悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第5章

264.手紙と紙切れ

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手紙を受け取り、折りたたまれたそれをパラと開いた。

書かれていたのは間違いなくお姉さまの字。
しかし、その内容は信じられないものだった。

「なに、これ……」

とある男爵令嬢に宛てられたそれは、彼女を酷く見下し蔑んだものだった。
同時に嫉妬と憎悪が垣間見える

優しいお姉さまが書くとは思えないような、酷いもの。

けれど、だからこそ手紙の内容に違和感を覚える。
これは、私の知っているお姉さまじゃない。

そもそもお姉さまは誰かに憎しみを抱くような性格ではないし、爵位や階級の格差で態度を変えるような人ではないはず。離れていた時間の方が多いけれど、私はお姉さまがそういう人なのだと知っている。

極めつけはこの彼女へ向けた嫉妬と、ヴァリタス殿下への強い愛情と独占欲。
私はお姉さまがヴァリタス殿下に対し好意を向けている様子を見たことが無かった。

つまりこれは、彼女が作った偽物だ。

だって優しさを体現したようなお姉さまがこんなことをするはずがないもの。

「いくらシャルロット殿下でも、こんな偽物を用意するなんてあんまりです!」

視界に彼女の姿を捉え、見据えた。

ここまで彼女へ反抗したのは初めてだった。
例え彼女でも、お姉さまを貶めるような行為を自作するなんて許せない。

私の心は強い意志が灯っていた。

しかし、それもすぐに打ち砕かれる。

「なんですって?」

氷のように冷たい声と私を見つめる虚ろな目。
酷く気分を害したときに見せる表情だった。

一気に今までされてきたいじめの数々がフラッシュバックして私を襲う。

体が鉛のように重くて、彼女から目を逸らしたいのに一向に動かない。怖くて堪らなくて、息を吸いたいのにうまく呼吸できなかった。ただヒュッと喉がなる音が聞こえる。

ガタンッ!! と強くテーブルを蹴る音が聞こえ、瞬時に身を縮こませた。

「ホント面倒なヤツ。ならこれは?」

パラッと彼女の手から零れたのは、何かの紙切れだった。
顎でクイとそれを指され、恐る恐る手に取る。

それはベルフェリト家のものだけが使用できる、メモの切れ端だった。
書かれていたのは、何かの指示。

内容からみるに誰かをいじめるような内容のものだった。
そしてそこに書かれていた文字もお姉さまのもの。

「おえぇっ」

先ほど過去のいじめの場面がフラッシュバックして敏感になっていたのかもしれない。手紙の文字を理解するやいなや胃の中のものを戻してしまった。私が戻したそれに顔を背け酷く蔑んだ目で私を見るシャルロット殿下の視線が突き刺さる。

溜息を吐きながら呆れたように吐き捨てる。

「全く、なんて汚らしい。私の前でそんな汚物を吐き出すなんて、恥を知りなさい」

蔑む瞳は更に激しくなって私を見つめている。

しかし、私にとってその反応はチャンスだった。これで人を呼んでくれるかもしれない。汚物に塗れたテーブルの前で会話を続けるなんて事、プライドの高い彼女が耐えられるわけがない。

メイドでもなんでも呼んでくれれば、彼女を帰すきっかけになる。

なんとか口を開いてメイドを呼ぶよう提案しようとした時だった。

「でも、これでわかったでしょう? アンタの姉は本当にいじめをしていたってことが」

え?
まさかこのまま続けるの?
驚愕したような眼差しを向けるも、目の前に座った彼女は酷く嬉しそうな顔で私を見つめている。

目の前の汚物などまるで目に入っていないように。

ああ、駄目だ。

彼女は満足するまでここを動かない。
私が彼女にとって都合の良い行動をするまでここから動く気はないのだ。

そう察した瞬間、体から一気に力が抜けた。
俯いた私の頭上から、容赦のない彼女の言葉が降り注ぐ。

「公爵家が特注する専用のメモ用紙なんて偽装するのは困難なのは貴方だって知っているでしょう? それにね、誰かの筆跡を真似る魔法は法律で禁止されているわ。そもそも、あの女の筆跡なんて私は知らないしね」

確かに彼女の言う通りだ。

筆跡を真似る魔法はたとえ上位貴族であっても重罪に科せられる。下手をすれば爵位の返上すらありえるほどの罪となる。そんなリスクを犯すほど、目の前の王女様は馬鹿じゃない。

加えてベルフェリト家専用のメモ用紙は、王族であっても簡単に手に入るものではない。
つまり先ほど差し出された手紙もメモ帳も、すべて本物だということだ。

「これで分かったでしょう? アンタの姉はね、私と同じように人をいじめていたの。アンタが虐められていることを知っていて、同じことを他の人にもしたのよ?」

シャルロット殿下は更に私の心を抉っていく。
信じていたお姉さまがまさかいじめなんて、信じたくない。

でも、証拠がある。

どうして?
なんでそんなことを……。

そこでふと、ある夜の日の事を思い出した。

『シルビアは、あの子たちに一体どんなことをされたの?』

あの時の言葉は、私の事を心配して聞いてくれていたのだと思っていた。

でも……。
先ほど渡された紙切れを震える手でつかみ、確かめる。
戻しそうな口を押えながら。

紙切れに書かれている内容の中に私がされてきたものと同じ行為が書かれていた。
それも、一度だけではなく何度も何度も繰り返し。
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