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第6章
329.揺らがない瞳
どうして、そんな瞳をする。
この状況で、どうして……?
「誰かが傷つくのを何より嫌っていた貴方が、率先してそのような事をするわけがない。僕を脅しても無駄ですよ」
まるで心を見透かされているようだった。
確かに私がこの町の誰かを襲うことなどできるはずもない。
食べ物や必要な道具を盗もうとは、考えていたけれど。
「な、何を言っているの? 私が貴方にしたことを忘れたわけではないでしょう?」
彼は私が人を傷つけても何も感じない、いいや、それよりも快楽を感じる人間だと思っているはず。
だって彼から問い詰められた時私は喜々としてそういう人間なのだと豪語したはずだから。
だから、彼が私の事を善人のように語ることなどありえないのだ。
ありえない、のに。
「忘れなどしません。貴方が僕にしてくれたこと」
彼から発せられた言葉は私が望む答えのはずなのに、全く正反対の意味を持っていた。
「僕はずっとあの家で孤立していた。どこに行っても誰も僕を認識などしなかった。まるでどこにも存在していないみたいだった。けれど、貴方は僕を見つけてくれた。ちっぽけな僕を、道端に転がっている石ころ同然の僕を、貴方の友人に、騎士にしてくれた。それがどれほど嬉しかったか、貴方は知らないでしょう」
それは、私が皇帝になるまでの話。
彼がまだ、私を主人として認めていた時の話だ。
「それは貴方を利用するためにしていたことで、本当は貴方の事だって――」
「いいえ、僕が――俺が覚えている本当の貴方はそういう人です」
一陣の風が、私たちを揺らした。
曇りのない瞳には嘘も偽りも一切存在していない。
剣を握りしめている両手が小さく震え出す。
私は小さく首を左右に振り続けた。
「違う。それはわたしが力を得るまでの話。皇帝の位につくことができれば、何もかもを掌握できると思っていた。だから、わたしは善人の振りをして、あな――お前を傍に置いていただけで……。それで、それで……」
言っている間も、目を逸らすことができなかった。
私が何を言っても、ヴァリタスにはもう届かない。
そんな気がして仕方なかった。
それが酷く怖かった。
全てを見透かされているようで、とても怖い。
言葉を続けることすらもうできなくなっていた。
私はその恐怖から逃れようと小さく後ずさりする。
しかし、私が一歩後ろに下がるごとに彼はそれよりも大きな歩幅で距離を詰めてきた。
それがさらなる恐怖を私に与える。
「こ、来ないで」
震える声で何とか言葉を絞りだす。
しかし、彼の歩みは止まらなかった。
「来ないでってばっ! きゃっ」
瞬間、落ちていた小石に躓いた。
とても小さなものだっが、それだけで私の体は大きく揺れる。
首筋に僅かな痛みを覚え強く目を閉じた。
だが、それ以上の痛みを感じることはなかった。
少しバランスを崩した姿勢のまま、私の体は静止している。
思わず目を開けると、目の前にヴァリタスの顔が見えた。
肩に腕を回され、剣を握った腕を強く掴まれている。
彼が私を助けたことに衝撃を受け、目を見開いたまま見つめていた。
「どうしてわたしを殺そうとしないの? 何が貴方をそうさせるの?」
彼に抱きかかえられた状態のまま、問いかける。
少しだけ苦しそうに歪んだ顔をしながら、彼は静かに答えた。
「日記を、読みました。貴方の日記を」
「日記?」
日記?
私の日記なんて当たり障りのない事しか書いていないはずだけど。
「黒龍が見せてくれました」
私は目を見開いたまま、眉間に皺を寄せた。
「リヴェリオの日記を、読んだの?」
「はい」
彼は申し訳なさそうに答える。
しかし、私にはリヴェリオの日記を読んだことと彼の行動の辻褄が合わない。
確かに私が読めたのは、黒龍に指定された一部分のみ。
けれど、それは彼を貶める内容で間違いはなかった。
あれは真実だったはず。
ならば彼が私を更に憎むことはあっても助けようとは思わないはずだ。
この状況で、どうして……?
「誰かが傷つくのを何より嫌っていた貴方が、率先してそのような事をするわけがない。僕を脅しても無駄ですよ」
まるで心を見透かされているようだった。
確かに私がこの町の誰かを襲うことなどできるはずもない。
食べ物や必要な道具を盗もうとは、考えていたけれど。
「な、何を言っているの? 私が貴方にしたことを忘れたわけではないでしょう?」
彼は私が人を傷つけても何も感じない、いいや、それよりも快楽を感じる人間だと思っているはず。
だって彼から問い詰められた時私は喜々としてそういう人間なのだと豪語したはずだから。
だから、彼が私の事を善人のように語ることなどありえないのだ。
ありえない、のに。
「忘れなどしません。貴方が僕にしてくれたこと」
彼から発せられた言葉は私が望む答えのはずなのに、全く正反対の意味を持っていた。
「僕はずっとあの家で孤立していた。どこに行っても誰も僕を認識などしなかった。まるでどこにも存在していないみたいだった。けれど、貴方は僕を見つけてくれた。ちっぽけな僕を、道端に転がっている石ころ同然の僕を、貴方の友人に、騎士にしてくれた。それがどれほど嬉しかったか、貴方は知らないでしょう」
それは、私が皇帝になるまでの話。
彼がまだ、私を主人として認めていた時の話だ。
「それは貴方を利用するためにしていたことで、本当は貴方の事だって――」
「いいえ、僕が――俺が覚えている本当の貴方はそういう人です」
一陣の風が、私たちを揺らした。
曇りのない瞳には嘘も偽りも一切存在していない。
剣を握りしめている両手が小さく震え出す。
私は小さく首を左右に振り続けた。
「違う。それはわたしが力を得るまでの話。皇帝の位につくことができれば、何もかもを掌握できると思っていた。だから、わたしは善人の振りをして、あな――お前を傍に置いていただけで……。それで、それで……」
言っている間も、目を逸らすことができなかった。
私が何を言っても、ヴァリタスにはもう届かない。
そんな気がして仕方なかった。
それが酷く怖かった。
全てを見透かされているようで、とても怖い。
言葉を続けることすらもうできなくなっていた。
私はその恐怖から逃れようと小さく後ずさりする。
しかし、私が一歩後ろに下がるごとに彼はそれよりも大きな歩幅で距離を詰めてきた。
それがさらなる恐怖を私に与える。
「こ、来ないで」
震える声で何とか言葉を絞りだす。
しかし、彼の歩みは止まらなかった。
「来ないでってばっ! きゃっ」
瞬間、落ちていた小石に躓いた。
とても小さなものだっが、それだけで私の体は大きく揺れる。
首筋に僅かな痛みを覚え強く目を閉じた。
だが、それ以上の痛みを感じることはなかった。
少しバランスを崩した姿勢のまま、私の体は静止している。
思わず目を開けると、目の前にヴァリタスの顔が見えた。
肩に腕を回され、剣を握った腕を強く掴まれている。
彼が私を助けたことに衝撃を受け、目を見開いたまま見つめていた。
「どうしてわたしを殺そうとしないの? 何が貴方をそうさせるの?」
彼に抱きかかえられた状態のまま、問いかける。
少しだけ苦しそうに歪んだ顔をしながら、彼は静かに答えた。
「日記を、読みました。貴方の日記を」
「日記?」
日記?
私の日記なんて当たり障りのない事しか書いていないはずだけど。
「黒龍が見せてくれました」
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「リヴェリオの日記を、読んだの?」
「はい」
彼は申し訳なさそうに答える。
しかし、私にはリヴェリオの日記を読んだことと彼の行動の辻褄が合わない。
確かに私が読めたのは、黒龍に指定された一部分のみ。
けれど、それは彼を貶める内容で間違いはなかった。
あれは真実だったはず。
ならば彼が私を更に憎むことはあっても助けようとは思わないはずだ。
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