269 / 339
第5章
264.手紙と紙切れ
しおりを挟む
手紙を受け取り、折りたたまれたそれをパラと開いた。
書かれていたのは間違いなくお姉さまの字。
しかし、その内容は信じられないものだった。
「なに、これ……」
とある男爵令嬢に宛てられたそれは、彼女を酷く見下し蔑んだものだった。
同時に嫉妬と憎悪が垣間見える
優しいお姉さまが書くとは思えないような、酷いもの。
けれど、だからこそ手紙の内容に違和感を覚える。
これは、私の知っているお姉さまじゃない。
そもそもお姉さまは誰かに憎しみを抱くような性格ではないし、爵位や階級の格差で態度を変えるような人ではないはず。離れていた時間の方が多いけれど、私はお姉さまがそういう人なのだと知っている。
極めつけはこの彼女へ向けた嫉妬と、ヴァリタス殿下への強い愛情と独占欲。
私はお姉さまがヴァリタス殿下に対し好意を向けている様子を見たことが無かった。
つまりこれは、彼女が作った偽物だ。
だって優しさを体現したようなお姉さまがこんなことをするはずがないもの。
「いくらシャルロット殿下でも、こんな偽物を用意するなんてあんまりです!」
視界に彼女の姿を捉え、見据えた。
ここまで彼女へ反抗したのは初めてだった。
例え彼女でも、お姉さまを貶めるような行為を自作するなんて許せない。
私の心は強い意志が灯っていた。
しかし、それもすぐに打ち砕かれる。
「なんですって?」
氷のように冷たい声と私を見つめる虚ろな目。
酷く気分を害したときに見せる表情だった。
一気に今までされてきたいじめの数々がフラッシュバックして私を襲う。
体が鉛のように重くて、彼女から目を逸らしたいのに一向に動かない。怖くて堪らなくて、息を吸いたいのにうまく呼吸できなかった。ただヒュッと喉がなる音が聞こえる。
ガタンッ!! と強くテーブルを蹴る音が聞こえ、瞬時に身を縮こませた。
「ホント面倒なヤツ。ならこれは?」
パラッと彼女の手から零れたのは、何かの紙切れだった。
顎でクイとそれを指され、恐る恐る手に取る。
それはベルフェリト家のものだけが使用できる、メモの切れ端だった。
書かれていたのは、何かの指示。
内容からみるに誰かをいじめるような内容のものだった。
そしてそこに書かれていた文字もお姉さまのもの。
「おえぇっ」
先ほど過去のいじめの場面がフラッシュバックして敏感になっていたのかもしれない。手紙の文字を理解するやいなや胃の中のものを戻してしまった。私が戻したそれに顔を背け酷く蔑んだ目で私を見るシャルロット殿下の視線が突き刺さる。
溜息を吐きながら呆れたように吐き捨てる。
「全く、なんて汚らしい。私の前でそんな汚物を吐き出すなんて、恥を知りなさい」
蔑む瞳は更に激しくなって私を見つめている。
しかし、私にとってその反応はチャンスだった。これで人を呼んでくれるかもしれない。汚物に塗れたテーブルの前で会話を続けるなんて事、プライドの高い彼女が耐えられるわけがない。
メイドでもなんでも呼んでくれれば、彼女を帰すきっかけになる。
なんとか口を開いてメイドを呼ぶよう提案しようとした時だった。
「でも、これでわかったでしょう? アンタの姉は本当にいじめをしていたってことが」
え?
まさかこのまま続けるの?
驚愕したような眼差しを向けるも、目の前に座った彼女は酷く嬉しそうな顔で私を見つめている。
目の前の汚物などまるで目に入っていないように。
ああ、駄目だ。
彼女は満足するまでここを動かない。
私が彼女にとって都合の良い行動をするまでここから動く気はないのだ。
そう察した瞬間、体から一気に力が抜けた。
俯いた私の頭上から、容赦のない彼女の言葉が降り注ぐ。
「公爵家が特注する専用のメモ用紙なんて偽装するのは困難なのは貴方だって知っているでしょう? それにね、誰かの筆跡を真似る魔法は法律で禁止されているわ。そもそも、あの女の筆跡なんて私は知らないしね」
確かに彼女の言う通りだ。
筆跡を真似る魔法はたとえ上位貴族であっても重罪に科せられる。下手をすれば爵位の返上すらありえるほどの罪となる。そんなリスクを犯すほど、目の前の王女様は馬鹿じゃない。
加えてベルフェリト家専用のメモ用紙は、王族であっても簡単に手に入るものではない。
つまり先ほど差し出された手紙もメモ帳も、すべて本物だということだ。
「これで分かったでしょう? アンタの姉はね、私と同じように人をいじめていたの。アンタが虐められていることを知っていて、同じことを他の人にもしたのよ?」
シャルロット殿下は更に私の心を抉っていく。
信じていたお姉さまがまさかいじめなんて、信じたくない。
でも、証拠がある。
どうして?
なんでそんなことを……。
そこでふと、ある夜の日の事を思い出した。
『シルビアは、あの子たちに一体どんなことをされたの?』
あの時の言葉は、私の事を心配して聞いてくれていたのだと思っていた。
でも……。
先ほど渡された紙切れを震える手でつかみ、確かめる。
戻しそうな口を押えながら。
紙切れに書かれている内容の中に私がされてきたものと同じ行為が書かれていた。
それも、一度だけではなく何度も何度も繰り返し。
書かれていたのは間違いなくお姉さまの字。
しかし、その内容は信じられないものだった。
「なに、これ……」
とある男爵令嬢に宛てられたそれは、彼女を酷く見下し蔑んだものだった。
同時に嫉妬と憎悪が垣間見える
優しいお姉さまが書くとは思えないような、酷いもの。
けれど、だからこそ手紙の内容に違和感を覚える。
これは、私の知っているお姉さまじゃない。
そもそもお姉さまは誰かに憎しみを抱くような性格ではないし、爵位や階級の格差で態度を変えるような人ではないはず。離れていた時間の方が多いけれど、私はお姉さまがそういう人なのだと知っている。
極めつけはこの彼女へ向けた嫉妬と、ヴァリタス殿下への強い愛情と独占欲。
私はお姉さまがヴァリタス殿下に対し好意を向けている様子を見たことが無かった。
つまりこれは、彼女が作った偽物だ。
だって優しさを体現したようなお姉さまがこんなことをするはずがないもの。
「いくらシャルロット殿下でも、こんな偽物を用意するなんてあんまりです!」
視界に彼女の姿を捉え、見据えた。
ここまで彼女へ反抗したのは初めてだった。
例え彼女でも、お姉さまを貶めるような行為を自作するなんて許せない。
私の心は強い意志が灯っていた。
しかし、それもすぐに打ち砕かれる。
「なんですって?」
氷のように冷たい声と私を見つめる虚ろな目。
酷く気分を害したときに見せる表情だった。
一気に今までされてきたいじめの数々がフラッシュバックして私を襲う。
体が鉛のように重くて、彼女から目を逸らしたいのに一向に動かない。怖くて堪らなくて、息を吸いたいのにうまく呼吸できなかった。ただヒュッと喉がなる音が聞こえる。
ガタンッ!! と強くテーブルを蹴る音が聞こえ、瞬時に身を縮こませた。
「ホント面倒なヤツ。ならこれは?」
パラッと彼女の手から零れたのは、何かの紙切れだった。
顎でクイとそれを指され、恐る恐る手に取る。
それはベルフェリト家のものだけが使用できる、メモの切れ端だった。
書かれていたのは、何かの指示。
内容からみるに誰かをいじめるような内容のものだった。
そしてそこに書かれていた文字もお姉さまのもの。
「おえぇっ」
先ほど過去のいじめの場面がフラッシュバックして敏感になっていたのかもしれない。手紙の文字を理解するやいなや胃の中のものを戻してしまった。私が戻したそれに顔を背け酷く蔑んだ目で私を見るシャルロット殿下の視線が突き刺さる。
溜息を吐きながら呆れたように吐き捨てる。
「全く、なんて汚らしい。私の前でそんな汚物を吐き出すなんて、恥を知りなさい」
蔑む瞳は更に激しくなって私を見つめている。
しかし、私にとってその反応はチャンスだった。これで人を呼んでくれるかもしれない。汚物に塗れたテーブルの前で会話を続けるなんて事、プライドの高い彼女が耐えられるわけがない。
メイドでもなんでも呼んでくれれば、彼女を帰すきっかけになる。
なんとか口を開いてメイドを呼ぶよう提案しようとした時だった。
「でも、これでわかったでしょう? アンタの姉は本当にいじめをしていたってことが」
え?
まさかこのまま続けるの?
驚愕したような眼差しを向けるも、目の前に座った彼女は酷く嬉しそうな顔で私を見つめている。
目の前の汚物などまるで目に入っていないように。
ああ、駄目だ。
彼女は満足するまでここを動かない。
私が彼女にとって都合の良い行動をするまでここから動く気はないのだ。
そう察した瞬間、体から一気に力が抜けた。
俯いた私の頭上から、容赦のない彼女の言葉が降り注ぐ。
「公爵家が特注する専用のメモ用紙なんて偽装するのは困難なのは貴方だって知っているでしょう? それにね、誰かの筆跡を真似る魔法は法律で禁止されているわ。そもそも、あの女の筆跡なんて私は知らないしね」
確かに彼女の言う通りだ。
筆跡を真似る魔法はたとえ上位貴族であっても重罪に科せられる。下手をすれば爵位の返上すらありえるほどの罪となる。そんなリスクを犯すほど、目の前の王女様は馬鹿じゃない。
加えてベルフェリト家専用のメモ用紙は、王族であっても簡単に手に入るものではない。
つまり先ほど差し出された手紙もメモ帳も、すべて本物だということだ。
「これで分かったでしょう? アンタの姉はね、私と同じように人をいじめていたの。アンタが虐められていることを知っていて、同じことを他の人にもしたのよ?」
シャルロット殿下は更に私の心を抉っていく。
信じていたお姉さまがまさかいじめなんて、信じたくない。
でも、証拠がある。
どうして?
なんでそんなことを……。
そこでふと、ある夜の日の事を思い出した。
『シルビアは、あの子たちに一体どんなことをされたの?』
あの時の言葉は、私の事を心配して聞いてくれていたのだと思っていた。
でも……。
先ほど渡された紙切れを震える手でつかみ、確かめる。
戻しそうな口を押えながら。
紙切れに書かれている内容の中に私がされてきたものと同じ行為が書かれていた。
それも、一度だけではなく何度も何度も繰り返し。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる