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第5章
257.ダメになった参考書
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7つ地を知り、7夜巡る
無垢で美しい子羊たち
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確実に広まりつつある私の噂は、おそらくもう学院中に伝わっているのだろう。
以前まで顔色を伺っていた先生陣ですら私に冷ややかな視線を向けるときがある。
それもそのはず。
この国の第2王子と婚約していたベルフェリト家の令嬢の本性が、人を貶める悪女だったのだもの。
例え人を教える立場であっても、結局は人間。
動揺するのも無理はないし、魔が差すのもわかる。
わかるけど……。
「また、参考書がダメになったわね」
放課後、帰ろうと思ってロッカーを開けたらこのザマだ。
まさかロッカーの中がこんな水浸しになっているなんて誰が思うだろう。
ロッカーの中には私が個人的に良いと思って買った参考書ばかりだったから、授業を受ける上での支障はないけれど。久しぶりに参考書を読み返そうと思った私からしてみれば憂鬱になることこの上ない。参考書なんていくらでも買ってもらえると思ってたら大間違いなんだから。
私の場合、お父様に直接交渉しなければならないし一度買ってもらったもなんてまたお願いして買ってもらえるかどうか……。生活の全てをお父様の手に握られている私は、普通の令嬢なら持っているポケットマネーさえ持ち合わせていない。
この間市井へ行ったときはどうやら家令がミリアにお金をお持たせてくれていたおかげでどうにかなった。
それにあの時は婚約パーティに身に着ける小物を買いに行くと言う十分な建前もあったため、何かを言われることもなかったし。
本当に建前だけだったけど。
でも今回は違う。
欲しいと言えば必ず理由を聞かれる。
本当のことは言えない。
とはいえ、自分で濡らしただの失くしただの言ったってお父様が怒って終わるだけだろう。
最悪、今後余計な参考書を買ってもらえなくなる可能性だって……。
「はぁ……」
これはもう、諦めるしかないわね。元々半分以上暇つぶしのために買ってもらったようなものだったし、一度以上は目は通してあるものしかないからそこまでして手に入れたい物もない。
まぁ、ここまでされるのはベルフェリト家の評判が良すぎたのと私の存在があまりにも薄すぎたのが原因かもしれないけど。ヴァリタス様があの場にいたことで、皆私がどれほど酷いことをしたのかを彼も認識していると思っている。事実その通りであるし、その理由があれば私をいじめてもヴァリタス様が黙って容認なさると考えているのだろう。
全く、こういうことには皆頭が回るのだから。
とりあえずロッカーの中にある参考書を持ってゴミ箱へと向かう。水を含むともともと重かったものが更に重くなるわ、制服に滲むわで気分が沈む。他の生徒に見られぬよう警戒しながらゴミ箱へ向かうのも結構骨が折れる。
そこまで遠くはないとはいえ、ゴミ箱までの距離がここまで長く感じたのは初めてよ。
参考書のゴミ箱へ投げ入れるとボフッという音を立てた。
うん、これで良しっと。
ん? でも待って。
濡れたまま捨ててしまって良いのよね?
そもそもゴミ箱を使う事って学院以外で滅多にないからこういうルールってよくわからないのよね。
まぁ大丈夫よね。たしかこういうゴミって燃やしてしまうはずだし。
その後追加で2往復してやっとすべての参考書を捨てることができた。
濡れたものを持ってしまったから制服がじんわりと濡れている。
うぅ、制服がぺったりと肌にくっついて気持ち悪い。
捨ててたのは大き目のゴミ箱ではあったのにその半分が私の捨てた参考書で埋まってしまっていた。
これ、先生に見つかったらまた評判下がりそう。
ちらっと周りを見渡し、再度人がいないことを確認するとホッと胸を撫でおろした。
「そっちじゃないですよ」
急に後ろから声が聞こえて咄嗟に振り返る。
振り返った視界に飛び込んできたのは制服を着た子息だった。
先生でなかったことに安堵はしたものの、目の前まで人がいたことにびっくりして後ずさる。
2、3歩ほどの距離にまで人が近くにいたのに気づかないなんて。
驚きのあまり目を見開いている私の様子がおかしかったのか、彼はクスクスと笑っている。
中性的な可愛らしい顔をしているけど、どこか悪意の含んだ笑い方だった。
声と制服で男性だとわかるけど、もし女性の恰好をしていたら気づかないかも。
髪も肩に着くぐらい伸びているし。
「貴方は……、エウリカ伯爵の」
「はい、エウリカ家3男のバイス・エウリカです。まさかベルフェリト様に覚えていただいているなんて、光栄です」
この国の貴族令息なら全て頭に入っているから当然なのだけど、彼らはそんな事知らないものね。
しかし、彼の言い方は険があって良い気がしない。
「私に何か御用?」
嫌悪感を隠しもせず鋭く睨みつけると彼は嫌らしく顔を歪めた。
「いえいえ、大した用はないのですけどね。また貴方が誰かをいじめている現場を目撃したものですから」
誰かをいじめている現場?
一瞬何を言われたのかわからず頭に疑問符を浮かべたが、今自分が行っていた行為を思い出し顔を歪めた。なるほど、私の駄目になった参考書を誰かのものだと勘違いしたのね。
7つ地を知り、7夜巡る
無垢で美しい子羊たち
β
確実に広まりつつある私の噂は、おそらくもう学院中に伝わっているのだろう。
以前まで顔色を伺っていた先生陣ですら私に冷ややかな視線を向けるときがある。
それもそのはず。
この国の第2王子と婚約していたベルフェリト家の令嬢の本性が、人を貶める悪女だったのだもの。
例え人を教える立場であっても、結局は人間。
動揺するのも無理はないし、魔が差すのもわかる。
わかるけど……。
「また、参考書がダメになったわね」
放課後、帰ろうと思ってロッカーを開けたらこのザマだ。
まさかロッカーの中がこんな水浸しになっているなんて誰が思うだろう。
ロッカーの中には私が個人的に良いと思って買った参考書ばかりだったから、授業を受ける上での支障はないけれど。久しぶりに参考書を読み返そうと思った私からしてみれば憂鬱になることこの上ない。参考書なんていくらでも買ってもらえると思ってたら大間違いなんだから。
私の場合、お父様に直接交渉しなければならないし一度買ってもらったもなんてまたお願いして買ってもらえるかどうか……。生活の全てをお父様の手に握られている私は、普通の令嬢なら持っているポケットマネーさえ持ち合わせていない。
この間市井へ行ったときはどうやら家令がミリアにお金をお持たせてくれていたおかげでどうにかなった。
それにあの時は婚約パーティに身に着ける小物を買いに行くと言う十分な建前もあったため、何かを言われることもなかったし。
本当に建前だけだったけど。
でも今回は違う。
欲しいと言えば必ず理由を聞かれる。
本当のことは言えない。
とはいえ、自分で濡らしただの失くしただの言ったってお父様が怒って終わるだけだろう。
最悪、今後余計な参考書を買ってもらえなくなる可能性だって……。
「はぁ……」
これはもう、諦めるしかないわね。元々半分以上暇つぶしのために買ってもらったようなものだったし、一度以上は目は通してあるものしかないからそこまでして手に入れたい物もない。
まぁ、ここまでされるのはベルフェリト家の評判が良すぎたのと私の存在があまりにも薄すぎたのが原因かもしれないけど。ヴァリタス様があの場にいたことで、皆私がどれほど酷いことをしたのかを彼も認識していると思っている。事実その通りであるし、その理由があれば私をいじめてもヴァリタス様が黙って容認なさると考えているのだろう。
全く、こういうことには皆頭が回るのだから。
とりあえずロッカーの中にある参考書を持ってゴミ箱へと向かう。水を含むともともと重かったものが更に重くなるわ、制服に滲むわで気分が沈む。他の生徒に見られぬよう警戒しながらゴミ箱へ向かうのも結構骨が折れる。
そこまで遠くはないとはいえ、ゴミ箱までの距離がここまで長く感じたのは初めてよ。
参考書のゴミ箱へ投げ入れるとボフッという音を立てた。
うん、これで良しっと。
ん? でも待って。
濡れたまま捨ててしまって良いのよね?
そもそもゴミ箱を使う事って学院以外で滅多にないからこういうルールってよくわからないのよね。
まぁ大丈夫よね。たしかこういうゴミって燃やしてしまうはずだし。
その後追加で2往復してやっとすべての参考書を捨てることができた。
濡れたものを持ってしまったから制服がじんわりと濡れている。
うぅ、制服がぺったりと肌にくっついて気持ち悪い。
捨ててたのは大き目のゴミ箱ではあったのにその半分が私の捨てた参考書で埋まってしまっていた。
これ、先生に見つかったらまた評判下がりそう。
ちらっと周りを見渡し、再度人がいないことを確認するとホッと胸を撫でおろした。
「そっちじゃないですよ」
急に後ろから声が聞こえて咄嗟に振り返る。
振り返った視界に飛び込んできたのは制服を着た子息だった。
先生でなかったことに安堵はしたものの、目の前まで人がいたことにびっくりして後ずさる。
2、3歩ほどの距離にまで人が近くにいたのに気づかないなんて。
驚きのあまり目を見開いている私の様子がおかしかったのか、彼はクスクスと笑っている。
中性的な可愛らしい顔をしているけど、どこか悪意の含んだ笑い方だった。
声と制服で男性だとわかるけど、もし女性の恰好をしていたら気づかないかも。
髪も肩に着くぐらい伸びているし。
「貴方は……、エウリカ伯爵の」
「はい、エウリカ家3男のバイス・エウリカです。まさかベルフェリト様に覚えていただいているなんて、光栄です」
この国の貴族令息なら全て頭に入っているから当然なのだけど、彼らはそんな事知らないものね。
しかし、彼の言い方は険があって良い気がしない。
「私に何か御用?」
嫌悪感を隠しもせず鋭く睨みつけると彼は嫌らしく顔を歪めた。
「いえいえ、大した用はないのですけどね。また貴方が誰かをいじめている現場を目撃したものですから」
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