。でも、それ以上に厄介だと思ってしまう。
これはもはや私の性だからしょうがないけれど。
「でも、私は貴方をいじめていたのよ? そんな人の事をまだ好きだなんておかしいと思うのだけど」
どんなに好きでも、自分を憎んでいる相手。そして、自分を苦しめた相手をまだ好きであるなんてこと正常な感覚を持っている人ならばまずありえない。
たとえそれでもまだ好きであったとしても、その感情は自分を苦しめるだけの害悪だ。
さっさと捨ててしまえば楽になる。
なのに、まだ彼女は私を好きだと言う。
そんなに大事にするほどの感情だとはどうしても思えない。
目に涙を溜めながら震える声で訴えた。
彼女の言動を見ると、まるで私に特別な感情を持っているように見える。
でも、そんなはずはない。
先ほどから当たり前のように会話をしているけれど、私は彼女をいじめていたのだ。
そしてそれを大勢の場で認めた。
彼女を苦しめていた人物なのだ。
そんな私を事を恨みこそすれ、好意を抱くなんてありえない。
もしかして罠?
でもそんな器用な事が出来るようには見えない。それに、罠だとして私に近づいて嵌める罠って何よ。今の状態のまま、皆に無視をされている現状が私にとって最大の屈辱だと思っているはず。セイラは仕返しをしようなんて考えるような人ではないだろうし。
しかし、引っかかるのは今日の彼女はいつもの彼女には見えない事。だから警戒を解くことはできなかった。たとえ彼女が目の前で涙を流したとしても。
「その言い方だとまるで私とまだお友達をしていると思っているみたいね。でも、私と貴方の関係が崩れたのはもとはと言えば貴方がナタリー嬢に手紙を横流ししたからでしょう?」
意地悪な声で顔でセイラを詰める。
例え彼女にどんな苦しい背景があったとしても、誰かに同情できるほど余裕があるわけじゃない。
セイラは特に私に好意を持ってくれていた子だ。
なら、突き放すべき人物なのだ。
「そうですね。確かに私はナタリー様に手紙を渡しました」
あっさり認める彼女に肩透かしを食らったような感覚を覚える。
真面目な彼女の事だから手紙を横流しすしたことを否定してくるのかと思ってみたけど、そうでは無いようね。
「でも、それをベルフェリト様は望んでおられた」
「え?」
「そうでしょう?」
な、なんで?
なんでそう思うの?
まるで私の計画を知っているみたいな。
「だから、私は貴方の望むようにヴァリタス様に思いを寄せるか弱い少女としてあの場にいたのです」
「セイラ様があのように振舞うことを私が望んでいたと?」
瞳の奥まで笑っている。
でも、狂気を感じる笑みだった。
動揺を悟られるのが怖くて嘲笑するように言い放った。
しかし、隠しきれていた自信はない。
「だって貴方が望んでヴァリタス様と結ばれる運命を選ぶはずがありません。だってあの男は……」
真っ直ぐ私を見つめる。
小さな憎悪を持って。
「貴方を幸せにできる資格など、持ちあわせていないのですから」
「……資格?」
何を言っているのだろう。
私を幸せにできる資格?
そんなもの誰も持っていない。
というか誰も欲しがらないはずだ。
「私はずっとそれを手に入れたくて。ずっと探しておりました。でも、私にはそれがどこにあるのかわからないのです。この国を転覆させればそれが叶うのか。それとも壊してしまえば良いのか」
なんか今、非常に不穏な単語が聞こえたのだけど。
「でも、どんな選択をしても貴方が笑っている未来が見えないのです」
悲しみに暮れるセイラ。
自分の胸の内を吐露する彼女の口は暴走気味に余計なものまで溢してしまっているように見える。
「ねぇ、聞きたいのだけど」
彼女が何を考えているにしろ、今の言葉を聞いて私が出来ることが何なのか理解できるわけがない。
なら、本人に聞けば良いのだ。
一番理解できないことを。
きっとそれが核心だから。
「どうしてそんなに私が好きなの?」
セイラは途端にぽかんとした表情を浮かべた。可笑しなことを聞いたつもりはないのだけど、そんな顔をされたらまるで私が馬鹿な質問をしたみたいな感じがするわね。
「はっ。あはは。ふふふ。そうですね。そういえばそんな大事な事を私は話していませんでしたね」
セイラはなぜか笑いだすと、納得したように頷いた。
この可愛らしい笑顔を見ても癒されない日が来るとはついこの間まで思いもしなかったわね。
「エスティ様。理由がなくとも誰かに惹かれる感覚があることをご存じですか?」
「?」
理由が無くても、誰かに惹かれること?
理由が無いってことは、セイラに対して可愛いから好きだとかそいう事も抜きにして好きだということかしら。
そんな事ある?
だって好きになるってことは、少なからずその人の事を知っていて感情を抱くものでしょう?
「私にはありました。一目惚れともいうのでしょうか」
「もしかして、それが――」
「ええ、貴方です」
いやいや、そんな事を言われても。好意を抱かれるのは嬉しい。でも、それ以上に厄介だと思ってしまう。
これはもはや私の性だからしょうがないけれど。
「でも、私は貴方をいじめていたのよ? そんな人の事をまだ好きだなんておかしいと思うのだけど」
どんなに好きでも、自分を憎んでいる相手。そして、自分を苦しめた相手をまだ好きであるなんてこと正常な感覚を持っている人ならばまずありえない。
たとえそれでもまだ好きであったとしても、その感情は自分を苦しめるだけの害悪だ。
さっさと捨ててしまえば楽になる。
なのに、まだ彼女は私を好きだと言う。
そんなに大事にするほどの感情だとはどうしても思えない。
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