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第5章
270.放課後の来訪者
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夕飯の後、父から手紙が来た。
顔を合わせたくないようで、同じ敷地内にいるのに手紙を寄越すなんてユーモア溢れることをするのはおそらく父ぐらいではなかろうか。
きっと他の貴族の方に話したら良い話のタネになるだろう。
そんなこと話せる相手なんていないのだけどね。
どうせシルビアとの喧嘩の制裁だろうと思って蓋を開けてみれば、その通り。
今後一切家族との関わりを持たない事。
特にシルビアとは顔を合わせることもしない事。
そんな要項が追加されていた。
まったくどれだけ人を縛り付ければ気が済むのかしら。
それに家族と関わりを持たないってことは、つまり両親やシルビアだけでなくお兄様も対象に入っているってことよね。
両親に対しては万々歳なのだけど、兄弟仲がそこそこ良い私にとってお兄様やシルビアと交流を持てなくなるのは少し痛い。
特にシルビアは精神的に参っている状況だ。
母にも最近心を開いていないようだし、あの子の心が壊れてしまわないか心配で仕方ない。
こっそり覗きにでも良ければいいけれど、父がどこまで手を回しているのかわからない今下手に動くのは危険だし。
困ったわね。
「とはいえ、しばらくは様子を見るしかないか」
相手の出方がわからない以上、今は大人しくしていた方が良いだろう。
ただシルビアの事がどうしても頭から離れなかった。
どこか嫌な予感を感じ取っていたのかもしれない。
***
「もうすぐ祝賀パーティですわね。ヴィータお兄様」
放課後、教室に残って勉強をしているといつの間にかいないはずの妹がそこに立っていた。
中等部の学生が高等部の校舎に足を踏み入れるのは校則で禁止されている。
ここは高等部の教室で間違いない。
それなのに、なぜ中等部の妹がここにいるのか。
気分を落ち着かせるため深いため息を吐くが、あまり気分は良くならなかった。
「シャル、どうしてここに?」
「嫌ですわお兄様。会いたくて来たに決まっているではないですか」
ふふふと口元を押えながら笑っているが、この行動には理解しがたいものがある。
学院生である以上、校則を守るのはいわば義務に等しい。
例え王族であっても、それは覆りようのない事実のはず。
現に時期国王である兄でさえもしっかり校則を守っていたのだ。
半分以上グレス・ベルフェリト子息のおかげではあるが。
つまり我が学び舎の校則の前では身分など関係ない。
はずなのだが……。
痛くなっていく頭を押さえつつ、妹をどう説得したものか考えた。
どうやら妹は寮生活であるにも関わらず、頻繁に外へ遊びに出ていっているという話まで聞こえてくるほどの校則破りなのだ。皆の手本となるべき王族がそんな行動をしていたら、他の貴族たちの目にどのように映るのかなんてのは分かり切っていること。
どうにかして、やめさせなければならない。
しかしながら、我が妹は我が強くわがままで一度欲したものはなにがなんでも手に入れる、非常に欲深い性格をしている。
一度注意したとしても繰り返すのが落ちだ。
全く、周りの人間が甘やかすからこうなるのだ。
「シャル、前にも言ったが校則はしっかりと守るものだ。非常事態で無い限り破って良いものではない。前にもそう伝えたと思っていたけど」
「い、嫌ですわお兄様。私がお兄様から言われた言葉を忘れるわけないじゃないですか」
焦るように言うシャルの目は泳いでいて、どう見ても忘れていたようにしか見えない。
この反応を見るに、直す気はさらさらないのだろう。
再三注意してもこうなのだからどうしようもない。
だとしても、注意しないわけにはいかなかった。
これはもう、性格なのだろう。
「そう。ではなぜここに?」
鋭く睨みつけるとシャルは一瞬怯んだ。
しかし、パッと顔を明るくすると思いついたように口早に捲し立てる。
「でも、今の状況は非常事態のようなものなのではありませんか?」
「? どういう意味だい?」
どうせその場限りの言い逃れを適当に思いついたのだろう。
既に相手にすることの意味を失くし、目の前に広げられたノートに視線を戻し止めていたペンを走らせる。
僕の行動をみてさらに焦ったような仕草をすると、シャルは突然突拍子もない事を言いだした。
「ベルフェリト令嬢と仲があまり宜しくないとお聞きしましたわ」
ピタリと手が止まる。
なぜ、シャルがそんなことを知っているのだろう。
「どうしてそんなことを?」
「あら、あんなに噂になっていて知らないわけないじゃないですか。この学院の生徒であれば誰でも知っていると思いますよ」
噂?
噂ってまさか……。
いや、しかしあれが中等部まで知られているのはさすがにまずい。
もうすぐ婚約破棄をすると言っても、彼女はまだ王族の婚約者。
変な噂が立ってしまっていては王族の信用問題にも関わってくる。
ただでさえ、昔から他の貴族との交流を避けていることに疑問を持っている貴族が多々いるというのに。
「噂って、一体どんな噂が流れているんだ?」
「あら、とぼけるんですか? 噂なんて一つしかないでしょう?」
ニヤリと笑う妹の顔は見ていてとても嫌な気分になる。
どうしてこの子はこんなにも嫌らしく笑うのだろう。
顔を合わせたくないようで、同じ敷地内にいるのに手紙を寄越すなんてユーモア溢れることをするのはおそらく父ぐらいではなかろうか。
きっと他の貴族の方に話したら良い話のタネになるだろう。
そんなこと話せる相手なんていないのだけどね。
どうせシルビアとの喧嘩の制裁だろうと思って蓋を開けてみれば、その通り。
今後一切家族との関わりを持たない事。
特にシルビアとは顔を合わせることもしない事。
そんな要項が追加されていた。
まったくどれだけ人を縛り付ければ気が済むのかしら。
それに家族と関わりを持たないってことは、つまり両親やシルビアだけでなくお兄様も対象に入っているってことよね。
両親に対しては万々歳なのだけど、兄弟仲がそこそこ良い私にとってお兄様やシルビアと交流を持てなくなるのは少し痛い。
特にシルビアは精神的に参っている状況だ。
母にも最近心を開いていないようだし、あの子の心が壊れてしまわないか心配で仕方ない。
こっそり覗きにでも良ければいいけれど、父がどこまで手を回しているのかわからない今下手に動くのは危険だし。
困ったわね。
「とはいえ、しばらくは様子を見るしかないか」
相手の出方がわからない以上、今は大人しくしていた方が良いだろう。
ただシルビアの事がどうしても頭から離れなかった。
どこか嫌な予感を感じ取っていたのかもしれない。
***
「もうすぐ祝賀パーティですわね。ヴィータお兄様」
放課後、教室に残って勉強をしているといつの間にかいないはずの妹がそこに立っていた。
中等部の学生が高等部の校舎に足を踏み入れるのは校則で禁止されている。
ここは高等部の教室で間違いない。
それなのに、なぜ中等部の妹がここにいるのか。
気分を落ち着かせるため深いため息を吐くが、あまり気分は良くならなかった。
「シャル、どうしてここに?」
「嫌ですわお兄様。会いたくて来たに決まっているではないですか」
ふふふと口元を押えながら笑っているが、この行動には理解しがたいものがある。
学院生である以上、校則を守るのはいわば義務に等しい。
例え王族であっても、それは覆りようのない事実のはず。
現に時期国王である兄でさえもしっかり校則を守っていたのだ。
半分以上グレス・ベルフェリト子息のおかげではあるが。
つまり我が学び舎の校則の前では身分など関係ない。
はずなのだが……。
痛くなっていく頭を押さえつつ、妹をどう説得したものか考えた。
どうやら妹は寮生活であるにも関わらず、頻繁に外へ遊びに出ていっているという話まで聞こえてくるほどの校則破りなのだ。皆の手本となるべき王族がそんな行動をしていたら、他の貴族たちの目にどのように映るのかなんてのは分かり切っていること。
どうにかして、やめさせなければならない。
しかしながら、我が妹は我が強くわがままで一度欲したものはなにがなんでも手に入れる、非常に欲深い性格をしている。
一度注意したとしても繰り返すのが落ちだ。
全く、周りの人間が甘やかすからこうなるのだ。
「シャル、前にも言ったが校則はしっかりと守るものだ。非常事態で無い限り破って良いものではない。前にもそう伝えたと思っていたけど」
「い、嫌ですわお兄様。私がお兄様から言われた言葉を忘れるわけないじゃないですか」
焦るように言うシャルの目は泳いでいて、どう見ても忘れていたようにしか見えない。
この反応を見るに、直す気はさらさらないのだろう。
再三注意してもこうなのだからどうしようもない。
だとしても、注意しないわけにはいかなかった。
これはもう、性格なのだろう。
「そう。ではなぜここに?」
鋭く睨みつけるとシャルは一瞬怯んだ。
しかし、パッと顔を明るくすると思いついたように口早に捲し立てる。
「でも、今の状況は非常事態のようなものなのではありませんか?」
「? どういう意味だい?」
どうせその場限りの言い逃れを適当に思いついたのだろう。
既に相手にすることの意味を失くし、目の前に広げられたノートに視線を戻し止めていたペンを走らせる。
僕の行動をみてさらに焦ったような仕草をすると、シャルは突然突拍子もない事を言いだした。
「ベルフェリト令嬢と仲があまり宜しくないとお聞きしましたわ」
ピタリと手が止まる。
なぜ、シャルがそんなことを知っているのだろう。
「どうしてそんなことを?」
「あら、あんなに噂になっていて知らないわけないじゃないですか。この学院の生徒であれば誰でも知っていると思いますよ」
噂?
噂ってまさか……。
いや、しかしあれが中等部まで知られているのはさすがにまずい。
もうすぐ婚約破棄をすると言っても、彼女はまだ王族の婚約者。
変な噂が立ってしまっていては王族の信用問題にも関わってくる。
ただでさえ、昔から他の貴族との交流を避けていることに疑問を持っている貴族が多々いるというのに。
「噂って、一体どんな噂が流れているんだ?」
「あら、とぼけるんですか? 噂なんて一つしかないでしょう?」
ニヤリと笑う妹の顔は見ていてとても嫌な気分になる。
どうしてこの子はこんなにも嫌らしく笑うのだろう。
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