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第6章
292.真の悪人は
なんて惨い。
綺麗な心を持ったために、悪意に晒されても尚誰かを信じ続けたあの方の事を思うと怒りと共に鈍い痛みが込み上げる。
「一体誰なのですか? あの方を利用しようとしたその存在は」
「魔王だよ」
「ま、おう……?」
それは御伽噺によく出てくる、悪役。
だが現実世界ではすでに倒された過去の存在のはず。
悪逆皇帝以上に物語の中にしか登場しないようなものが復活したなんてことになれば、この国だけではなく世界的な問題となってくるだろう。
「多分、だけどな。けどあんな魔法が使えるやつなんてそれぐらいしか考えられない」
「しかし、力を手に入れるためにあの方を利用していたのだとしたら、まだ魔王は完全ではないのですよね? どうやって僕らに魔法を?」
クオフォリア帝国時代でも城には相当強力な結界が張ってあったはず。
力を求めている存在が容易に入り込めるような場所ではないのだ。
可能性としてはあの方が城を出るのを見計らって魔法を掛けた可能性もあるが、如何せん酷く体の弱かったお人。滅多に城の外に出ない人物に魔法を掛けることなど相当難しいことだろう。
「簡単だよ、人の体を乗っ取れば良いんだ。体があれば少ない魔力でも十分な魔法を発動できる。
その方法を心得ているだろうからな」
「乗っ取る……」
「そう、それも主様にすごく近い存在に」
あの方に近い存在。
最期まで傍にいて、あの方に一番近い存在など1人しかいない。
「本当に悪趣味な奴だよ。主様が一番愛していたのは間違いなくあれだ。あれに憑りつけば主様がどれほど苦しむのかわかっていたんだろうな」
「そう、でしょうね」
まるで宝物のように大事に大事にしていた。
そんな人に魔王が憑りついたならば、放っておくことなどしなかっただろう。
あの方にとっては唯一、特別に大切な存在だったはず。
「もしかして、あの方は気づいていたのですか? 魔王が憑いていた事」
「気づいていただろうな」
「ならなぜ」
誰にも言わなかったのか。
逃げなかったのか。
魔法も使えず、体だって脆弱で何もできないような人だ。
助けを呼ばなければ解決なんてできないような状態だったはず。
なのにそれを誰にも告げず、最期の最期まで背負ってきたことを思うと悔しさが込み上げた。
そんなに僕では力になれなかったのだろうか。
告げることもできないほど、心を開いていなかったのか。
いや、きっとそうじゃない。
僕に言わなかったのも、遠ざけたのも全ては僕を思っての事。
巻き込みたくないと、思ってくれたのだろう。
しかしそれでも納得などできなかった。
「それで、お前はどうする?」
「え?」
「日記も読んだ。主様の本心も、どうしてあんなことをしたのか、ああなってしまったのか。全部じゃないけど理解できたはずだ。お前はこれからどうする?」
これから……。
どう、すれば良いのだろう。
今までずっと彼が憎かった。
大切なものを全て奪っていったあの人が。
でも、全部が誤解なのだとしたら。
ずっと守ると決めた。
初めて僕を傍においてくれたとき。
いいや、もっと前。
あのパーティの日に初めて声を掛けてくれた日に。
傍に居たいと思っていた。
きっと本当は両親の死も、婚約者を奪ったことも彼を恨む中のほんの一部の要素に過ぎなかった。
憎悪の根本にあったのは、僕が信じていた彼がどこにもいないと思ったからだ。
僕を拾ってくれたあの優しく貴い存在が嘘偽りなのだと、どこにもいないのだと思ったから恨んだのだろう。
けれどそうじゃなかったとしたら。
それすらも彼の優しすぎる嘘なのだとしたら。
僕の大事にしていたあの人はまだ存在しているということなのだ。
僕が一生守ると誓い、大事にしたいと願ったあの人は確かにそこにいて生きていたのだ。
なら、僕がしなければならないことは一つだけ。
視線を落とし、彼の日記を見つめる。
もう二度と、こんな感情を1人で抱えさせはしない。
「今更、守りたいと願っても彼女はきっと信じてなどくれないでしょう。なら傍にいられなくても構わない。もしまだ彼女がこの世界で生きていきたいと願ってくれるなら――――
僕は今度こそ一生かけて守り抜きたい」
本人がいないのに誓っても、意味のないことだとはわかっている。
それにこれが受け入れられるなんて思っていない。
遠くからでも構わない。
彼女を守れるならなんだってする。
「そうか。その言葉を聞いて安心したよ。俺はここから出られないからな」
黒龍は寂しそうに笑いかけると、キリッとした目でこちらを見つめた。
「ただお前には問題がある。この空間には強い結界が張っているから障りの影響は受けないが、一歩外に出ればまたお前は主様を恨むかもしれない。そうなっては主様を守り抜くなんて到底不可能だ。だから一つ、お前に魔法をかけてやろう」
「魔法、ですか?」
「安心しろ、そんな酷いもんじゃないさ。ただアイツと同じような魔法ってだけだ」
邪悪な顔をした黒龍が徐々に近いづいてくる。
その表情に何だか少しだけ嫌な予感がした。
そしてそれは、見事に的中した。
綺麗な心を持ったために、悪意に晒されても尚誰かを信じ続けたあの方の事を思うと怒りと共に鈍い痛みが込み上げる。
「一体誰なのですか? あの方を利用しようとしたその存在は」
「魔王だよ」
「ま、おう……?」
それは御伽噺によく出てくる、悪役。
だが現実世界ではすでに倒された過去の存在のはず。
悪逆皇帝以上に物語の中にしか登場しないようなものが復活したなんてことになれば、この国だけではなく世界的な問題となってくるだろう。
「多分、だけどな。けどあんな魔法が使えるやつなんてそれぐらいしか考えられない」
「しかし、力を手に入れるためにあの方を利用していたのだとしたら、まだ魔王は完全ではないのですよね? どうやって僕らに魔法を?」
クオフォリア帝国時代でも城には相当強力な結界が張ってあったはず。
力を求めている存在が容易に入り込めるような場所ではないのだ。
可能性としてはあの方が城を出るのを見計らって魔法を掛けた可能性もあるが、如何せん酷く体の弱かったお人。滅多に城の外に出ない人物に魔法を掛けることなど相当難しいことだろう。
「簡単だよ、人の体を乗っ取れば良いんだ。体があれば少ない魔力でも十分な魔法を発動できる。
その方法を心得ているだろうからな」
「乗っ取る……」
「そう、それも主様にすごく近い存在に」
あの方に近い存在。
最期まで傍にいて、あの方に一番近い存在など1人しかいない。
「本当に悪趣味な奴だよ。主様が一番愛していたのは間違いなくあれだ。あれに憑りつけば主様がどれほど苦しむのかわかっていたんだろうな」
「そう、でしょうね」
まるで宝物のように大事に大事にしていた。
そんな人に魔王が憑りついたならば、放っておくことなどしなかっただろう。
あの方にとっては唯一、特別に大切な存在だったはず。
「もしかして、あの方は気づいていたのですか? 魔王が憑いていた事」
「気づいていただろうな」
「ならなぜ」
誰にも言わなかったのか。
逃げなかったのか。
魔法も使えず、体だって脆弱で何もできないような人だ。
助けを呼ばなければ解決なんてできないような状態だったはず。
なのにそれを誰にも告げず、最期の最期まで背負ってきたことを思うと悔しさが込み上げた。
そんなに僕では力になれなかったのだろうか。
告げることもできないほど、心を開いていなかったのか。
いや、きっとそうじゃない。
僕に言わなかったのも、遠ざけたのも全ては僕を思っての事。
巻き込みたくないと、思ってくれたのだろう。
しかしそれでも納得などできなかった。
「それで、お前はどうする?」
「え?」
「日記も読んだ。主様の本心も、どうしてあんなことをしたのか、ああなってしまったのか。全部じゃないけど理解できたはずだ。お前はこれからどうする?」
これから……。
どう、すれば良いのだろう。
今までずっと彼が憎かった。
大切なものを全て奪っていったあの人が。
でも、全部が誤解なのだとしたら。
ずっと守ると決めた。
初めて僕を傍においてくれたとき。
いいや、もっと前。
あのパーティの日に初めて声を掛けてくれた日に。
傍に居たいと思っていた。
きっと本当は両親の死も、婚約者を奪ったことも彼を恨む中のほんの一部の要素に過ぎなかった。
憎悪の根本にあったのは、僕が信じていた彼がどこにもいないと思ったからだ。
僕を拾ってくれたあの優しく貴い存在が嘘偽りなのだと、どこにもいないのだと思ったから恨んだのだろう。
けれどそうじゃなかったとしたら。
それすらも彼の優しすぎる嘘なのだとしたら。
僕の大事にしていたあの人はまだ存在しているということなのだ。
僕が一生守ると誓い、大事にしたいと願ったあの人は確かにそこにいて生きていたのだ。
なら、僕がしなければならないことは一つだけ。
視線を落とし、彼の日記を見つめる。
もう二度と、こんな感情を1人で抱えさせはしない。
「今更、守りたいと願っても彼女はきっと信じてなどくれないでしょう。なら傍にいられなくても構わない。もしまだ彼女がこの世界で生きていきたいと願ってくれるなら――――
僕は今度こそ一生かけて守り抜きたい」
本人がいないのに誓っても、意味のないことだとはわかっている。
それにこれが受け入れられるなんて思っていない。
遠くからでも構わない。
彼女を守れるならなんだってする。
「そうか。その言葉を聞いて安心したよ。俺はここから出られないからな」
黒龍は寂しそうに笑いかけると、キリッとした目でこちらを見つめた。
「ただお前には問題がある。この空間には強い結界が張っているから障りの影響は受けないが、一歩外に出ればまたお前は主様を恨むかもしれない。そうなっては主様を守り抜くなんて到底不可能だ。だから一つ、お前に魔法をかけてやろう」
「魔法、ですか?」
「安心しろ、そんな酷いもんじゃないさ。ただアイツと同じような魔法ってだけだ」
邪悪な顔をした黒龍が徐々に近いづいてくる。
その表情に何だか少しだけ嫌な予感がした。
そしてそれは、見事に的中した。
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