悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第6章

317.責任

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もし、彼が前世を公にしなければならない理由があるとすれば、それは。

もう一度私をこの手で葬り去ること。
それ以外、考えられない。

「まだ私を殺し足りないの?」

彼の剣が小さく上下した。
冷たいだけだった瞳には僅かな動揺が見える。
唇まで小刻みに震えていた。

まるで怯えているようだった。

「手を離せ」

ヴァリタスを睨みつける。
剣を握った手にさらに力を込めた。

剣に伝う血は更に床を汚していく。

ヴァリタスは眉間に深い皺を刻んだ。
彼は剣を掴んでいた私の手首を握ると、思いきり力を込める。

「ぐっ」

その痛みに小さな呻き声を上げる。
放したくと力を込めても、弱った体では抵抗することもできず剣から手を離せざるをえなかった。

剣から離れた瞬間、ヴァリタスは私の腕を掴んだままその腕を高く上げた。

「私はお前みたいに罪なき人を裁いたりしない!」

まるで自分に言い聞かせるような声だった。
凍り付く場内に、再度ヴァリタスは口を開く。

必死に怒りを抑えたような声だった。

「しかし、誰もがお前がいつか大きな災禍を連れてくるのではないかと恐怖している。なら、私ができることはただ一つ」

私を見つめたまま、彼は言った。
しかしそれは私に言っているというよりも、この場にいる全員に宣言しているかのようだった。


「私が一生を掛けて、お前を監視する」


目を見開き、ヴァリタスを見つめる。

一滴の涙が、頬を伝った。
そんな事をしてほしいなどと、誰が望んだのだろうか。

死んでやる。
なんとしてでも、死んでやる。

どうにかして彼から逃れようと藻掻く私の手を、ヴァリタスは離さない。
しばらく攻防が続いたものの、私の体力に限界が近づいてきたのか徐々に力ないものとなっていった。

肩から力がぬけ、だらしなく体が揺れる。
全身から力が抜けた私がまだ立っていられるのは、彼の掴んだ手の力があったからだった。

「ヴァリタス、お前がそんな事をする必要などどこにもない!」

声を上げたのは国王陛下だった。
それは父としての言葉だったのか、それとも彼の子孫としての言葉だったのか。

ただ一つ言えることは、ヴァリタスを私の所為で消費することを誰も望んでいないということ。
英雄がこの世に戻ってきたのなら、当然の思いだった。

だが、ただ1人、ヴァリタスだけはその思いを拒絶した。

「陛下、私は私の責任を取らなければなりません。もうこれ以上、私の大事なものを蹂躙されるわけにはいかないのです」

優しく凛とした声だった。
大事なものを思う、優しいもの。

あの夢を思い出した。
本物の彼にもあの一面があるのだと、そう突きつけられたことが酷く寂しくて苦しかった。

「それに、兄上もいます。この国を守るのに十分すぎるほど兄上は優秀だと心からそう宣言できます。それほど兄上は素晴らしい人です。だから」

ヴァリタスは言い聞かせるように口にした。
それはまるでこの先の人生を定めてしまうような、残酷な言葉だった。


「私の責任を果たさせてください。私が生まれ変わったのはきっと、この者を止めるためなのだと思いますから」


それから先の事はよく覚えていない。
大きな歓声と、ヴァリタスを褒めたたえる声が耳にこだましていたことだけはわかっている。

気が付いた時にはヴァリタスに腕を掴まれ引きずられたまま、場内を後にしていた。

扉が閉まったと同時に私の腕を掴んでいた手から力が抜ける。
スルリと抜け落ちるように彼の手から逃れた瞬間、私の体は倒れ込むはずだった。

「エスティ!」

酷く心配したような声で名を呼ばれると、体が宙に浮く。
彼の顔が近くにあって、何が起きているのかわからなかった。

眼前にあるヴァリタスは今にも泣きそうな顔で私を見つめている。

力の入らない手をなんとか上げ、彼の頬に触れた。
目を細めた彼に、声を絞り出す。

「心配、しないで……」

そのまま私は意識を手放した。
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