悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第5章

251.たとえ絶対的な願いだとしても

「そうですね。それが全てだと思い込んでいる間は、好きにはなれないのでしょうね」

悟ったように呟く彼女は見た目のかわいらしさからは想像もできないほど、凛とした空気を纏っていた。

「それってどういう意味?」
「そのままの意味ですよ。だって私を本当に憎んでいるだけなら、今こうして話をしているわけがないのですから」

 答えになっていない。今日の事で私が彼女を憎んでいないとわかったのだとしても、今までずっと好意を抱いていた理由にはならない。

先ほど会った時に、私をお茶に誘ったことを考えると以前から私が彼女の事を憎んでいないことを知っていたように思える。それも確信をもって。

「やっぱりわからない。そんなに私を好きになる理由がないわ」
「理由なら先ほど言いました。一目惚れだと」
「それがおかしいと言っているのよ!」

思わず大きな声が出てしまい、咄嗟に口元を押える。
周りがこちらをチラチラと見ていることに気づき声を抑えた。

「たとえ理由のない一目惚れだとしても、私が悪意を持っていないとどうしてわかるの? まさか人の心を読めるなんて言わないでしょう?」
「知っているからです。貴方が誰も恨めないことを」

何、を。
誰も憎めないなんて、そんなこと。

そんな事は――――。

「今の私は貴方よりも貴方自身の事を理解しているかもしれません。だからわかるのです。貴方がこの世で一番優しい人だという事を」

知っている?
私の事を、私よりも?

なにそれ。
まるで黒龍みたいなことを……。

あれ?
待って。

もしかして、セイラは。

「ねぇ、私たち生まれる前にどこかで会っていたりするの?」

今生まれたばかりの小さな推測。
そんなことはないと否定してほしかったのかもしれない。

しかし、私の期待は裏切られる。

ニヤリ。
彼女の笑みが答えた。

一瞬にして青ざめた私に気付いたように微笑んだ。

「やっと、気づいてくれた」

ぞっとした。
その声の低さと内に秘めた憎悪にも似た好意を見せつけられたようで体が震え出す。

セイラは私の手を取ると、強い力で握った。
更に強烈な恐怖が私を襲う。

「私の、たった一人の王様」

知っている。
彼女は知っていたのだ。
私の前世を。

たった一言でそれは確信に変わった。

でもどうして?
一体どうして私の前世を知ることができるの?

「貴方も生まれ変わりなの? だから私を知っているの?」

唯一考えられる可能性を彼女に問いかける。
声の震えが抑えられなかった。

「私は生まれ変わってなどいません。だって私にはその資格がありませんので」

生まれ変わる資格がない?
そんな事、どうしてわかるのだろう。

「先ほど言いましたでしょう? 私は作り物の人形なのだと。貴方を苦しめるためだけに造られた傀儡なのです」
「私を苦しめるだけの、傀儡……?」

聞きなれない単語に、不穏な言葉。
淡々とした声ではあったけれど、それが逆に苦しさを言い表しているような気がした。

「ねぇエスティ様。一番苦しいことってなんだと思いますか?」
「……」

瞳が濡れている。
いままで取り繕っていた仮面が剥がれ落ちていく。

「私には大好きな人がいます。でも、私の存在がいずれその方の障壁になる。私はそれがどうしても許せない。だから……」

零れ落ちた涙など気にもせず、彼女は真っ直ぐ私を見つめた。
先ほどまでひどい恐怖を感じていたはずなのに、いつの間にか彼女の悲しみに飲み込まれてしまっていた。

「もし私が貴方の邪魔になったとき、貴方の、貴方自身の手で」



「私を殺してください」


生きていてほしいと、誰かが願ったとして。
その先にさらなる苦しみを呼んでしまうのならば、その選択は本当に正しいものだと言えるのだろうか。

私の前世は少なくともあの時、自身の死を願っていた。
私が死ねば、国民が幸せになると信じていたから。

そして、それは思い通りの結果になった。
あの選択が間違っていたとは思わない。

だから、死というものが絶対的に悪いものなのだと、私には言い切ることはできない。

でも。
例えその経験があったとしても、やはり頷くことなどできない。

自分勝手なのはわかってる。

でも、誰かを殺すような事態なんて起こるべきじゃない。
たとえどんな幸せを手に入れることになったとしても。

その先にどんな苦しみが待っていたとしても。

「頷いては、くださらないのですね」

言葉に詰まっていた私を見て、セイラは気づいたようだ。
私がその願いを叶えられないことに。

それを理解したのか、彼女はゆっくりとした手取りで紅茶を飲み込んだ。
もうすっかり冷めた紅茶を勢いよく飲み干すと、静かにカップを置いた。

「ごめんなさい。私の我が儘なんです。そんなことをしてしまえば、貴方の魂が穢れることを分かっていたはずなのに」

最後の方は小さく呟くような声だった。
寂し気な彼女の表情に罪悪感が募った。

それでも彼女の願いなど聞けるはずもない。

だって多分。
彼は苦しんでいる気がするから。

例え私が彼から何もかもを奪った仇だったとしても。

彼は、優しすぎる人だから。
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