悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第6章

297.きっとそれは嘘じゃない

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見ず知らずの相手と話をしているからか、彼女は僕の知っている優しい彼女だった。
切なくなるほど相手を気遣うその姿に胸が締め付けられる。
恐らくこれが彼女の、そしてあの方の本性なのだろう。

僕が信じて、守りたいと思った人は消えてなどいなかったことが酷く嬉しかった。
と同時に自分が如何に愚かなことをしたのかを思い知らされる。

多分、あの方はそれを願って僕に恨まれることを望んだ。
そしてそれは願う通りになった。

自分が100%悪いとは思えない。
けれど落ち度が無かったとはとてもじゃないけど言えなかった。

それに今世の彼女は本当に無実だ。
責められる謂れもこんな塔の牢獄に投獄される謂れもない。

こうなってしまったのは、きっと僕にも責任がある。
そして彼女が人を遠ざけるのもきっと……。

だから拒絶されてもここを離れるわけにはいかない。
もうこれ以上誰かを遠ざけて1人にしたくなかった。
我が儘だってわかっている。

それでもこの牢獄にいる間だけでも味方でありたかった。
押し切るように気持ちをぶつけると彼女は優しく笑った。

「ありがとう。とても、嬉しいわ」

彼女の笑顔が在りし日の主の笑顔と重なる。

ずっと守りたかった笑顔。
この先もこの笑顔を守れるのだとしたら、きっとどんな手段を選ぶ事もできる気がしてくる。

しかし、僕はこの笑顔を作り出すことはできないのだろう。
僕が傍にいれば彼女は笑う事などないのだから。

「可哀そうなヴァリタス様。早く私の手を離していれば、こんなことにならなかったのにね……」

何か言葉を掛けてあげたかった。
そんなことないと、それは君の方なのだろうと。

だが彼女の目の前にいるのは、ただの使い。
否定したところでただの同情としか思ってもらえないだろう。

なんで彼女がこんなことを思わなければならないのだろう。
可哀そうなのは、どうみても彼女なのに。

「貴方は、王子の事が好きなのですか?」

どうしてそんなことを聞いたのかはわからない。
恐らく否定してほしかったのかもしれない。

そんなわけないと。
殺したいほど憎んでいると。

そう言ってくれたなら少しは気が晴れるのに。

「ふふ。そんな事言ったら、きっと彼に殺されてしまうわね」

肯定とも否定ともとれない曖昧な返事だった。
だが瞳には寂しさが滲んでいる。

酷く嫌な気分になった。
そんな言葉を発してほしくなかった。
そんな目をしてほしくない。

君が傷つくようなことをどうして僕は言ってしまうのだろう。
黒龍に直してもらったはずなのに。

「そんなに恐ろしい人なのですか?」

話を逸らそうとそんなことを口にした。
笑って肯定でもしてくれるものだと思ったから。

だが遠くを見ながら言葉を反芻した後、彼女は優しい声で答えた。

「いいえ、彼はとても優しい人なの。とても純粋で、綺麗な人」

遠く届かない場所にある大切なものを思い出すような優しい瞳をしていた。

彼女が何を思いそんなことを言ってくれたのかはわからない。
酷い事をたくさんした僕の事を許しているとも思えない。

僕を使いだと思っているから忖度したのかもしれない。
けれど彼女が嘘を付いているようにも思えなかった。

ならこれが本心なのだろうか。
もしそうならどれだけ嬉しいことだろう。
けれどそれはどう考えても僕に都合の良すぎる考えだ。

馬鹿馬鹿しい。
どこまで自分に甘いんだ、僕は。

どうしようもない怒りが湧き上がり、それを彼女にぶつけた。

「そんな事、ないでしょう。でなければ、貴方がこんなところに閉じ込められるはずがない」

そうだ。
こんな酷い場所に追い詰めた相手をどうしてまだ大事だと思える?

例え優しすぎる彼女であってもここまでされて優しい人だと言い切れるはずがない。

もっと本当の言葉で話してほしい。

偽ることなく、本心を口にしてほしい。
これ以上自分を抑え込んで苦しんでほしくなかった。
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