悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第5章

256.彼からの怨念

「そして特にその感情が強かったのが、その……」

急にシリウスは言葉を詰まらせた。
恐らく先ほどの私の訴えと傷つけまいとする葛藤から来るものかもしれない。

もしかしたら龍って、本当は相当情に厚い生物なのかも。

「貴方の婚約者の、彼、なのです」
「あっ」

ああ、そう言う事。
白龍はそれを聞いて私が傷つくのではないかと思って口ごもっていたのね。

なんだ。
やっぱり優しいじゃない。

「つまり、ヴァリタス様からの怨霊が強くなっているってこと?」
「おそらく」

まぁ、それはそうだろう。
彼の私に対する憎悪は相当なものだ。

そして、その最悪な相手が生まれ変わって自分の婚約者になっていたのだ。

さらに恨みを募らせても仕方ない。

「でも、食欲を減退させている憎悪の原因がヴァリタス様のものなら、どうして10歳の頃からそうなったの? 彼が私の正体を知ったのは一昨日のはずなのに」

「憎悪を向ける先が目の前にいる人物だと本人が知らなかったとしても、憎悪というものは正確に標的へと飛んでいきます。もしかしたら貴方と接触したことによって居場所が曖昧だった貴方という標的が、明確になることによってより強く貴方へと注がれるようになったのかもしれません」

だから、10歳の時からだったのか。
はじめてヴァリタス様に会ったのは10歳の頃だったものね。

「でも、どうして私とヴァリタス様が出会ったのが10歳だってわかったの?」
「……すみません。憎悪の主を探す上で憎悪からにじみ出る記憶を覗いたのです。それで」

申し訳なさそうに謝る白龍。

しかし引っかかったのはそこじゃない。

確かに記憶を覗かれるのは恥ずかしいけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
憎悪から記憶が滲み出るなんて現象、初めて聞いた。

きっと人間にはまだ到達できない領域なのだろう。
まだ、龍にしか触れられない領域。

「憎悪から滲み出る記憶なんてものがあるのね」
「結局は人の感情ですから。どういった状況で貴方に向けられてきたのかを覗くことで憎悪が発生した記憶の一部を見ることができるのです。そして彼の憎悪が近年で急激に強くなった時期を覗いてみればおのずとわかった、というわけです」

なるほど。
それをあの短時間でやってのけたってわけね。

しかし、説明されてみたものの龍たちが使う魔法ってやっぱり高度すぎて人間には理解しづらいわね。
魔法に疎い私でもギリギリ理解できたということは、白龍は結構説明上手なのかもしれない。

「でも、じゃあどうして食欲が影響を?」

普通憎悪を向けた相手なら体調を崩させるとか事故に遭わせるとか方法があるはず。
それなのに、強い影響はあるとはいえ食欲なんて一見大したものではないものがロックオンされたのはなぜだろう。

「生きる上で重要なものだからではないですか?」

スパッと切り捨てた白龍の回答は案外単純なものだった。

それゆえに恐ろしい。
遠回りな方法な分、なんだか厄介な感情なのが透けて見える気がして怖いわ。

苦しんで苦しんで死ねって言われているみたい。

「まぁ、彼の事を思うと仕方ないわよね」

そこまで恨まれることをした私が悪い。
でも結構ねちっこいことするのね。

しかし、目の前の彼女はそうは思っていなかったらしい。
私の言葉を聞き、少し驚いたような顔をしていた。

「どうして、そこまでご自分を責めるのですか?」

どうしてって、そんなの。

「私には当然の報いだからよ」

パリンッ!

瞬間ガラスの割れる音が思わず顔をそちらに向ける。
どうやら遠くにあった窓ガラスが割れたらしい。

でも、どうして?
風が強いわけでもないし、割れるような原因は見当たならないのだけど。

「よくわかりました。そこまで根深いとは思ってなかった私の落ち度ですね」

ん?
何の話?

「いいですか。はっきり言っておきます。貴方には誰かに恨まれるような事など何もありません。誰かに殺されるような行為など、貴方は一切していなかったのです。それだけは本当で、前世の事を知っている私たちの総意です」
「……」

っは!
一瞬何を言われているのかわからなくてポカンとしてしまったじゃない。

さっきの話を蒸し返すつもりじゃないけど、その話は終わったはずだわ。
彼らに何を言われても、その言葉に流されるわけにはいかない。

私の場合、楽な方へ流されたらその先に待ち構えるのは心の死のみ。
そうしたら、今度こそ私は自死するしかなくなるだろう。

「貴方たちがそう信じたいのはわかるわ。でも、私がしたことは記録として残っているしヴァリタス様にも確認済みなの」
「しかしそれはっ!」

言って白龍は口を噤んだ。
苦しそうに眉を寄せる彼女の口から、それ以上は発せられないことを私は知っていた。

意地悪であったとしても、肯定することなどできるはずもない。

「わかったでしょう? 彼が私を恨むのも当然なのよ。だから私は彼の行為を受け入れる責任がある」
「違うっ。ちがうのです。貴方は……、貴方はただ……幸せにっ」

虚ろに呟き続ける彼女には悲痛さが滲んでいる。
それでも私は彼女の言葉に耳を傾けることはしなかった。
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