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第6章
328.懲りないお人好し
けれど彼にまた、そんな事をさせるのだろうか。
まるで前世から決まっている運命のように。
また人を殺させるのか。
たとえそれが極悪人の罪人だったとしても、人を殺したらそれは深く心に刻まれてしまう。
もしかしたら、彼の心にも深い傷となってしまうかもしれない。
そんなこと。
そんなことを、私は許せるだろうか。
「とにかく早く帰ろう? また体を壊したりしたら――」
「ねぇ、殿下」
遮った言葉にヴァリタスは体をビクつかせると、そのまま硬直する。
寂しそうな瞳を見ることができず彼から顔を背けた。
「1つ、どうしてもお聞きしたいことがあるのです」
「え?」
首を傾げる彼をそのままに私は立ち上がる。
纏っていた寝間着は土に汚れていた。
軽くそれを祓うと、覚束ない足取りで彼に近いづいていく。
ユラユラと揺れながら近づいていく私にヴァリタスは不安そうに顔を歪めていた。
あと一歩で彼の体に触れるというところまで近づくと、顔を上げ真っ直ぐ顔を見つめる。
視線がぶつかったまま、私は口を開いた。
「殿下は私が好きですか?」
瞬間、彼の瞳が激しく揺らいだ。
私の意図を測ろうと困惑しているのがわかる。
今だ――!
隙を見計らい、彼が脇に差していた剣を鞘から抜いた。
ヴァリタスは驚きながらも、私を捕まえようと瞬時に腕を伸ばした。
彼の腕が届かないよう素早く後ずさりながら抜いた剣先を上に向ける。
剣身を首筋に這わせると、ヴァリタスは腕を伸ばしたままピタリと動かなくなった。
同じようにヴァリタスを睨みつけながら、しばらく沈黙した。
「どうして……」
絞りだすように、掠れた声が彼から漏れた。
「どうして、なんて私の台詞です。貴方は私の死を望んでいたはずでしょう? なのになぜ助けたのですか?」
本心とは正反対の言葉を吐いた。
本当は彼が私を助けた理由など聞きたくない。
だって私の心が傷つくだけだから。
でも、彼が私を見放すにはこの話題が最適だった。
武器も何も持たない私が自殺するには、どうしても道具が必要だ。
死ぬための道具が。
この先、その道具を手に入れる機会はほとんどない。
崖か湖かあれば簡単だが、王都周辺にそう都合よくあるものでもない。
ということは、どこかから盗むしかないのだ。
いつもヴァリタスが剣を携帯しているのは知っていた。
これがチャンスだと思った。
目の前の獲物を逃すほど、今の私に余裕はない。
あとは彼が私の選択を受け入れるよう、説得するだけ。
だって、彼の目の前でなんて死にたくないから。
「なんで、なんて……。決まっているじゃないですか。貴方には何の罪もない。罪なき人を裁くのはおかしい。あの時もそう言ったはずです」
彼は伸ばした手を下げると、さも当たり前かのような顔をした。
私の正体がバレたとき、躊躇いもなく首を絞めた人とは思えない。
だが、もしかしたらこれが彼の本性なのかもしれない。
あの時は怒りや憎悪に飲み込まれただけで。
「お人好しって言うのは、いつも損ばかりするわね。私を助けたとしても、貴方にメリットなんて何もないじゃない。こうして逃げられて、捕まえようとしたら今度は貴方の武器まで奪われた。私がこれを持っていけば、少なくとも女子供を襲って物を奪うくらいはできるわ」
それは間違いなく脅しだった。
きっとこれで彼の心は揺らぐはず。
もしかしたら、これだけで私を見放してくれるかもしれない。
そんな期待を抱きつつ彼の瞳を見つめるが、そこには私に対する悪意など全く感じられなかった。
瞬間、私は酷く動揺した。
ど、どうして?
以前の彼なら怒りを露わしてもおかしくない言葉だったはずなのに。
「貴方がそんな事を出来ないことぐらい、知っています」
ヴァリタスは迷いなく言い切った。
彼の姿が、前世の、バートンの姿と重なる。
わたしが王位に就いた時、よくこんな瞳をしていた。
いつもわたしを励ましてくれた時の瞳だった。
まるで前世から決まっている運命のように。
また人を殺させるのか。
たとえそれが極悪人の罪人だったとしても、人を殺したらそれは深く心に刻まれてしまう。
もしかしたら、彼の心にも深い傷となってしまうかもしれない。
そんなこと。
そんなことを、私は許せるだろうか。
「とにかく早く帰ろう? また体を壊したりしたら――」
「ねぇ、殿下」
遮った言葉にヴァリタスは体をビクつかせると、そのまま硬直する。
寂しそうな瞳を見ることができず彼から顔を背けた。
「1つ、どうしてもお聞きしたいことがあるのです」
「え?」
首を傾げる彼をそのままに私は立ち上がる。
纏っていた寝間着は土に汚れていた。
軽くそれを祓うと、覚束ない足取りで彼に近いづいていく。
ユラユラと揺れながら近づいていく私にヴァリタスは不安そうに顔を歪めていた。
あと一歩で彼の体に触れるというところまで近づくと、顔を上げ真っ直ぐ顔を見つめる。
視線がぶつかったまま、私は口を開いた。
「殿下は私が好きですか?」
瞬間、彼の瞳が激しく揺らいだ。
私の意図を測ろうと困惑しているのがわかる。
今だ――!
隙を見計らい、彼が脇に差していた剣を鞘から抜いた。
ヴァリタスは驚きながらも、私を捕まえようと瞬時に腕を伸ばした。
彼の腕が届かないよう素早く後ずさりながら抜いた剣先を上に向ける。
剣身を首筋に這わせると、ヴァリタスは腕を伸ばしたままピタリと動かなくなった。
同じようにヴァリタスを睨みつけながら、しばらく沈黙した。
「どうして……」
絞りだすように、掠れた声が彼から漏れた。
「どうして、なんて私の台詞です。貴方は私の死を望んでいたはずでしょう? なのになぜ助けたのですか?」
本心とは正反対の言葉を吐いた。
本当は彼が私を助けた理由など聞きたくない。
だって私の心が傷つくだけだから。
でも、彼が私を見放すにはこの話題が最適だった。
武器も何も持たない私が自殺するには、どうしても道具が必要だ。
死ぬための道具が。
この先、その道具を手に入れる機会はほとんどない。
崖か湖かあれば簡単だが、王都周辺にそう都合よくあるものでもない。
ということは、どこかから盗むしかないのだ。
いつもヴァリタスが剣を携帯しているのは知っていた。
これがチャンスだと思った。
目の前の獲物を逃すほど、今の私に余裕はない。
あとは彼が私の選択を受け入れるよう、説得するだけ。
だって、彼の目の前でなんて死にたくないから。
「なんで、なんて……。決まっているじゃないですか。貴方には何の罪もない。罪なき人を裁くのはおかしい。あの時もそう言ったはずです」
彼は伸ばした手を下げると、さも当たり前かのような顔をした。
私の正体がバレたとき、躊躇いもなく首を絞めた人とは思えない。
だが、もしかしたらこれが彼の本性なのかもしれない。
あの時は怒りや憎悪に飲み込まれただけで。
「お人好しって言うのは、いつも損ばかりするわね。私を助けたとしても、貴方にメリットなんて何もないじゃない。こうして逃げられて、捕まえようとしたら今度は貴方の武器まで奪われた。私がこれを持っていけば、少なくとも女子供を襲って物を奪うくらいはできるわ」
それは間違いなく脅しだった。
きっとこれで彼の心は揺らぐはず。
もしかしたら、これだけで私を見放してくれるかもしれない。
そんな期待を抱きつつ彼の瞳を見つめるが、そこには私に対する悪意など全く感じられなかった。
瞬間、私は酷く動揺した。
ど、どうして?
以前の彼なら怒りを露わしてもおかしくない言葉だったはずなのに。
「貴方がそんな事を出来ないことぐらい、知っています」
ヴァリタスは迷いなく言い切った。
彼の姿が、前世の、バートンの姿と重なる。
わたしが王位に就いた時、よくこんな瞳をしていた。
いつもわたしを励ましてくれた時の瞳だった。
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お楽しみいただけると幸いです。