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第5章
258.たとえ違くても
見ず知らずの人にまで悪意をもって接せられるということは、相当私の評判は悪いということなのだろう。彼に勘違いされたままでも私は別に構わないのだが、それではまずいことになってしまう。
なんといっても彼はSクラスの人間なのだ。
つまりヴァリタスと同じクラス。
これ以上ヴァリタスの中での私の評判が下がってしまえば、本当に殺されてしまう。
「残念ながらそれは貴方の勘違いです。この参考書は私のもので――」
「何を可笑しなことを言っているのですか?」
尚も邪悪な笑みを浮かべながら私の顔を覗き込む。
含みのある言い方が嫌らしくて気持ち悪い。
ここまで嫌悪感を抱かせる人も珍しいわ。
「貴方は公爵令嬢なのですよ? ベルフェリト様に手を上げるなんて愚か者はこの学院にはいませんよ」
今更何を……。
全くなんて嫌味を思いつくのだ。
彼らに都合の良い言い訳に顔を歪めることしかできない。
言い返せない私の姿に調子に乗ったのか、彼は突然私の手を掴んできた。
咄嗟に後ずさるものの、男性の力に勝てるはずもなく。
顔を近づけてくる彼の行動を拒絶すらできなかった。
耳元まで口を近づけられ嫌悪感のあまり目を瞑る。
「貴方の行為を殿下に伝えたら、一体どうなってしまうでしょうね」
小さく囁いた声は、私を脅すには十分だった。
と、同時に激しい拒絶が体を駆け抜ける。
これ以上好き勝手されたくないっ!
私は彼の体を思いっきり突き飛ばすと大声を張り上げた。
「私は間違っても公爵令嬢です! たとえどんな状況になったとしても、私は私を貫く! 貴方たちの思い通りになるなんてありえませんわ!」
ドシンと大きな音を立ててしりもちをついた彼は大きく目を見開き驚いている。
やり返せた、と思ったのはほんの数秒だけ。
彼は目を細めると嫌らしく笑った。
ゾクリと背筋が凍る。
「誰か助けてっ! ベルフェリト様が、僕に暴力を!」
「えっ?」
先ほどまで私と対峙していた時とは全く違う、弱弱しい声を上げる彼に違和感を覚える。
するとどこからともなく廊下の先から人がチラチラと現れ始めた。
そこでようやく気が付いた。
私は彼らに嵌められたのだ。
放課後だというのにぞろぞろと人が集まってくる。
この都合の良さはどう考えても計ったとしか思えない。
なんて人っ!
キッと彼を睨みつけるも、私だけに不気味な笑みを浮かべすぐに周りの人達に泣きついていく。
集まってきた人たちは仕込みなのかそうなのかはわからないが、ざっとみても30人はいるだろう。
皆、私を悪意のある瞳で睨みつけている。
「一体何の騒ぎです」
そこへ聞き覚えのある声が聞こえ、私の顔はサッと青ざめた。
現れたのはヴァリタスだった。
私を冷ややかな瞳で見つめる彼には、婚約者に対する容赦などなにもないだろう。
望んでいた関係だとはいえ、こんな目に遭いたかったわけじゃないのに。
どうにか取り繕うと彼に頭を下げる。
「ごきげんよう、殿下。お騒がせしまして申し訳ありません」
私の言葉は届いているのだろうけど、返事は聞こえなかった。
ヴァリタスは目の前でしりもちをついているエウリカ子息に手を差し伸べた。
差し出された彼は途端に顔を明るくし、ヴァリタスの手を取ると起き上がる。
「ヴァリタス殿下っ! ありがとうございます」
大袈裟なほど感激したような様子でお礼をいうエウリカ子息。
しかしヴァリタスは彼の反応などさして興味も無さそうに冷たくあしらった。
「それで? この状況は一体?」
私の知っている彼は、どんな状況においても相手に必要最低限の優しさを見せていた。
だが、今の彼からは見る影もない。
冷徹で残忍で、感情など何も籠っていないその声に寂しさを感じずにはいられなかった。
「殿下、助けてください! 私はただ、彼女がまた他生徒をいじめている現場を見つけたので、問い詰めただけなのです。それなのに、都合が悪いからと私に暴力を……」
エウリカ子息は冷淡にあしらわれたのにも関わらず、ヴァリタスに縋りついている。
彼の様子を見ても、こんな風に縋りつけるなんてどんな神経をしているのだろう。
呆れつつも傍観している場合じゃない。
どうにかしてこの状況を打破しないと、本当に罪人として捕まってしまいそうな勢いだ。
きっとベルフェリト家は私を守らないだろうし、ヴァリタスが捕らえろと言ったら一発だろう。
でも、なんて言えば信じてもらえる?
今のヴァリタスには私が何を言っても通じるはずがない。
届かないのに何かを口にしても、さらに責められる未来しか見えない。
悔しさのあまり歯を食いしばるとギリギリと音がなっているのが聞こえるようだった。
「彼の言っていることは本当なのですか?」
ヴァリタスは私の方へと体を向けると、淡々とした言葉で問いかけてきた。相変わらず声は冷たいが、エウリカ子息に発しているものと全く同じものだったからか、少しだけ安堵している自分がいた。
しかし、私に聞いたって信じるつもりなんて無いくせに、どうしてわざわざ聞いてくるのだろう。
この状況下で私が悪者であるということはすでに決定している。それが真実でなくとも、これだけの承認と彼の仕込みがある。信頼が失墜した私の言葉を信じる人などどこにもいないし、それは目の前にいるヴァリタスとて同じこと。
私がこの場で逆転できる筋道など、有りはしないのだ。
諦めた私は肩を落とし、下を向くことしかできなかった。
なんといっても彼はSクラスの人間なのだ。
つまりヴァリタスと同じクラス。
これ以上ヴァリタスの中での私の評判が下がってしまえば、本当に殺されてしまう。
「残念ながらそれは貴方の勘違いです。この参考書は私のもので――」
「何を可笑しなことを言っているのですか?」
尚も邪悪な笑みを浮かべながら私の顔を覗き込む。
含みのある言い方が嫌らしくて気持ち悪い。
ここまで嫌悪感を抱かせる人も珍しいわ。
「貴方は公爵令嬢なのですよ? ベルフェリト様に手を上げるなんて愚か者はこの学院にはいませんよ」
今更何を……。
全くなんて嫌味を思いつくのだ。
彼らに都合の良い言い訳に顔を歪めることしかできない。
言い返せない私の姿に調子に乗ったのか、彼は突然私の手を掴んできた。
咄嗟に後ずさるものの、男性の力に勝てるはずもなく。
顔を近づけてくる彼の行動を拒絶すらできなかった。
耳元まで口を近づけられ嫌悪感のあまり目を瞑る。
「貴方の行為を殿下に伝えたら、一体どうなってしまうでしょうね」
小さく囁いた声は、私を脅すには十分だった。
と、同時に激しい拒絶が体を駆け抜ける。
これ以上好き勝手されたくないっ!
私は彼の体を思いっきり突き飛ばすと大声を張り上げた。
「私は間違っても公爵令嬢です! たとえどんな状況になったとしても、私は私を貫く! 貴方たちの思い通りになるなんてありえませんわ!」
ドシンと大きな音を立ててしりもちをついた彼は大きく目を見開き驚いている。
やり返せた、と思ったのはほんの数秒だけ。
彼は目を細めると嫌らしく笑った。
ゾクリと背筋が凍る。
「誰か助けてっ! ベルフェリト様が、僕に暴力を!」
「えっ?」
先ほどまで私と対峙していた時とは全く違う、弱弱しい声を上げる彼に違和感を覚える。
するとどこからともなく廊下の先から人がチラチラと現れ始めた。
そこでようやく気が付いた。
私は彼らに嵌められたのだ。
放課後だというのにぞろぞろと人が集まってくる。
この都合の良さはどう考えても計ったとしか思えない。
なんて人っ!
キッと彼を睨みつけるも、私だけに不気味な笑みを浮かべすぐに周りの人達に泣きついていく。
集まってきた人たちは仕込みなのかそうなのかはわからないが、ざっとみても30人はいるだろう。
皆、私を悪意のある瞳で睨みつけている。
「一体何の騒ぎです」
そこへ聞き覚えのある声が聞こえ、私の顔はサッと青ざめた。
現れたのはヴァリタスだった。
私を冷ややかな瞳で見つめる彼には、婚約者に対する容赦などなにもないだろう。
望んでいた関係だとはいえ、こんな目に遭いたかったわけじゃないのに。
どうにか取り繕うと彼に頭を下げる。
「ごきげんよう、殿下。お騒がせしまして申し訳ありません」
私の言葉は届いているのだろうけど、返事は聞こえなかった。
ヴァリタスは目の前でしりもちをついているエウリカ子息に手を差し伸べた。
差し出された彼は途端に顔を明るくし、ヴァリタスの手を取ると起き上がる。
「ヴァリタス殿下っ! ありがとうございます」
大袈裟なほど感激したような様子でお礼をいうエウリカ子息。
しかしヴァリタスは彼の反応などさして興味も無さそうに冷たくあしらった。
「それで? この状況は一体?」
私の知っている彼は、どんな状況においても相手に必要最低限の優しさを見せていた。
だが、今の彼からは見る影もない。
冷徹で残忍で、感情など何も籠っていないその声に寂しさを感じずにはいられなかった。
「殿下、助けてください! 私はただ、彼女がまた他生徒をいじめている現場を見つけたので、問い詰めただけなのです。それなのに、都合が悪いからと私に暴力を……」
エウリカ子息は冷淡にあしらわれたのにも関わらず、ヴァリタスに縋りついている。
彼の様子を見ても、こんな風に縋りつけるなんてどんな神経をしているのだろう。
呆れつつも傍観している場合じゃない。
どうにかしてこの状況を打破しないと、本当に罪人として捕まってしまいそうな勢いだ。
きっとベルフェリト家は私を守らないだろうし、ヴァリタスが捕らえろと言ったら一発だろう。
でも、なんて言えば信じてもらえる?
今のヴァリタスには私が何を言っても通じるはずがない。
届かないのに何かを口にしても、さらに責められる未来しか見えない。
悔しさのあまり歯を食いしばるとギリギリと音がなっているのが聞こえるようだった。
「彼の言っていることは本当なのですか?」
ヴァリタスは私の方へと体を向けると、淡々とした言葉で問いかけてきた。相変わらず声は冷たいが、エウリカ子息に発しているものと全く同じものだったからか、少しだけ安堵している自分がいた。
しかし、私に聞いたって信じるつもりなんて無いくせに、どうしてわざわざ聞いてくるのだろう。
この状況下で私が悪者であるということはすでに決定している。それが真実でなくとも、これだけの承認と彼の仕込みがある。信頼が失墜した私の言葉を信じる人などどこにもいないし、それは目の前にいるヴァリタスとて同じこと。
私がこの場で逆転できる筋道など、有りはしないのだ。
諦めた私は肩を落とし、下を向くことしかできなかった。
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お楽しみいただけると幸いです。