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第6章
298.彼女の信じた僕は…
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けれど彼女はさも当たり前かのように柔らかい笑顔で否定した。
「いいえ。私の言っていることは間違いじゃないわ。だって私は彼の事を前世から知っているのだもの。だから、間違いないの」
嘘では、ないのだろう。
子供に諭すような声色には恨みなどという負の感情はどこにも感じない。
彼女にとって僕は仇。
前世の自分を殺し、生まれ変わった彼女さえも否定したような酷い男だ。
なのにまだ僕を大事だと言うのだろうか。
間違いなく優しい人なのだと信じているのだろうか。
優しいとか許すとか、そんな次元じゃない。
彼女こそ本当に穢れのない貴い人だ。
見る人によっては気持ち悪いと感じるかもしれない。
それほどまでに一途で純粋で綺麗な心の持ち主だった。
どうしてこんな人が僕の傍にいて、僕を信じてくれるのだろう。
穢れているのは僕の方だ。
優しくも純粋でも、ましては綺麗でもない。
彼女の言う僕はやはり間違っている。
それだけは本当だと思う。
彼女に嘘を付かせてしまったことが、辛い。
どうして僕は彼女が信じているような人間になれなかったのだろう。
やり場のない痛みが徐々に僕の心を支配していく。
このままここにいては、また八つ当たりをしてしまいそうだ。
早々に会話を切り上げると、短く言葉を交わして彼女の前から逃げた。
階段を下っている間、零れ落ちそうな涙をこらえるのに必死だった。
早く、早く彼女をここから、この国から救いださねば。
じゃないと本当に手遅れになってしまう。
もう彼女のいない世界になど生きていきたくない。
「やっぱり、俺はあの塔に近づけないみたいだ」
次の日、重い瞼を開きながら父の執務室から戻る途中、黒龍に会った。
せめて彼女を違う場所へと移してほしいと嘆願するため父の元を訪ねたが、全く相手にされなかった。
少し怒号を上げただけで父に魔が差したのかと言われてしまった。そこには僕に対してではなく、彼女への疑念が現れていた。これ以上反論すれば、彼女の立場が更に悪くなってしまう。
最悪のシナリオが突然目の前に現れ、どうすることもできなかった。
無力すぎて嫌になる。
ただでさえ黒龍との会話は気力を使うというのに、こんな状態で彼にばったり会うなんて運が悪い。
頭を抱えながら彼の後に付いて行った。
「塔に近づけないとは、どういうことですか?」
「俺の持つ魔力が強すぎる所為で危険だってことだ。強くなりたいと思っていたのに、こんなところでそれが仇となるなんてな」
舌打ちをしながら吐き捨てるとこちらに目を向ける。
「悪いが、俺は何も手伝えない。お前がどうにかするしかないみたいだ。まぁお前がこの国を敵に回しても良いと思えるほど主様を思っているなら、の話だが」
どこか諦めたように下を向いた。
弱気な彼の姿を見るのは初めてだった。
と同時に僕はまだ彼からにさえ信用されていない事を自覚する。
以前と比べ、黒龍の態度は酷く柔らかいものとなっていた。
僕に対して嫌悪感を垂れ流し、怨恨をぶつけるような事などもうしない。
だからすっかり信用されたものだと思っていたが、大きな間違いだったようだ。
それもそうだ。
柔和になったのは、あの方の私室に連れて行かれたときから。
数日しか経っていないのに、全てを信用できるはずもない。
少し寂しい気もするが、仕方のないことだった。
「わかりました。僕がどうにかします」
黒龍は足を止めると、物凄い勢いでこちらに振り返る。
驚いて目を見開いた彼の顔はどこか幼さが残っていた。
「どうにかって。お前策はあるのか?」
「いえ、今はまだ……」
断言したのにも関わらずそういえば何も思いついていなかったことに急に恥ずかしくなった。
素直にそれを告げると黒龍は途端に笑い声をあげた。
「はははっ! お前何も考えてない癖にそんな啖呵切ったのかよ」
腹を抱えて笑う黒龍にさらに恥ずかしくなる。
「いいえ。私の言っていることは間違いじゃないわ。だって私は彼の事を前世から知っているのだもの。だから、間違いないの」
嘘では、ないのだろう。
子供に諭すような声色には恨みなどという負の感情はどこにも感じない。
彼女にとって僕は仇。
前世の自分を殺し、生まれ変わった彼女さえも否定したような酷い男だ。
なのにまだ僕を大事だと言うのだろうか。
間違いなく優しい人なのだと信じているのだろうか。
優しいとか許すとか、そんな次元じゃない。
彼女こそ本当に穢れのない貴い人だ。
見る人によっては気持ち悪いと感じるかもしれない。
それほどまでに一途で純粋で綺麗な心の持ち主だった。
どうしてこんな人が僕の傍にいて、僕を信じてくれるのだろう。
穢れているのは僕の方だ。
優しくも純粋でも、ましては綺麗でもない。
彼女の言う僕はやはり間違っている。
それだけは本当だと思う。
彼女に嘘を付かせてしまったことが、辛い。
どうして僕は彼女が信じているような人間になれなかったのだろう。
やり場のない痛みが徐々に僕の心を支配していく。
このままここにいては、また八つ当たりをしてしまいそうだ。
早々に会話を切り上げると、短く言葉を交わして彼女の前から逃げた。
階段を下っている間、零れ落ちそうな涙をこらえるのに必死だった。
早く、早く彼女をここから、この国から救いださねば。
じゃないと本当に手遅れになってしまう。
もう彼女のいない世界になど生きていきたくない。
「やっぱり、俺はあの塔に近づけないみたいだ」
次の日、重い瞼を開きながら父の執務室から戻る途中、黒龍に会った。
せめて彼女を違う場所へと移してほしいと嘆願するため父の元を訪ねたが、全く相手にされなかった。
少し怒号を上げただけで父に魔が差したのかと言われてしまった。そこには僕に対してではなく、彼女への疑念が現れていた。これ以上反論すれば、彼女の立場が更に悪くなってしまう。
最悪のシナリオが突然目の前に現れ、どうすることもできなかった。
無力すぎて嫌になる。
ただでさえ黒龍との会話は気力を使うというのに、こんな状態で彼にばったり会うなんて運が悪い。
頭を抱えながら彼の後に付いて行った。
「塔に近づけないとは、どういうことですか?」
「俺の持つ魔力が強すぎる所為で危険だってことだ。強くなりたいと思っていたのに、こんなところでそれが仇となるなんてな」
舌打ちをしながら吐き捨てるとこちらに目を向ける。
「悪いが、俺は何も手伝えない。お前がどうにかするしかないみたいだ。まぁお前がこの国を敵に回しても良いと思えるほど主様を思っているなら、の話だが」
どこか諦めたように下を向いた。
弱気な彼の姿を見るのは初めてだった。
と同時に僕はまだ彼からにさえ信用されていない事を自覚する。
以前と比べ、黒龍の態度は酷く柔らかいものとなっていた。
僕に対して嫌悪感を垂れ流し、怨恨をぶつけるような事などもうしない。
だからすっかり信用されたものだと思っていたが、大きな間違いだったようだ。
それもそうだ。
柔和になったのは、あの方の私室に連れて行かれたときから。
数日しか経っていないのに、全てを信用できるはずもない。
少し寂しい気もするが、仕方のないことだった。
「わかりました。僕がどうにかします」
黒龍は足を止めると、物凄い勢いでこちらに振り返る。
驚いて目を見開いた彼の顔はどこか幼さが残っていた。
「どうにかって。お前策はあるのか?」
「いえ、今はまだ……」
断言したのにも関わらずそういえば何も思いついていなかったことに急に恥ずかしくなった。
素直にそれを告げると黒龍は途端に笑い声をあげた。
「はははっ! お前何も考えてない癖にそんな啖呵切ったのかよ」
腹を抱えて笑う黒龍にさらに恥ずかしくなる。
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