悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第5章

271.妹からのアドバイス

「男爵令嬢へのいじめ事件。その首謀者がまさか第2王子の婚約者だったなんて……、噂にならないわけありませんわ。加えて庶民への侮辱ともとれるような発言をしたそうじゃありませんか」

どこか嬉しそうな声色で告げるシャルの瞳には、強い光が灯っている。
まるでこの状況を心底楽しんでいるような、そんな表情だ。

シャルは僕に近づくと小さな声で告げた。

「このままでは貴族たちの間でお父様の判断が間違いだったと印象付けられてしまうかもしれません」

目を見開き驚く。
この子は一体何を考えてそんな事を言っているのだろう。

「た、たかが噂ぐらいでそこまで大ごとになる訳ないじゃないか。シャルは心配性だな」

動揺を悟られないよう躱す様に言った。
しかし、発した言葉には明らかな動揺が現れている。

僕の心中に気づいていたのかはわからないが、シャルはその言葉を覆すように反論する。

「あらお兄様。社交界は女性を中心に回っているのですよ? 女性は誰でも噂が大好物ですわ。そしてそこからあらぬ考察が生まれてしまうものなのです」

いまだ楽しそうに話すシャルの真意がわからず、ジッと見つめてしまう。この子は昔から悪戯好きだった。しかし、こんな風に邪悪に笑うような子供ではなかったはずだ。

少しだけ目の前の少女が妹に見えなくなってしまった。

「それで、シャルは何が言いたいんだい? 嫌味を言う為だけに僕に会いに来たわけじゃないだろう」

できれば早く会話を切り上げてこの子と別れたい。
ざわざわと胸騒ぎする心臓の願うまま僕はシャルにそう告げた。

「私はお兄様の事もお父様の事も大好きです。なのでお2人が貶められる状況を黙って見ているなんてことできません。そこで、女性である私がお兄様にアドバイスを差し上げようと思いまして」
「アドバイス?」

シャルの言うアドバイスなどろくなことが無い。
昔からフィーネ様やエスティに対し良い感情を持っていなかった。

なら、今回だって婚約破棄だの彼女を貶めようだの言ってくるに違いない。

「お兄様、彼女と極力仲の良いアピールをしてください」
「え?」

やっぱりこの子はおかしい。
僕の知っているシャルは嫌いな人間に対してはっきりとその感情をむき出しにしていた。

自慢じゃないがシャルは異常に兄である僕たちを慕っている。
そのため兄の婚約者を目の敵にしていきていたのだ。

それなのに今更仲良くしろだなんて。
今目の前にいる少女は誰なのだろう。
まるで僕の知っている妹ではない。

離れている間にこんなにも性格が変わるものなのだろうか。

「『足らない婚約者相手にそれでも彼女を思って健気につくす王子様』なんて、お兄様の評判が上がっても下がることはないでしょう。それにそんな相手に何年も婚約破棄をしないで我慢していたと思わせられれば、周りから婚約破棄を勧められるはずです」

そうすれば評判が落ちることなくこの現状を切り抜くことができる。
シャルはそう思って言っているのだろう。

いまだ社交界の噂話がどれほどの影響力を持っているのか把握できていないが、確かに円満に婚約破棄できるのは魅力的だ。第2王子で男である僕は、一度婚約破棄したとしてもいくらでも相手は見つかる。
しかし、彼女は……。

いいや。僕は一体何を考えているんだ。

今更彼女の心配なんて。

「お兄様がベルフェリト公爵令嬢を気にかけていることをアピールするのは最優先事項です。行動する前でも後でも構いませんが、周囲に彼女は自分が更生させると吹聴するのを忘れないでくださいね」

次々に告げられる言葉を聞きながら、やはりおかしいと思ってしまう。
なぜそんなことをしなければならないのだろう。

シャルは僕たちがすでに婚約破棄に向かっていることを知らない。
彼女の前世の正体でさえも。

彼女を見放したはずの僕には彼女がどうなろうと知ったことではないし、今後の僕の評判だって今はどうだって良い。ただ婚約破棄が無事済めば。

そう思っているはずなのに……。

なぜかシャルの言葉は僕に甘く響いて仕方ない。

「僕は、どう、すれば良い……?」

縋る先はシャルではない。
それが間違っていることに気づいているはずなのに。

口から出た言葉は、どうしようもなく行き場のない心だった。

「う~ん、そうですね。例えば昼休みには食事に誘うとか、放課後一緒にいるところを他の生徒にアピールするとか。あとは……」



「今度の祝賀パーティーにドレスを贈って、お揃いの恰好をするとか」



「お揃いの、格好」

酷く甘美に頭に響いた。彼女と何かお揃いのものを身に着けることなんて、今までほとんどなかった。僕が送ったものを彼女が使用すること自体が少なかったからだ。

そもそも物欲が少ないため、何を送っても表面上では喜んでくれていても本当にうれしそうにはしてくれなかったから。

それがどこか寂しく感じていた事は否めない。
しかし、もうそんな思いなど感じることなどないはずなのだ。

だって僕は彼女が、そして彼が嫌いだ。
憎んでいるはずなのに。

今更そんな言葉に動揺する理由などないはず。
なのになぜ、こんなにもその事に胸を焦がしているのだろう。

もう見限った相手のはずなのに。
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