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第6章
306.大切な貴方への手紙
「できました」
檻越しに手紙を渡された。
便箋を持ってきたときの彼女は少し驚きつつも嬉しそうに受け取った。
こちらに背を向け、床に突っ伏しながら手紙を書き続けること数分。
綺麗に束ねた手紙を大事そうにこちらに差し出した。
一体誰に宛てたものなのか。
気になるはずなのに、見たくなかった。
彼女の笑顔を見ると余計に。
「受け取ってもらえると良いのですけど……」
想いを馳せるように天井近くの窓を見つめる。
そこに映っているのは間違いなく手紙の相手だろう。
「それでは私はこれで」
明日、彼女は運命の日を迎える。
もう少しだけ、ここに居たい。
そう願っているはずなのにそれを上回るほど胸の苦しさが心を占めていた。
「もう?」
驚いたように彼女問いかける。
だがそれ以上、何かを言うことはなかった。
いつもの穏やかな笑顔で見送る。
その姿にまたしても胸が痛んだ。
ここに居たくないと思っている癖に、引き留めて欲しいとも思っているなんて。
自分の女々しさに呆れながら、できるだけ口角を上げると彼女に手を振った。
すると一層嬉しそう手を振り返した。
そういえば、こんな風に手を振って挨拶するのは久しぶりな気がする。
ここに外套を着て訪れるようになってからは短い言葉だけだった。
たった少しの動作だけであんなに喜んでくれるなら、初めからしておけばよかった。
後悔しつつ今日も冷たい階段を降りていく。
「さようなら」
その寂しそうな声は、牢獄の中から逃げ出すことは叶わなかった。
私室へ戻ると先ほど受け取った手紙を見つめた。
表を見るのにまだ勇気が出ないまま、じっと手紙を見つめ続ける。
狭く汚い牢獄の中。
もうすぐ自分がいなくなるというときに、彼女は一体誰に思いを馳せこの手紙を書いたのだろうか。
彼女は覚悟しているだろう。
明日、自分がどんな酷い目に遭うのかを。
そんな中で書いた手紙だ。
きっととても大切な事を記したに違いないだろう。
相手は誰だろうか。
大切な人だと言っていたから、きっととても仲のよい人物だろう。
学院に彼女と親しい人はもういない。
ならミリアさんだろうか。
いつも2人でいたし、ミリアさんは彼女をとても大切にしていた。
それとも妹のシルビア嬢だろうか。
あまり家族仲が良くない中でも、シルビア嬢の事はとても大事にしていたのは話を聞いているだけも伝わってきていた。
それとも……。
昨日話してくれた、彼、だろうか。
可能性はゼロじゃない。
彼に対しての感情は普通のそれではなかったから。
たとえ誰に宛てたものだとしても受け取ってしまった以上、この手紙を届ける使命が僕にはある。
意を決して手紙を裏返した。
そしてそこに文字を確認する。
そこには――――
「え?」
『ヴァリタスさまへ』
僕の名前が美しい字で書かれていた。
急いで中を開き、確認する。
そこに書かれていたのは、ただの苦痛だった。
『
ヴァリタスさまへ
貴方にずっとお伝えしたかった事がありました。
私はずっと貴方が恐ろしくてそしておそらく、嫌いでした。
貴方は私にとって害悪でしかなかった。
ずっとずっと、貴方は私を苦しめる要因で、できれば関わり合いたくなどありませんでした。
けれど、私はそれ以上に貴方に奈落を味わってほしいと願っていました。
貴方が苦しめば苦しむほど、私は快楽に落ちていくような喜びを得られる。
それを間近で見られたら、どんな高価な宝石を手に入れるよりもっと素晴らしい喜びが。
そう思うと貴方の傍にいることが楽しくて仕方ありませんでした。
私の手に掛かれば貴方を地の底まで貶められる。
そう思っていました。
しかし、結局私は計画に失敗しました。
貴方を苦しめるはずが、自分がこんな目に遭うなんて。
なんて滑稽なのでしょう。
なんて哀れなのでしょう。
貴方の笑っている顔が脳裏に焼き付いて離れない。
私がまたしても奈落に落ちるところを高いところで見下ろして。
なんて無慈悲で残酷な人なのでしょうね。
けれど覚悟していてください。
私の手に落ちた妹が必ず貴方の傍に来て、貴方を貶めに掛かるでしょう。
あの子はあまり頭が良くないけれど、自分の価値を十分に理解している子です。
自分自身を差し出すことが最善なのだと理解しています。
貴方はそれを理解していながら、彼女の魅力には抗えないはずです。
だって貴方は私を好きになったのだから。
貴方が最も恨んだ相手である、この私を。
幸い彼女は私と似ていて、とても美しい容姿をしています。
貴方の好みに合う事でしょう
結局貴方は私から逃れることはできない。
ただ私という悪夢にうなされ続けて生涯を終えるのです。
なんて、素敵なことなのでしょう。
貴方は私を貶めた。
醜い身分の癖に私を地に落としたのです。
当然の報いではありませんか。
後悔しなさい。
そして私に請い願いなさい。
自分が間違っていたと頭を擦り付けて願う姿が拝める瞬間を私はずっと待っています。
さようなら、ヴァリタス。
私はずっと貴方の傍でその行く末を暗く照らすことでしょう。
エスティ
』
檻越しに手紙を渡された。
便箋を持ってきたときの彼女は少し驚きつつも嬉しそうに受け取った。
こちらに背を向け、床に突っ伏しながら手紙を書き続けること数分。
綺麗に束ねた手紙を大事そうにこちらに差し出した。
一体誰に宛てたものなのか。
気になるはずなのに、見たくなかった。
彼女の笑顔を見ると余計に。
「受け取ってもらえると良いのですけど……」
想いを馳せるように天井近くの窓を見つめる。
そこに映っているのは間違いなく手紙の相手だろう。
「それでは私はこれで」
明日、彼女は運命の日を迎える。
もう少しだけ、ここに居たい。
そう願っているはずなのにそれを上回るほど胸の苦しさが心を占めていた。
「もう?」
驚いたように彼女問いかける。
だがそれ以上、何かを言うことはなかった。
いつもの穏やかな笑顔で見送る。
その姿にまたしても胸が痛んだ。
ここに居たくないと思っている癖に、引き留めて欲しいとも思っているなんて。
自分の女々しさに呆れながら、できるだけ口角を上げると彼女に手を振った。
すると一層嬉しそう手を振り返した。
そういえば、こんな風に手を振って挨拶するのは久しぶりな気がする。
ここに外套を着て訪れるようになってからは短い言葉だけだった。
たった少しの動作だけであんなに喜んでくれるなら、初めからしておけばよかった。
後悔しつつ今日も冷たい階段を降りていく。
「さようなら」
その寂しそうな声は、牢獄の中から逃げ出すことは叶わなかった。
私室へ戻ると先ほど受け取った手紙を見つめた。
表を見るのにまだ勇気が出ないまま、じっと手紙を見つめ続ける。
狭く汚い牢獄の中。
もうすぐ自分がいなくなるというときに、彼女は一体誰に思いを馳せこの手紙を書いたのだろうか。
彼女は覚悟しているだろう。
明日、自分がどんな酷い目に遭うのかを。
そんな中で書いた手紙だ。
きっととても大切な事を記したに違いないだろう。
相手は誰だろうか。
大切な人だと言っていたから、きっととても仲のよい人物だろう。
学院に彼女と親しい人はもういない。
ならミリアさんだろうか。
いつも2人でいたし、ミリアさんは彼女をとても大切にしていた。
それとも妹のシルビア嬢だろうか。
あまり家族仲が良くない中でも、シルビア嬢の事はとても大事にしていたのは話を聞いているだけも伝わってきていた。
それとも……。
昨日話してくれた、彼、だろうか。
可能性はゼロじゃない。
彼に対しての感情は普通のそれではなかったから。
たとえ誰に宛てたものだとしても受け取ってしまった以上、この手紙を届ける使命が僕にはある。
意を決して手紙を裏返した。
そしてそこに文字を確認する。
そこには――――
「え?」
『ヴァリタスさまへ』
僕の名前が美しい字で書かれていた。
急いで中を開き、確認する。
そこに書かれていたのは、ただの苦痛だった。
『
ヴァリタスさまへ
貴方にずっとお伝えしたかった事がありました。
私はずっと貴方が恐ろしくてそしておそらく、嫌いでした。
貴方は私にとって害悪でしかなかった。
ずっとずっと、貴方は私を苦しめる要因で、できれば関わり合いたくなどありませんでした。
けれど、私はそれ以上に貴方に奈落を味わってほしいと願っていました。
貴方が苦しめば苦しむほど、私は快楽に落ちていくような喜びを得られる。
それを間近で見られたら、どんな高価な宝石を手に入れるよりもっと素晴らしい喜びが。
そう思うと貴方の傍にいることが楽しくて仕方ありませんでした。
私の手に掛かれば貴方を地の底まで貶められる。
そう思っていました。
しかし、結局私は計画に失敗しました。
貴方を苦しめるはずが、自分がこんな目に遭うなんて。
なんて滑稽なのでしょう。
なんて哀れなのでしょう。
貴方の笑っている顔が脳裏に焼き付いて離れない。
私がまたしても奈落に落ちるところを高いところで見下ろして。
なんて無慈悲で残酷な人なのでしょうね。
けれど覚悟していてください。
私の手に落ちた妹が必ず貴方の傍に来て、貴方を貶めに掛かるでしょう。
あの子はあまり頭が良くないけれど、自分の価値を十分に理解している子です。
自分自身を差し出すことが最善なのだと理解しています。
貴方はそれを理解していながら、彼女の魅力には抗えないはずです。
だって貴方は私を好きになったのだから。
貴方が最も恨んだ相手である、この私を。
幸い彼女は私と似ていて、とても美しい容姿をしています。
貴方の好みに合う事でしょう
結局貴方は私から逃れることはできない。
ただ私という悪夢にうなされ続けて生涯を終えるのです。
なんて、素敵なことなのでしょう。
貴方は私を貶めた。
醜い身分の癖に私を地に落としたのです。
当然の報いではありませんか。
後悔しなさい。
そして私に請い願いなさい。
自分が間違っていたと頭を擦り付けて願う姿が拝める瞬間を私はずっと待っています。
さようなら、ヴァリタス。
私はずっと貴方の傍でその行く末を暗く照らすことでしょう。
エスティ
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お楽しみいただけると幸いです。