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第6章
316.ヴァリタスの前世
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騒然とする中、彼は周りと一通り見渡すと、小さく息を吐いた。
凛とした表情の中に僅かな焦りを抱いている事に気付けたのは、おそらく最も近くにいた私だけだろう。
「皆さんが信じられなのも無理はないでしょう。ならば、私の前世がバートン・クロネテスであることを
証明してみせます」
そういうと彼は自身の妹、シャルロットを見つめた。
シャルロットはなぜヴァリタスが自分を見たのかわからず、困惑している。
「何をしているシャルロット。お前の傍付きの魔法使いを私の前に出しなさい」
「え?」
「早く」
「は、はい」
兄の剣幕に圧倒され、シャルロットは素直に頷いた。
ほどなくして彼女の傍付きの魔法使い――確か名前をプレイグと言ったか――がヴァリタスの前に現れる。
「お呼びでしょうか、ヴァリタス王子殿下」
一声かけると、ヴァリタスはプレイグを睨みつけた。
まるで親の仇を前にしたかのような憎悪を彼にぶつけている。
この間私に向けたものと同じ目だった。
しかし相手はというとその殺気にも微動だにせず、ただうっすらと笑みを浮かべていた。
どこか異様なその光景に私一人だけが、畏怖を抱いていた。
「貴方は彼女の前世を暴いた。ならば私の前世を暴くことも可能でしょう」
「え? ええ、確かに可能ですが」
「なら、私の前世をここで証明してください」
胸元のボタンを緩め、胸元を露わにした。
貴族であっても人前で肌を見せるのははしたないことだとされているのに、王子がそんな事をするなんて。
絶句する私たちを前にしても、全く気にする様子もなくヴァリタスは再度プレイグに向き直る。
「さぁ」
自身を差し出すようにジッとプレイグが魔法を発動するのを待つ。
プレイグも意を決したように、手を前に翳すと魔法を発動させた。
魔法陣を描いた紫色の眩い光が視界一杯に広がる。
数秒待って光が止み、彼の胸元を見ると肌の上に赤い文字が書かれている。
『バートン・クロネテス』
どう目を疑ってみても、文字はそうにしか読めなかった。
今までで一番のざわめきが起こった。
だが、そのざわめきはどこか浮足立っていて歓喜を滲ませた歓声のようにも聞こえた。
「バートン卿が! 私たちの英雄が舞い戻ってきた!」
誰かが言ったその言葉に、場内は歓喜の渦に包まれる。
まるで罪人を裁いている最中とは思えない雰囲気に困惑した。
ヴァリタスはプレイグの胸元を掴むと何かを囁いて彼を下がらせた。
プレイグがシャルロットの傍まで戻るのを確認すると、片手を上げ場内のざわめきを鎮める。
この場にいる全ての人々が彼の言いなりになったように統制されていた。
ヴァリタスは小さく息を吸った。
そして私をジッと見つめる。
冷たい瞳の奥に、何が潜んでいるのか私には全く分からない。
「貴方を憎んだ日々は生まれ変わった私の魂にまで深く刻まれています。しかし、私は貴方を殺した。あの時、貴方の罪を私が裁いた。だから――」
彼は脇に差していた剣を抜くと、私の首筋へと這わせた。
瞬間、場内の空気が凍り付く。
彼がこの場で私を殺そうとしている。
誰もがこの先に起こることを予想し、生唾を飲んで私たちを見つめていた。
しかし、私だってこのまま彼の思い通りに進ませるわけにはいかない。
付き出された剣を素手で思いきり握りしめた。
手に痛みが走り、剣には流れた血が伝ってポトリポトリと床を汚している。
彼にしか聞こえないような小さな声で私は囁いた。
「貴方の狙いはなに? 前世を晒してまで自ら手を下したいほどの恨みがまだ残っているというの?」
もし私を消し去るのが狙いなら、彼が前世をバラす必要など全くもってない。
だって誰もが私の前世がリヴェリオだと確信しているから。
なら、私が殺されるのは時間の問題。
自ら手を汚さなくとも私は勝手にこの世から消えるのだ。
凛とした表情の中に僅かな焦りを抱いている事に気付けたのは、おそらく最も近くにいた私だけだろう。
「皆さんが信じられなのも無理はないでしょう。ならば、私の前世がバートン・クロネテスであることを
証明してみせます」
そういうと彼は自身の妹、シャルロットを見つめた。
シャルロットはなぜヴァリタスが自分を見たのかわからず、困惑している。
「何をしているシャルロット。お前の傍付きの魔法使いを私の前に出しなさい」
「え?」
「早く」
「は、はい」
兄の剣幕に圧倒され、シャルロットは素直に頷いた。
ほどなくして彼女の傍付きの魔法使い――確か名前をプレイグと言ったか――がヴァリタスの前に現れる。
「お呼びでしょうか、ヴァリタス王子殿下」
一声かけると、ヴァリタスはプレイグを睨みつけた。
まるで親の仇を前にしたかのような憎悪を彼にぶつけている。
この間私に向けたものと同じ目だった。
しかし相手はというとその殺気にも微動だにせず、ただうっすらと笑みを浮かべていた。
どこか異様なその光景に私一人だけが、畏怖を抱いていた。
「貴方は彼女の前世を暴いた。ならば私の前世を暴くことも可能でしょう」
「え? ええ、確かに可能ですが」
「なら、私の前世をここで証明してください」
胸元のボタンを緩め、胸元を露わにした。
貴族であっても人前で肌を見せるのははしたないことだとされているのに、王子がそんな事をするなんて。
絶句する私たちを前にしても、全く気にする様子もなくヴァリタスは再度プレイグに向き直る。
「さぁ」
自身を差し出すようにジッとプレイグが魔法を発動するのを待つ。
プレイグも意を決したように、手を前に翳すと魔法を発動させた。
魔法陣を描いた紫色の眩い光が視界一杯に広がる。
数秒待って光が止み、彼の胸元を見ると肌の上に赤い文字が書かれている。
『バートン・クロネテス』
どう目を疑ってみても、文字はそうにしか読めなかった。
今までで一番のざわめきが起こった。
だが、そのざわめきはどこか浮足立っていて歓喜を滲ませた歓声のようにも聞こえた。
「バートン卿が! 私たちの英雄が舞い戻ってきた!」
誰かが言ったその言葉に、場内は歓喜の渦に包まれる。
まるで罪人を裁いている最中とは思えない雰囲気に困惑した。
ヴァリタスはプレイグの胸元を掴むと何かを囁いて彼を下がらせた。
プレイグがシャルロットの傍まで戻るのを確認すると、片手を上げ場内のざわめきを鎮める。
この場にいる全ての人々が彼の言いなりになったように統制されていた。
ヴァリタスは小さく息を吸った。
そして私をジッと見つめる。
冷たい瞳の奥に、何が潜んでいるのか私には全く分からない。
「貴方を憎んだ日々は生まれ変わった私の魂にまで深く刻まれています。しかし、私は貴方を殺した。あの時、貴方の罪を私が裁いた。だから――」
彼は脇に差していた剣を抜くと、私の首筋へと這わせた。
瞬間、場内の空気が凍り付く。
彼がこの場で私を殺そうとしている。
誰もがこの先に起こることを予想し、生唾を飲んで私たちを見つめていた。
しかし、私だってこのまま彼の思い通りに進ませるわけにはいかない。
付き出された剣を素手で思いきり握りしめた。
手に痛みが走り、剣には流れた血が伝ってポトリポトリと床を汚している。
彼にしか聞こえないような小さな声で私は囁いた。
「貴方の狙いはなに? 前世を晒してまで自ら手を下したいほどの恨みがまだ残っているというの?」
もし私を消し去るのが狙いなら、彼が前世をバラす必要など全くもってない。
だって誰もが私の前世がリヴェリオだと確信しているから。
なら、私が殺されるのは時間の問題。
自ら手を汚さなくとも私は勝手にこの世から消えるのだ。
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