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第5章
281.さようなら、我が親友
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容赦のない彼女は恐ろしい。
私の方が爵位は上でも彼女に勝てるほど今の私に余裕はない。
何より、これ以上誰かと話をして何かが零れ落ちてしまうのが嫌だった。
「それにその恰好……。式を台無しにするおつもりですか?」
まじまじと上から下まで値踏みするように見ると私を非難した。
ナタリーの言葉に同調したように後ろにいる令嬢たちが頷く。
こういうの、読んだことある。
ナタリーが貸してくれた恋愛小説でよくあった悪役令嬢を糾弾する場面みたい。
ああ、そうか。
彼女たちを真似すれば良いんだ。
そうすれば何も考えなくて良い。
何も感じなくて良い。
「口の利き方に気を付けなさい。貴方は侯爵令嬢で、私は公爵令嬢。それぐらい理解しているでしょう?」
「っ――」
ナタリーは言い返された言葉に反論できず口を噤んだ。
しかし、私に向ける悪意は消えていない。
何か探るような目を向けている。
今のうちにこちらから先に仕掛けた方が良いかもしれない。口喧嘩では彼女に勝てる気がしないし。後ろにいる令嬢たちが何か行動に移すことはなくても1対大勢という構図はこちらの分が悪すぎる。
ただ同じ思いを持つ人が近くにいるということだけで結構頑張れるものだから。
それはナタリーが教えてくれたこと。
「後ろにいる貴方たちも同じよ。こんな女に同調して私に意見しようだなんて、身の程知らずにもほどがあるわ。同じ上位貴族として扱われているのが恥ずかしくて仕方ないわよ」
虚勢を張るように言ったけれどどれほどの効果があるのか。それでも前世が庶民のナタリーにとって地位を振りかざされることは相当堪える言葉なはず。案の定彼女の怒りは更に高まっているように見えた。
しかしそこまで取り乱す様子はない。こういう姿を見ているとたとえ前世が庶民だったとしても、彼女の根本は令嬢としての姿の方が近いのかもしれない。
「貴方まだそんな事言っているの? 爵位は振りかざすためじゃなく守るためのものだってどうして理解していないのよ。そんな貴族がいることの方が問題だわ」
「な、なんですって?」
まさかそこまで言われるとは思わずひどく動揺してしまう。目の前の彼女はまるで知らない相手みたいだった。誰かに対してこんな高圧的に話をする人ではなかったように思うのだけど、まさか敵意を持った相手には容赦がない性格なのかしら。
呆れたようにため息を吐くと、冷めた目で見つめてくる。
蔑まれているような感覚がして途端に怖くなった。
「もし、そのまま生きていくつもりならいずれ制裁が下されるでしょう。まぁもうすぐそうなるのかもしれないけれどね」
まるでこれから私に起こることを予感しているような言い方だった。
もしかしたらヴァリタスから私に婚約破棄をしようとしていることを聞いているのかもしれない。
もう用はなくなったのか、彼女はフイッとそっぽを向くと後ろに引き連れた令嬢たちと共に歩き出した。
「そういえば、シャルロット殿下が探していたわよ」
最後にそんな不穏な言葉を残して去っていく彼女の後ろ姿は、すぐに他の令嬢たちに埋もれて見えなくなってしまう。きっぱりと彼女との縁が切れたことを感じ、安堵するべきなのに酷く心が痛い。
自分で望んた結果にここまで痛みを感じるなんて莫迦だと思っていても受け入れるしかなかった。
「ありがとう、貴方は確かに私の親友だった」
利用した私が言って良い言葉ではないのだろうけど。
彼女に届かなかなくても口に出して言ってみたかった。
去っていった彼女たちから背を向け反対方向へと足を進める。落ち込んだ私はもう誰かにこの姿を見られることも、どこかに隠れて時間を潰すこともどうでも良くなっていた。
上を向くと絢爛豪華な模様の天井が目に入る。
目の端にはこれまた美しいシャンデリアが映っていた。
どれも綺麗で美しい。
けれどそれを見ても虚しい気持ちが溢れるだけだった。
私、1人ぼっちだ。
こんなに煌びやかな場所にいて、華やかな地位を持っていたとしても。
この場所にいるどんな人よりもずっとずっと独りだ。
場違いなここから逃げ出したい。
惨めな私をこれ以上誰かに見られたくない。
でも、足が全然動かない。
逃げ出したくてももう、そこまでの気力が残っていなかった。
ただこうして自分の中に閉じこもって現実逃避をすることしかできない。
ああ、なんて私は――弱くて脆いのだろう。
もっと強い心を持てていたら、こんな思いせずに済んだのだろうか。
別の方法を選べたのだろうか。
この先、幸せになれる未来が見えない。
真っ暗闇に徐々に足を取られて抜け出せなくなるような感覚が私を蝕んでいく。
まるで底なし沼に落とされたみたいだ。
でもきっとそれは私が望んだ未来を手にしようと皆を利用した結果、手に入れたものなのだろう。
なら受け入れるしかない。
この苦痛と孤独と一緒に。
強すぎるシャンデリアの光に目を細め、なんとかそれを堪えていたときだった。
「うふふ、酷い顔ね」
その声は私を煉獄へ落とすものだった。
私の方が爵位は上でも彼女に勝てるほど今の私に余裕はない。
何より、これ以上誰かと話をして何かが零れ落ちてしまうのが嫌だった。
「それにその恰好……。式を台無しにするおつもりですか?」
まじまじと上から下まで値踏みするように見ると私を非難した。
ナタリーの言葉に同調したように後ろにいる令嬢たちが頷く。
こういうの、読んだことある。
ナタリーが貸してくれた恋愛小説でよくあった悪役令嬢を糾弾する場面みたい。
ああ、そうか。
彼女たちを真似すれば良いんだ。
そうすれば何も考えなくて良い。
何も感じなくて良い。
「口の利き方に気を付けなさい。貴方は侯爵令嬢で、私は公爵令嬢。それぐらい理解しているでしょう?」
「っ――」
ナタリーは言い返された言葉に反論できず口を噤んだ。
しかし、私に向ける悪意は消えていない。
何か探るような目を向けている。
今のうちにこちらから先に仕掛けた方が良いかもしれない。口喧嘩では彼女に勝てる気がしないし。後ろにいる令嬢たちが何か行動に移すことはなくても1対大勢という構図はこちらの分が悪すぎる。
ただ同じ思いを持つ人が近くにいるということだけで結構頑張れるものだから。
それはナタリーが教えてくれたこと。
「後ろにいる貴方たちも同じよ。こんな女に同調して私に意見しようだなんて、身の程知らずにもほどがあるわ。同じ上位貴族として扱われているのが恥ずかしくて仕方ないわよ」
虚勢を張るように言ったけれどどれほどの効果があるのか。それでも前世が庶民のナタリーにとって地位を振りかざされることは相当堪える言葉なはず。案の定彼女の怒りは更に高まっているように見えた。
しかしそこまで取り乱す様子はない。こういう姿を見ているとたとえ前世が庶民だったとしても、彼女の根本は令嬢としての姿の方が近いのかもしれない。
「貴方まだそんな事言っているの? 爵位は振りかざすためじゃなく守るためのものだってどうして理解していないのよ。そんな貴族がいることの方が問題だわ」
「な、なんですって?」
まさかそこまで言われるとは思わずひどく動揺してしまう。目の前の彼女はまるで知らない相手みたいだった。誰かに対してこんな高圧的に話をする人ではなかったように思うのだけど、まさか敵意を持った相手には容赦がない性格なのかしら。
呆れたようにため息を吐くと、冷めた目で見つめてくる。
蔑まれているような感覚がして途端に怖くなった。
「もし、そのまま生きていくつもりならいずれ制裁が下されるでしょう。まぁもうすぐそうなるのかもしれないけれどね」
まるでこれから私に起こることを予感しているような言い方だった。
もしかしたらヴァリタスから私に婚約破棄をしようとしていることを聞いているのかもしれない。
もう用はなくなったのか、彼女はフイッとそっぽを向くと後ろに引き連れた令嬢たちと共に歩き出した。
「そういえば、シャルロット殿下が探していたわよ」
最後にそんな不穏な言葉を残して去っていく彼女の後ろ姿は、すぐに他の令嬢たちに埋もれて見えなくなってしまう。きっぱりと彼女との縁が切れたことを感じ、安堵するべきなのに酷く心が痛い。
自分で望んた結果にここまで痛みを感じるなんて莫迦だと思っていても受け入れるしかなかった。
「ありがとう、貴方は確かに私の親友だった」
利用した私が言って良い言葉ではないのだろうけど。
彼女に届かなかなくても口に出して言ってみたかった。
去っていった彼女たちから背を向け反対方向へと足を進める。落ち込んだ私はもう誰かにこの姿を見られることも、どこかに隠れて時間を潰すこともどうでも良くなっていた。
上を向くと絢爛豪華な模様の天井が目に入る。
目の端にはこれまた美しいシャンデリアが映っていた。
どれも綺麗で美しい。
けれどそれを見ても虚しい気持ちが溢れるだけだった。
私、1人ぼっちだ。
こんなに煌びやかな場所にいて、華やかな地位を持っていたとしても。
この場所にいるどんな人よりもずっとずっと独りだ。
場違いなここから逃げ出したい。
惨めな私をこれ以上誰かに見られたくない。
でも、足が全然動かない。
逃げ出したくてももう、そこまでの気力が残っていなかった。
ただこうして自分の中に閉じこもって現実逃避をすることしかできない。
ああ、なんて私は――弱くて脆いのだろう。
もっと強い心を持てていたら、こんな思いせずに済んだのだろうか。
別の方法を選べたのだろうか。
この先、幸せになれる未来が見えない。
真っ暗闇に徐々に足を取られて抜け出せなくなるような感覚が私を蝕んでいく。
まるで底なし沼に落とされたみたいだ。
でもきっとそれは私が望んだ未来を手にしようと皆を利用した結果、手に入れたものなのだろう。
なら受け入れるしかない。
この苦痛と孤独と一緒に。
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「うふふ、酷い顔ね」
その声は私を煉獄へ落とすものだった。
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