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第5章
276.ドレス選び
祝賀パーティまであと2週間に差し掛かっていた。
学院から帰ると呼んでいた外商がすでに到着していた。
外商用の応接間に向かうと、すでに様々なドレスが所せましと並べられている。
とはいえ、ほとんどのドレスが青を基調としたものだ。
僕の衣装がすでに決まっているため、そちらと合わせるとなると青いドレスとなってしまう。
こういう時、本当は相手と共に選ぶのが通常なのだろうけれど、僕らの関係を思うとそんなことは死んでもできないだろう。
「これはこれはヴァリタス殿下!」
きっちりと正装を纏った外商が僕の方へ駆け寄ってきた。
釣りあがった猫目が印象的な男性だが、どこか親しみのある雰囲気を感じた。
「今日はお世話になります」
「とんでもないです! よろしくお願いいたします、殿下」
柔和な対応に少しだけホッとした。
結局急な思いつきのため、1箇所の外商しか呼べなかった。
パーティの大きさを考えればもっと吟味する必要があるだろうが、如何せん時間がない。
こうしたとき、より客に寄り添ってくれる人を引き当てられるのは非常に有難いことだ。
早速並べられたドレスを見比べてみる。
どれも彼女を着飾るに相応しいものばかりだった。
「素晴らしいものばかり揃えてくださったみたいで。貴方に頼んでよかった」
「お褒めにあずかり光栄でございます。ああ、そのドレスは生地がとてもすばらしくて!」
僕が手に取っていたドレスをキラキラとした目で紹介する。興奮気味に紹介する姿は仕事柄詳しいというよりかは商品に対する興味ゆえのもののように思える。相手の懐を探るような嫌味がなく非情に話しやすかった。
そんな彼に案内されるままに次々とドレスを紹介されていく。
だがどうもしっくりくるものが見つからない。
もう20着近く見ているが、どれも物足りなさを感じるものばかりだった。
「それでですね、殿下。こちらが――――」
「あら? ヴァリタス様、ドレスをお選びですか?」
外商が次にドレスを紹介しようと笑顔で話しかけた瞬間後ろから声がした。
2人して咄嗟に振り返ると、そこにいたのは――
「フィーネ様っ」
「ふふ、お姉さまと呼んで欲しいと言っていますのに、まだ呼び慣れないのですね」
もうすぐ義理の姉になる、フィーネ様がひょっこりと顔を出しながらそこに立っていた。
彼女は軽い足取りでこちらへ近づいてくる。
僕の隣までくると部屋一面のドレスを見渡し、感嘆する。
「まぁ素敵なドレスばかりですね」
胸の前で手を合わせ嬉しそうに漏らす。
その反応に呼応するように外商の瞳もさらに煌めいていくのがわかった。
「私も一緒に見てもいいですか?」
「え? ええ、構いませんが」
2人は軽く挨拶すると、外商は更に力を入れて紹介し始める。先ほどまではドレスに詳しくない僕にもわかるように説明してくれていた外商だったが、フィーネ様が加わったことでよりディープな説明へと変わっていった。
さらにはフィーネ様が質問する生地の事や施された刺繍などについても話込むようになったおかげで2人の会話から完全に取り残されてしまう。
まぁ、彼女がいてくれたほうが女性の趣味は分かるし有難い事ではあるのだが。
如何せん会話が理解できなくて目の前のドレスをぼうっと見つめることしかできなくていた。
それもすぐに飽きてしまい、一面に並べられたドレスを見渡しはじめていた。
こうしてみると、青色だけで指定していたから濃淡の差が激しい。
でも、彼女に似合うなら……。
ふいに目に入った先にあったそれに目を奪われ、無意識に足が動く。
目の前までくると、それは疎い僕でもわかるほどの美しいドレスだった。
深い青色に金色の刺繍がアクセントとして施されている。
落ち着きがあり、くどい印象のないそれは彼女にとてもよく似合うと思った。
僕の衣装と合わせても、きっと美しく輝くだろう。
「あら、そちらのドレスとってもきれい。エスティ様に良く似合いそう」
いつの間にか隣に立っていたフィーネ様が笑顔でそう告げる。
彼女の意見には、同感だった。
想像の中の、ドレスを着た彼女はとても美しかった。
しかし心の中でさえ彼女は背中を向けたままこちらに顔を向けることはない。
本当はもっと近くで、正面から彼女を捉えたいと思っているのに。
「こちらにします」
「かしこまりました。殿下」
後ろに立っていた外商に告げると、彼は心底嬉しそうな顔をした。
途端にそれまで周りで後ろに手をまわしながら待っていた3、4人が忙しなく動き始める。
恐らく外商が連れてきたスタッフなのだろう。
きびきび動く姿は王宮の使用人の動きではなかった。
彼らが動き回る中、僕とフィーネ様の周りだけが先ほどまでの静けさを保っている。
「それにしても良かったです。エスティ様に断られなくて」
ポツリと溢した言葉は以外なものだった。
「断る、ですか?」
フィーネ様は見上げるようにこちらを見た。泣きそうなひどく寂しそうな顔の彼女がそこにいた。いつもは毅然とした態度で、どこかのらりくらりとした彼女のそんなを見たのは初めてだった。
学院から帰ると呼んでいた外商がすでに到着していた。
外商用の応接間に向かうと、すでに様々なドレスが所せましと並べられている。
とはいえ、ほとんどのドレスが青を基調としたものだ。
僕の衣装がすでに決まっているため、そちらと合わせるとなると青いドレスとなってしまう。
こういう時、本当は相手と共に選ぶのが通常なのだろうけれど、僕らの関係を思うとそんなことは死んでもできないだろう。
「これはこれはヴァリタス殿下!」
きっちりと正装を纏った外商が僕の方へ駆け寄ってきた。
釣りあがった猫目が印象的な男性だが、どこか親しみのある雰囲気を感じた。
「今日はお世話になります」
「とんでもないです! よろしくお願いいたします、殿下」
柔和な対応に少しだけホッとした。
結局急な思いつきのため、1箇所の外商しか呼べなかった。
パーティの大きさを考えればもっと吟味する必要があるだろうが、如何せん時間がない。
こうしたとき、より客に寄り添ってくれる人を引き当てられるのは非常に有難いことだ。
早速並べられたドレスを見比べてみる。
どれも彼女を着飾るに相応しいものばかりだった。
「素晴らしいものばかり揃えてくださったみたいで。貴方に頼んでよかった」
「お褒めにあずかり光栄でございます。ああ、そのドレスは生地がとてもすばらしくて!」
僕が手に取っていたドレスをキラキラとした目で紹介する。興奮気味に紹介する姿は仕事柄詳しいというよりかは商品に対する興味ゆえのもののように思える。相手の懐を探るような嫌味がなく非情に話しやすかった。
そんな彼に案内されるままに次々とドレスを紹介されていく。
だがどうもしっくりくるものが見つからない。
もう20着近く見ているが、どれも物足りなさを感じるものばかりだった。
「それでですね、殿下。こちらが――――」
「あら? ヴァリタス様、ドレスをお選びですか?」
外商が次にドレスを紹介しようと笑顔で話しかけた瞬間後ろから声がした。
2人して咄嗟に振り返ると、そこにいたのは――
「フィーネ様っ」
「ふふ、お姉さまと呼んで欲しいと言っていますのに、まだ呼び慣れないのですね」
もうすぐ義理の姉になる、フィーネ様がひょっこりと顔を出しながらそこに立っていた。
彼女は軽い足取りでこちらへ近づいてくる。
僕の隣までくると部屋一面のドレスを見渡し、感嘆する。
「まぁ素敵なドレスばかりですね」
胸の前で手を合わせ嬉しそうに漏らす。
その反応に呼応するように外商の瞳もさらに煌めいていくのがわかった。
「私も一緒に見てもいいですか?」
「え? ええ、構いませんが」
2人は軽く挨拶すると、外商は更に力を入れて紹介し始める。先ほどまではドレスに詳しくない僕にもわかるように説明してくれていた外商だったが、フィーネ様が加わったことでよりディープな説明へと変わっていった。
さらにはフィーネ様が質問する生地の事や施された刺繍などについても話込むようになったおかげで2人の会話から完全に取り残されてしまう。
まぁ、彼女がいてくれたほうが女性の趣味は分かるし有難い事ではあるのだが。
如何せん会話が理解できなくて目の前のドレスをぼうっと見つめることしかできなくていた。
それもすぐに飽きてしまい、一面に並べられたドレスを見渡しはじめていた。
こうしてみると、青色だけで指定していたから濃淡の差が激しい。
でも、彼女に似合うなら……。
ふいに目に入った先にあったそれに目を奪われ、無意識に足が動く。
目の前までくると、それは疎い僕でもわかるほどの美しいドレスだった。
深い青色に金色の刺繍がアクセントとして施されている。
落ち着きがあり、くどい印象のないそれは彼女にとてもよく似合うと思った。
僕の衣装と合わせても、きっと美しく輝くだろう。
「あら、そちらのドレスとってもきれい。エスティ様に良く似合いそう」
いつの間にか隣に立っていたフィーネ様が笑顔でそう告げる。
彼女の意見には、同感だった。
想像の中の、ドレスを着た彼女はとても美しかった。
しかし心の中でさえ彼女は背中を向けたままこちらに顔を向けることはない。
本当はもっと近くで、正面から彼女を捉えたいと思っているのに。
「こちらにします」
「かしこまりました。殿下」
後ろに立っていた外商に告げると、彼は心底嬉しそうな顔をした。
途端にそれまで周りで後ろに手をまわしながら待っていた3、4人が忙しなく動き始める。
恐らく外商が連れてきたスタッフなのだろう。
きびきび動く姿は王宮の使用人の動きではなかった。
彼らが動き回る中、僕とフィーネ様の周りだけが先ほどまでの静けさを保っている。
「それにしても良かったです。エスティ様に断られなくて」
ポツリと溢した言葉は以外なものだった。
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お楽しみいただけると幸いです。