悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第6章

290.隠された私室

「お前は馬鹿か。主様は遠くの街で老人が一人死んだくらいで悲しんでたくらいだぞ。誰が好き好んでそんな事するかよ。そんな事、お前が一番よく知ってるだろ」

怒りをふんだんに込められた言葉で突き刺す。

「死ぬなら、主様が一生気づかない方法で勝手に死ね」

更におっかない事を言うと顔を背けた。
黒龍があの人と契約したのは、あの人が25歳の時。

まだ幼かった黒龍は、あの人にしか懐いておらず後ろをいつもくっついて歩いていた。
誰かと交流すること自体を避けていたため、あの人専属の騎士であった僕でもほとんど話したことはない。

あの時は幼子のようで可愛らしかったのに、どうしてこんなに変わってしまったのだろう。
だが、考えてみれば龍というのはもともとこれぐらい気性が荒いのかもしれない。

「さぁ。私は彼の事などあまりわからないので」

適当に躱すとさらに不機嫌な顔になったが、それ以上言い返すことはなかった。

「話が逸れたな。お前に見せたいものがある、付いてこい」
「見せたいもの?」
「いいからっ」

苛立ったように声を荒げると、僕の腕を掴み引っ張っていく。
抵抗する気分にもなれずただ彼の言う通りにした。

着いたのは中庭の花畑。
昔彼女と初めて会った時に案内した場所だった。

そういえば、あの時彼もあの場にいたっけ。
考えてみれば僕ら三人の初対面の場所はここなのだと今更ながら気づいた。

その花畑を素通りし、脇にある小さな建物へと連れて行かれる。
こんな建物あっただろうか。

「ちょっと待ってろ」

彼が壁のどこかを押すような仕草をすると、魔法でできた文字盤が現れた。
見たこともない文字だったが、彼は何でもないようにそれを順番に押していく。
おそらく暗号か何かが掛かっているのだろう。

押し終えて少し後ずさると地鳴りのような音がして壁だったレンガが動いていき、人一人分ぐらいが余裕で通れるぐらいの入り口が現れた。

「これは……」

隠し扉なのだろう。
そもそもこの建物自体、存在を知らなかった。
驚き唖然とする僕に対し、黒龍はまたしても腕を掴み引っ張る。

「早くしろ。お前の場合ここに長居すると厄介だ」

暗闇の中に広がる階段に少し警戒しながらも、導かれるまま後を付いて行った。

しばらく階段を降り、付いたのは天井が高いだけの狭い空間だった。
縦長に伸びたその部屋には小さなベッドと机しかない。
まるで囚人の部屋のような質素な場所だった。

「ここは一体……」

こんな空間が王宮の中に存在していた事自体に驚きだ。
恐らく誰かの隠れ家が何かなのだろう。

「主様の私室だよ」
「あの人の、私室?」

あの人の私室は王宮に在ったはず。
まさかそことはまた別のところに作っていたなんて。
しかもこんな罪人が寝泊まりするような空間を使っていたとは、明らかにおかしい。

だが、それを裏付ける証拠がこの場所にはあった。

それはこの部屋に立てかけられた一枚の絵だった。

「皇帝陛下、それに皇后陛下も……どうしてこの絵がここに?」
「多分盗まれる前に運んできたんだろう。あいつら王宮にあるものなんでも自分のものにしたり売ったりしてたからな。おかげで主様が描かれた肖像画が一個もない」
「自分のは、持って来なかったのか?」
「主様が自分の肖像画を大事にする人か?」
「それは……」

確かに想像できない。
そもそも自分を描いてもらうことが恥ずかしいといってあまり宮廷画家を呼ぶことは無かった。

「それに、それぐらい自分を大事にしてくれる人だったら、こんなことになってない」

寂しそうに黒龍は俯いた。

「あの城にいる主様はいつも苦しそうだった。だから少しでも安らげるような場所をあげたくて、俺が作ったんだよ。あの当時はまだ魔力がほとんどなくて、こんな汚くて狭いところしか用意してあげられなかったけど。主様はすごく喜んでくれた」

そんな事があったなんて、露ほども知らなかった。
多分本当のことだと思う。
確かにあの人はいつも苦しそうで寂しそうだった。

それも、本心を知った後は芝居だと思っていたのだが。
もしかして、そうではなかったのだろうか。

「ほらよ」

差し出されたのは一冊の本。
おそらく誰かの、いや、あの人の日記だろう。
表紙に書かれている年はあの人が処刑されたものだ。

「いい加減、この状態を放っておくわけにはいかないからな。お前は知るべきなんだ。主様の本心と、本当の願いを」

躊躇いながらもそれを手に取る。
ここに一体なにが刻まれていようとも、この恨みは消えない。
その時までは、そう信じていた。


「これは……」

苦悩と苦痛。
後悔と悲痛な叫びがそこら中に散乱していて、読んでいて顔を背けたくなった。

何度訴えても何も変わらない現状。
受け入れてもらえない主張にそれでもあきらめずに現状を打開しようとした姿がそこに書かれていた。
間違いなく、僕の知っているあの人の姿がここにある。

もしこれが本当だとしたら、僕らは取返しのつかないことをしてしまったことになる。

にわかには信じがたい事実に困惑してしまう。
しかし、これが本当かもまだわからない。
もしかしたら、黒龍が偽装した可能性だってある。

だが、こんなところに200年もの間隠し通すことなどするだろうか。
しかも今更この日記を見せることの意味が分からない。
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