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第5章
274.運命を殺せたら
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「……」
「……」
ん?
もう話はもう終わったのよね?
だったら立去っても良いのに、どうしてまだ私の前にいるんだろう。
仕方がないので私からこの場を離れることにした。
本当は彼の横を通り抜けるのがなんとなく嫌なのだけど。
まぁこのまま重たい空気に晒される方が嫌だし。
コツコツと足音を鳴らしながら彼の横を通り過ぎていく。
と、横に並んだところで右腕を掴まれた。
「えっ?」
突然の事で驚いてしまった反動で足がよろけてしまい転びそうになる。
「危ないっ!」
咄嗟に彼の伸ばした腕が私の体を支えた。
2人してしゃがみこむような姿勢になる。
彼の吐息をうなじに感じ、妙に恥ずかしかった。
「あ、あの殿下っ」
「僕は、僕はまだ貴方を許したわけじゃない。そう思っているはずなのに、いつもなぜか貴方の影を探している自分がいる」
冷たい声の中に小さく暖かな温もりを感じた。
諦めきれない執着を感じ、警告が頭の中で鳴り出している気がする。
なのに遮ることができなかった。
「これは貴方がかけた呪いか何かなのか?」
呪い?
彼にとっては私を思う気持ちは呪いなの?
ズキリと胸が痛む。
「そんなのはっ――――」
「貴方が死んでからずっと、貴方を探してた。自分で殺したくせに、貴方がいなくなった瞬間この世界は僕にとって何の意味も無くなってしまった」
縋るような声だった。
私が死んだあとの彼がどうなったのかは知らない。
ただ、王位を継いでから4年も経たずにその地位を弟に譲ったというのは国史で習ったことだ。
だが経歴はそこまで。
そのあとの記述はどこにも書かれていなかった。
もし今言った言葉が本当だとしたら、もしかして前世の彼は――。
と、思考を巡らせたところで突然彼に両肩を掴まれた。
彼は私から離れるように体を引くと顔を向き合わせるような体制に変わった。
じっと見つめる彼の瞳には涙が溜まっていた。
「これは、貴方が僕に何かをしたからじゃないのか?」
答えの出ない自問自答に巻き込まれた気分だ。
彼は私が魔法を一切使えないことを知っている。
それでも私に問いかけるのは、私が答えを持っているかもしれないという期待。
憎いはずの私に縋るほど彼は切羽詰まっているというのか。
「貴方はどうして僕の前に現れた? どうして僕を救う言葉をそんなに簡単に吐くんだ。貴方は僕をどう思っているんだ……」
項垂れるように顔を伏せる彼は肩を震わせている。
地面を小さな雫が濡らしていた。
染み行くそれを見ていても私の心は冷えていくばかりだった。
どう思っているのか、ですって?
そんな、そんな事……。
本当のことなんて言えるわけないじゃない。
それとも、本当のことを言っても良いのだろうか。
貴方が好きなのだと。
あんなに酷いことをされても、まだ貴方が私の心の真ん中にいるのだと。
言っても、良いのだろうか。
涙が零れて落ちていく。
それは地面に置かれた彼の手を濡らした。
「エスティ……?」
顔を見上げた彼の顔は酷く驚いていた。
でもそこに憎しみや怒りはどこにもなかった。
ただ、ヴァリタスの捨てていったはずの想いだけがそこにあった。
優しく名前を呼ばれて感じたのは、胸を焦がすような痛みだけ。
ああ、やっぱり。
この想いは貴方にはいらないものだった。
捉えた私と縛られた貴方。
そうして生き続けた果てに破滅が待っているのだと知っているはずなのに。
どうしたって惹かれ合うのは、どうしてなのだろう。
私たちの前世を思えば憎しみ合うしかない。
その中で愛が生まれたとしても、どこにも行き場などあるはずがないのだ。
例えこの想いを突き通したとしても、貴方にとっては凶器にしかならないのに。
どうしてそんなことを言えるというのだろう。
「嫌いよ、貴方なんて、大っ嫌い。出会ったあの瞬間から、ずっとずっと。本当はずっと、大嫌いだったのよ」
どうして、こんなにも涙が零れてしまうのだろう。
せめて顔を見られないように俯く。
これじゃあ説得力なんてないじゃない。
「貴方になんか出会わなければよかった。生まれ変わったあの時から。いいえ、死を迎えたあの瞬間からその運命を殺せていれば」
本当は前世から出会うべきではなかったのかもしれない。
でも、そう言ってしまえば彼自身の生きた意味が無くなってしまう。
例え悲劇で終わるとしても。
あの出会いだけは無かったことにはしてはいけない。
だって。
彼にとって私の騎士として生きている時間だけが、全てだったのだから。
念を押すために言った言葉は、果たして思い通りに彼に届いただろうか。
「それが君の本音なのか? 君は本当にそう思っているのか……?」
震えるような声が降ってくる。
半信半疑の声は震えが混じっていた。
ゆっくりと、顔を上げて彼を見つめる。
問いかけた言葉にしっかりと顔を見て答える必要があったから。
「ああ、そうだよ。我らはこうして憎しみ合う事しかできない。これが我らの運命なのだ」
これは誰の言葉なのだろうか。
私? それとも彼?
どっちでも良い。
目の前の人に届くのなら言葉など思いなど。
なんだって構わない。
「……」
ん?
もう話はもう終わったのよね?
だったら立去っても良いのに、どうしてまだ私の前にいるんだろう。
仕方がないので私からこの場を離れることにした。
本当は彼の横を通り抜けるのがなんとなく嫌なのだけど。
まぁこのまま重たい空気に晒される方が嫌だし。
コツコツと足音を鳴らしながら彼の横を通り過ぎていく。
と、横に並んだところで右腕を掴まれた。
「えっ?」
突然の事で驚いてしまった反動で足がよろけてしまい転びそうになる。
「危ないっ!」
咄嗟に彼の伸ばした腕が私の体を支えた。
2人してしゃがみこむような姿勢になる。
彼の吐息をうなじに感じ、妙に恥ずかしかった。
「あ、あの殿下っ」
「僕は、僕はまだ貴方を許したわけじゃない。そう思っているはずなのに、いつもなぜか貴方の影を探している自分がいる」
冷たい声の中に小さく暖かな温もりを感じた。
諦めきれない執着を感じ、警告が頭の中で鳴り出している気がする。
なのに遮ることができなかった。
「これは貴方がかけた呪いか何かなのか?」
呪い?
彼にとっては私を思う気持ちは呪いなの?
ズキリと胸が痛む。
「そんなのはっ――――」
「貴方が死んでからずっと、貴方を探してた。自分で殺したくせに、貴方がいなくなった瞬間この世界は僕にとって何の意味も無くなってしまった」
縋るような声だった。
私が死んだあとの彼がどうなったのかは知らない。
ただ、王位を継いでから4年も経たずにその地位を弟に譲ったというのは国史で習ったことだ。
だが経歴はそこまで。
そのあとの記述はどこにも書かれていなかった。
もし今言った言葉が本当だとしたら、もしかして前世の彼は――。
と、思考を巡らせたところで突然彼に両肩を掴まれた。
彼は私から離れるように体を引くと顔を向き合わせるような体制に変わった。
じっと見つめる彼の瞳には涙が溜まっていた。
「これは、貴方が僕に何かをしたからじゃないのか?」
答えの出ない自問自答に巻き込まれた気分だ。
彼は私が魔法を一切使えないことを知っている。
それでも私に問いかけるのは、私が答えを持っているかもしれないという期待。
憎いはずの私に縋るほど彼は切羽詰まっているというのか。
「貴方はどうして僕の前に現れた? どうして僕を救う言葉をそんなに簡単に吐くんだ。貴方は僕をどう思っているんだ……」
項垂れるように顔を伏せる彼は肩を震わせている。
地面を小さな雫が濡らしていた。
染み行くそれを見ていても私の心は冷えていくばかりだった。
どう思っているのか、ですって?
そんな、そんな事……。
本当のことなんて言えるわけないじゃない。
それとも、本当のことを言っても良いのだろうか。
貴方が好きなのだと。
あんなに酷いことをされても、まだ貴方が私の心の真ん中にいるのだと。
言っても、良いのだろうか。
涙が零れて落ちていく。
それは地面に置かれた彼の手を濡らした。
「エスティ……?」
顔を見上げた彼の顔は酷く驚いていた。
でもそこに憎しみや怒りはどこにもなかった。
ただ、ヴァリタスの捨てていったはずの想いだけがそこにあった。
優しく名前を呼ばれて感じたのは、胸を焦がすような痛みだけ。
ああ、やっぱり。
この想いは貴方にはいらないものだった。
捉えた私と縛られた貴方。
そうして生き続けた果てに破滅が待っているのだと知っているはずなのに。
どうしたって惹かれ合うのは、どうしてなのだろう。
私たちの前世を思えば憎しみ合うしかない。
その中で愛が生まれたとしても、どこにも行き場などあるはずがないのだ。
例えこの想いを突き通したとしても、貴方にとっては凶器にしかならないのに。
どうしてそんなことを言えるというのだろう。
「嫌いよ、貴方なんて、大っ嫌い。出会ったあの瞬間から、ずっとずっと。本当はずっと、大嫌いだったのよ」
どうして、こんなにも涙が零れてしまうのだろう。
せめて顔を見られないように俯く。
これじゃあ説得力なんてないじゃない。
「貴方になんか出会わなければよかった。生まれ変わったあの時から。いいえ、死を迎えたあの瞬間からその運命を殺せていれば」
本当は前世から出会うべきではなかったのかもしれない。
でも、そう言ってしまえば彼自身の生きた意味が無くなってしまう。
例え悲劇で終わるとしても。
あの出会いだけは無かったことにはしてはいけない。
だって。
彼にとって私の騎士として生きている時間だけが、全てだったのだから。
念を押すために言った言葉は、果たして思い通りに彼に届いただろうか。
「それが君の本音なのか? 君は本当にそう思っているのか……?」
震えるような声が降ってくる。
半信半疑の声は震えが混じっていた。
ゆっくりと、顔を上げて彼を見つめる。
問いかけた言葉にしっかりと顔を見て答える必要があったから。
「ああ、そうだよ。我らはこうして憎しみ合う事しかできない。これが我らの運命なのだ」
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私? それとも彼?
どっちでも良い。
目の前の人に届くのなら言葉など思いなど。
なんだって構わない。
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