悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第5章

266.二度目の来訪

家に帰ると、屋敷内がざわざわとしていた。
使用人が忙しなく動いていることは時々あるけれど、なんだか様子が変だ。

ソワソワとした使用人の雰囲気を感じ、気になった私は1人のメイドを捕まえて問いただした。

「ねぇ貴方、何かあったの?」
「エ、エスティ様。お帰りなさいませ」
「挨拶は良いわ。それより何の騒ぎ?」
「ええっと……」

誰かの顔色を伺うような仕草にさらに不信感を募らせる。
一歩足を彼女に近づけるとジっと彼女の顔を見つめてもう一度問いかけた。

「いいから、早く答えて」

流石に逆らえないと察したようで困った顔で周りをチラチラと確認している。
周りを警戒しながら私の方へ近づくと小さく囁くような声で耳打ちをしてきた。

「実は、先ほどシャルロット王女殿下が来られまして」
「シャルロット殿下が?」

驚きのあまり大声を上げそうになって、なんとか声を抑えた。
またしても彼女が訪ねてくるなんて思いもしなかった。

嫌な予感がする。
というか、彼女が来て何事もないなんてありえない。

「それで、シルビアお嬢様が、その……」
「なに⁈ シルビアに何があったの?」

メイドの両肩を掴み、詰め寄る。
やっぱり何かあったのね。

「それが、どうやらシャルロット殿下に粗相をしてしまったようで……」

『粗相』という単語に居ても立っても居られず私は駆けだしていた。
シルビアに早く会わなければ。

またあの時みたいな事になっていたらと思うと心配で堪らない。メイドにまで伝わっているという事は、母にも知られている可能性が高い。シャルロットにされた事も気がかりだけれど、母まで何かしているのかもしれないと思うと焦燥感でどうにかなりそうだった。

お願い、間に合って。

「シルビア!」

息を切らしながらシルビアの部屋まで来ると勢いよく扉を開けた。
薄暗い部屋の中は、以前シルビアと久しぶりに話したときと同じ空気が漂っている。

が、以前とはどこか異なる不穏な雰囲気を醸し出していることに嫌な予感がますます強くなる。

部屋を見渡すと、すぐにシルビアを見つけることができた。
テーブルセットの椅子にこちらに背を向けたまま1人で座っている。

暗がりの中でのその姿は異様だった。

「シルビア? さっきメイドから聞いたわ。またシャルロット殿下が来られたって――」
「来ないで!」

ビクリと体が震える。
彼女の強い拒絶の言葉に思わず足を止める。

昨日まで笑顔を向けてくれていたシルビアとは全く異なる姿に強い衝撃を受ける。

「一体どうしたの? また何かされたのでしょう?」

シルビアが酷いことをされたというのは背中しか見えなくても理解できた。ここから見る限りでは体や服が傷つけられた風には見えないから暴力は振るわれなかったらしい。しかし、精神的には相当ショックを受けている様子なのは確かだ。

一体何をしたのよ、あの女。

「貴方には関係ないことです。もう出てってください」
「え?」

何かを諦めたような冷たい声。
今までのシルビアからは考えられないような声色に眉を顰める。

様子はおかしいのは一目瞭然だけれど、それ以上に今の言葉には私を突き放すような姿勢を如実に表していた。関係ないと言われたこともさることながら、私の事を『お姉さま』以外で呼ぶことなど今までなかったことだ。

これはただいじめられたわけじゃない。暴力的な事をされただけでは、シルビアは簡単に折れる子ではない。それは前回シャルロットが彼女を傷つけたときの反応でわかっていた。

だが、シルビアは精神的にはそこまで強い子ではない。
彼女が以前いじめられていたとき何が一番傷ついたのかを教えてくれた時、気づいたことだ。

もしそれをシャルロットが気づいていたとしたら?
一体彼女は何をするだろうか。

絶対にシルビアを精神的に追い詰めることをするだろう。内容なんて考えられないけれど、何か私が思いもつかない悍ましい事をするのではないかと思ってしまう。

このままじゃ駄目だ。
シルビアが何をされたのか、ちゃんと聞かないと。
じゃないと、この子を守れない。

私は意を決してシルビアへ近づくと、彼女の正面の位置に立った。
それまでシルビアは微動だにしなかった。

「関係あるわ。一体なにがあったの? 教えて」

俯きがちの彼女の姿を目でとらえ、ハッとした。

瞳に一切の光が消えていたのだ。
焦点の合わない瞳は何も映すこともなく、深淵の欠片を取り込んだように冷たく空虚なものだった。

思わず絶句していると、シルビアが静かに私を見上げた。

「貴方なんて、もう信じない。どうせ貴方もお母さまとお父様と同じ、私を道具としか思ってない癖に」
「道具、なんて……」

何を吹き込まれたらそんな思考になるのだろう。
シルビアから発せられた言葉に理解が追い付かない。

否定しようとしたがシルビアが何を考えてそう言ったのか分からず言葉が詰まった。

何を吹き込まれた?
あの女に何をされたの?

問いかけて答えてくれるだろうか。
そんな事をぐるぐると考えているとどうしても口を開けない。

困惑する私を後目にシルビアは静かに立ち上がった。
自身の机まで行くと、引き出しを開け何かを取り出す。

振り返った彼女の手に握られたそれを見て、私は驚愕した。
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