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第5章
260.理由なんて…
「そうでしたか。もしやとは思っていましたが。もうそこまで広まっているとは予想しておりませんでした」
父と仲が悪いことなど、今更広まったところで痛くも痒くもない。
私がショックを受けているのはベルフェリト家の評判を落としてしまったことだ。
だがいずれ家督を継ぐお兄様の事や妹のシルビアの事を考えると心が軋む。
2人とも、私の前世を知ってもなお受け入れてくれた人だから。
「なぜ、君の御父上は君を嫌う?」
さほど傷ついていない私の様子に疑念を抱いたようだ。
探るような眼差しで見つめてくる。
あまり、良い気はしない。
「そんなの、決まっているではないですか。ヴァリタス様の前世が好きだからでしょう」
私の言葉でより一層嫌悪感を露わにした彼はその眼差しで私を刺してきた。
しかし、私にそんなものなど通用しない。
こと、父に関して言えば私は何を言われようともう動じない。
もう何も感じない。
「貴方も知っているでしょう? お父様が彼の英雄の熱心な信者だということを。大好きな英雄の敵を好む人間が一体どこにいますか?」
「しかし、ベルフェリト公は人格者です。たとえ変えられない事実だったとしても、自分の娘を害することなど――」
「自分の娘?」
言われて初めて、その言葉に違和感を持った。
私の言葉にそれまで平静だった彼の顔が大きく歪む。
目を見開き、酷く驚いているようだった。
お父様が私を娘だと思っていたことなど、一体どれほどあっただろうか。
血が繋がっている、ただの他人。
既に両親は私の事をそう認識している。
そして、きっと私も。
「お父様が人格者なのは認めましょう。自分の領民だけでなく、この国の民であれば誰に対しても優しい人です。でもそれは、あの人にとって敵ではない人達だから」
父はバートンを信奉していた。
彼の生きざまはまさに、今の父が成している姿と似ている。
誰にでも優しく、平等に民を守る。
きっと父は少年の心のままに正しい道を歩んでいたのだ。
私にさえ出会わなければ、きっと今でも憧れた英雄と同じ姿でいられたことだろう。
「おそらく今まで敵だと認識した人がいなかったのでしょう。だから、父はいつまでも優しい人でいられた。しかし、私が現れてしまった。どうしても許せない相手が」
父が変わってしまったのは、間違いなく私の所為。
代々国民を慈しみ、国民に愛され続けるベルフェリト家の姿さえも歪めてしまうほどに私という存在は異質だった。
もしかしたら父は、英雄を汚した人間としてだけでなく自分の家を窮地に追い込む可能性のある存在としても、私を忌み嫌っていたのかもしれない。
「父はきっと、昔から何も変わってなどいません。領民の事も国の事も、変わらず愛しているでしょう。このオルタリア王国の全てを深く愛しています」
そこに私はいなくても。
いや、いてはいけない存在として。
初めから父の愛する国の中に私は存在してはいなかったのかもしれない。
「だからこそ、父は私は滅しなければならないのです」
私はきっと、クオフォリア時代の遺跡。
あの時代から復活してきた、恐ろしく滅しなければならない負の対象。
そんな汚い存在はこの栄光から生まれた国にあってはならない。
例えそれが自分の娘であっても例外ではないのだ。
ある意味父は人の上に立つに十分な資質を備えた人なのだろう。
「ああ、勘違いなさらないでくださる? 私の父が私に対してああなのは、自業自得なのです」
私の前世が初めて判明したとき、まだ父は優しかった。
あの時の父の反応を考えるに、最初から私を歪んだ対象で見ていたわけではないのだろう。
父が歪んでしまったのはそう、私が婚約破棄を一行に進められないから。
だから父は怒っているだけ。愛せなくなってしまっただけ。
全ては私が愚直すぎるゆえなのだ。
だから、根本的な原因はやはり私なのだろう。
……。
それにしてもさっきから私ばかり話しているけれど、ヴァリタスはちゃんと話を聞いているのかしら。首を絞められてからまだ数日しか経っていないため、あまり顔を見て話しができる状況ではない。今こうして彼と向き合って言葉を発している私を褒めて欲しいぐらいだ。
しかし、こうも反応が無いともしや途中でいなくなっているのではないかとすら思ってしまう。
そうなれば私は虚空に向かって1人で話している変人となってしまうじゃないの。
流石にそんなの恥ずかしすぎる。
ふと顔を上げると、相変わらずヴァリタスはそこに立っていた。
安堵したのも束の間、彼の表情が予想したものとは異なっていたことに驚いてしまった。
なんで?
どうしてそんなに苦しそうな顔をしているの?
笑うか、貶されるかのどちらかだと思っていた私は彼のその顔に釘付けになった。
「エスティ、貴方はそれで良いのですか? 前世に振り回され、大事な人も失うなんて、そんなのはっ」
まるで私の事を心の底から心配しているような顔だった。
どうして?
この間は容赦なく私に殺意を向けた癖に。
おかしい。
彼が私に優しさを見せるなんて、そんなのは……。
絶対にありえないはずなのに。
父と仲が悪いことなど、今更広まったところで痛くも痒くもない。
私がショックを受けているのはベルフェリト家の評判を落としてしまったことだ。
だがいずれ家督を継ぐお兄様の事や妹のシルビアの事を考えると心が軋む。
2人とも、私の前世を知ってもなお受け入れてくれた人だから。
「なぜ、君の御父上は君を嫌う?」
さほど傷ついていない私の様子に疑念を抱いたようだ。
探るような眼差しで見つめてくる。
あまり、良い気はしない。
「そんなの、決まっているではないですか。ヴァリタス様の前世が好きだからでしょう」
私の言葉でより一層嫌悪感を露わにした彼はその眼差しで私を刺してきた。
しかし、私にそんなものなど通用しない。
こと、父に関して言えば私は何を言われようともう動じない。
もう何も感じない。
「貴方も知っているでしょう? お父様が彼の英雄の熱心な信者だということを。大好きな英雄の敵を好む人間が一体どこにいますか?」
「しかし、ベルフェリト公は人格者です。たとえ変えられない事実だったとしても、自分の娘を害することなど――」
「自分の娘?」
言われて初めて、その言葉に違和感を持った。
私の言葉にそれまで平静だった彼の顔が大きく歪む。
目を見開き、酷く驚いているようだった。
お父様が私を娘だと思っていたことなど、一体どれほどあっただろうか。
血が繋がっている、ただの他人。
既に両親は私の事をそう認識している。
そして、きっと私も。
「お父様が人格者なのは認めましょう。自分の領民だけでなく、この国の民であれば誰に対しても優しい人です。でもそれは、あの人にとって敵ではない人達だから」
父はバートンを信奉していた。
彼の生きざまはまさに、今の父が成している姿と似ている。
誰にでも優しく、平等に民を守る。
きっと父は少年の心のままに正しい道を歩んでいたのだ。
私にさえ出会わなければ、きっと今でも憧れた英雄と同じ姿でいられたことだろう。
「おそらく今まで敵だと認識した人がいなかったのでしょう。だから、父はいつまでも優しい人でいられた。しかし、私が現れてしまった。どうしても許せない相手が」
父が変わってしまったのは、間違いなく私の所為。
代々国民を慈しみ、国民に愛され続けるベルフェリト家の姿さえも歪めてしまうほどに私という存在は異質だった。
もしかしたら父は、英雄を汚した人間としてだけでなく自分の家を窮地に追い込む可能性のある存在としても、私を忌み嫌っていたのかもしれない。
「父はきっと、昔から何も変わってなどいません。領民の事も国の事も、変わらず愛しているでしょう。このオルタリア王国の全てを深く愛しています」
そこに私はいなくても。
いや、いてはいけない存在として。
初めから父の愛する国の中に私は存在してはいなかったのかもしれない。
「だからこそ、父は私は滅しなければならないのです」
私はきっと、クオフォリア時代の遺跡。
あの時代から復活してきた、恐ろしく滅しなければならない負の対象。
そんな汚い存在はこの栄光から生まれた国にあってはならない。
例えそれが自分の娘であっても例外ではないのだ。
ある意味父は人の上に立つに十分な資質を備えた人なのだろう。
「ああ、勘違いなさらないでくださる? 私の父が私に対してああなのは、自業自得なのです」
私の前世が初めて判明したとき、まだ父は優しかった。
あの時の父の反応を考えるに、最初から私を歪んだ対象で見ていたわけではないのだろう。
父が歪んでしまったのはそう、私が婚約破棄を一行に進められないから。
だから父は怒っているだけ。愛せなくなってしまっただけ。
全ては私が愚直すぎるゆえなのだ。
だから、根本的な原因はやはり私なのだろう。
……。
それにしてもさっきから私ばかり話しているけれど、ヴァリタスはちゃんと話を聞いているのかしら。首を絞められてからまだ数日しか経っていないため、あまり顔を見て話しができる状況ではない。今こうして彼と向き合って言葉を発している私を褒めて欲しいぐらいだ。
しかし、こうも反応が無いともしや途中でいなくなっているのではないかとすら思ってしまう。
そうなれば私は虚空に向かって1人で話している変人となってしまうじゃないの。
流石にそんなの恥ずかしすぎる。
ふと顔を上げると、相変わらずヴァリタスはそこに立っていた。
安堵したのも束の間、彼の表情が予想したものとは異なっていたことに驚いてしまった。
なんで?
どうしてそんなに苦しそうな顔をしているの?
笑うか、貶されるかのどちらかだと思っていた私は彼のその顔に釘付けになった。
「エスティ、貴方はそれで良いのですか? 前世に振り回され、大事な人も失うなんて、そんなのはっ」
まるで私の事を心の底から心配しているような顔だった。
どうして?
この間は容赦なく私に殺意を向けた癖に。
おかしい。
彼が私に優しさを見せるなんて、そんなのは……。
絶対にありえないはずなのに。
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お楽しみいただけると幸いです。