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第6章
330.俺の信じていた人
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でも、彼が他の、私が読めていない部分を呼んでいたのだとしたら?
もし、その部分に私の知らない真実があったのだとしたら?
「黒龍が貴方の私室に連れて行ってくれたんです。そこで、貴方の日記を読みました」
心臓がドクンと大きく跳ねた。
「あ、貴方はそれを読んで、信じたの? リヴェリオの事を?」
「はい」
曇りのない眼でヴァリタスは頷く。
私は途端に不安になった。
なぜ、彼はそんなはっきりと頷くことができるのか。
なぜ、あれだけで私を信じてしまったのか。
「ば、馬鹿じゃないの? あの日記に書かれていることが本当のことだって、どうして信じたの? 黒龍に渡されたものなら、それが偽物かもしれないって、都合よく書かれた作り物かもしれないって、どうして思わないの?」
涙を堪えながら怒る私にヴァリタスは傷いた顔をしながらも笑った。
私の肩を抱く手に力がこもる。
「あの日記にいたのは、俺の知っている貴方だった」
声も出なかった。
彼の言っていることが理解できなかったからじゃない。
ヴァリタスの瞳から涙が一滴零れたから。
それが何を意味しているのか、痛いほど伝わってきた。
「俺が信じられなくなったのは、俺の知っている貴方がいなくなったと思ったからです。あの時、貴方が俺の大事なものを奪ったと笑った時、俺が大事にしていた貴方が初めから存在しないものなのだと思いました。だから、貴方に背を向けても平気でした。貴方を辱め、その身に剣を突き刺しても何も感じませんでした。むしろ、貴方に長年騙されていたという屈辱からか快楽さえ感じていました」
彼の涙は止まらない。
落ちた雫は私の頬を伝った。
「でも、それは間違いだった。本当の貴方は俺の知っている貴方のまま、確実に生きていて、私が殺すまでずっとそこに存在していた。なのに、なのに俺は……」
腕を強く引かれ、彼の胸にぶつかった。
その拍子に掴んでいた剣が手から離れ、ガシャンと音を立て地面に落ちる。
背中に回った両腕が私を強く抱きしめていた。
「陛下。俺はきっと貴方がいれば幸せだった。貴方さえ生きてさえいてくれたなら、それが生き地獄でもどこでもよかった。貴方という光が無ければ、俺はずっと人にも生き物にすらなれなかった。俺にとって貴方が全てだった」
彼の腕に更に力がこもる。
痛いと感じながらも、離れたいとは思わなかった。
「もう、どこにも行かないで。俺を1人にしないでください。俺の傍で、ずっと、ずっと……」
空を見上げると、満天の星空が頭上で輝いていた。
この国の空はこんなにも綺麗なのだと、今更知った。
「……勝手だわ。貴方も、そしてわたしも」
彼の体が石のように動かなくなる。
私は彼の肩に顔を埋めると、彼にだけ聞こえるように囁いた。
「わたしたちはお互いを深く傷つけ合いすぎた。憎み合うほど、傍にいるのが怖くなるほど、深く。もしかしたら、この先も同じように傷つけ合うかもしれない。貴方は、それでも良いの?」
彼はゆっくりと体を離した。
しかし、両肩は依然強く掴まれたまま離さない。
「構いません。俺はもう、貴方が傷つくような事はしない。もし、貴方が俺を傷つけても、どれだけ邪険に扱われたとしても、それが貴方のためになることなら、それだけで幸せなのです。だって俺の幸せは、はじめから貴方の傍にしかなかったのですから」
彼が優しく頬を撫でる。
宝物を撫でるような、心地の良いその感触に涙が出た。
と、同時に笑いが込み上げてきて思わず噴き出した。
「ふ、ふふ。やっぱり頭おかしいわよ」
彼は首を少し傾けると、不思議そうに私を見つめた。
こんなに真剣なお願いをされて、答えないわけにはいかないわよね。
私は涙が零れ続ける瞳で彼を真っ直ぐ見つめた。
「私も貴方も、あんなに酷い事をしたのに生まれ変わってもお互いを求めるなんて馬鹿な生き方。でも、仕方ないわよね。1人じゃ生きていけないんだもの」
もし、その部分に私の知らない真実があったのだとしたら?
「黒龍が貴方の私室に連れて行ってくれたんです。そこで、貴方の日記を読みました」
心臓がドクンと大きく跳ねた。
「あ、貴方はそれを読んで、信じたの? リヴェリオの事を?」
「はい」
曇りのない眼でヴァリタスは頷く。
私は途端に不安になった。
なぜ、彼はそんなはっきりと頷くことができるのか。
なぜ、あれだけで私を信じてしまったのか。
「ば、馬鹿じゃないの? あの日記に書かれていることが本当のことだって、どうして信じたの? 黒龍に渡されたものなら、それが偽物かもしれないって、都合よく書かれた作り物かもしれないって、どうして思わないの?」
涙を堪えながら怒る私にヴァリタスは傷いた顔をしながらも笑った。
私の肩を抱く手に力がこもる。
「あの日記にいたのは、俺の知っている貴方だった」
声も出なかった。
彼の言っていることが理解できなかったからじゃない。
ヴァリタスの瞳から涙が一滴零れたから。
それが何を意味しているのか、痛いほど伝わってきた。
「俺が信じられなくなったのは、俺の知っている貴方がいなくなったと思ったからです。あの時、貴方が俺の大事なものを奪ったと笑った時、俺が大事にしていた貴方が初めから存在しないものなのだと思いました。だから、貴方に背を向けても平気でした。貴方を辱め、その身に剣を突き刺しても何も感じませんでした。むしろ、貴方に長年騙されていたという屈辱からか快楽さえ感じていました」
彼の涙は止まらない。
落ちた雫は私の頬を伝った。
「でも、それは間違いだった。本当の貴方は俺の知っている貴方のまま、確実に生きていて、私が殺すまでずっとそこに存在していた。なのに、なのに俺は……」
腕を強く引かれ、彼の胸にぶつかった。
その拍子に掴んでいた剣が手から離れ、ガシャンと音を立て地面に落ちる。
背中に回った両腕が私を強く抱きしめていた。
「陛下。俺はきっと貴方がいれば幸せだった。貴方さえ生きてさえいてくれたなら、それが生き地獄でもどこでもよかった。貴方という光が無ければ、俺はずっと人にも生き物にすらなれなかった。俺にとって貴方が全てだった」
彼の腕に更に力がこもる。
痛いと感じながらも、離れたいとは思わなかった。
「もう、どこにも行かないで。俺を1人にしないでください。俺の傍で、ずっと、ずっと……」
空を見上げると、満天の星空が頭上で輝いていた。
この国の空はこんなにも綺麗なのだと、今更知った。
「……勝手だわ。貴方も、そしてわたしも」
彼の体が石のように動かなくなる。
私は彼の肩に顔を埋めると、彼にだけ聞こえるように囁いた。
「わたしたちはお互いを深く傷つけ合いすぎた。憎み合うほど、傍にいるのが怖くなるほど、深く。もしかしたら、この先も同じように傷つけ合うかもしれない。貴方は、それでも良いの?」
彼はゆっくりと体を離した。
しかし、両肩は依然強く掴まれたまま離さない。
「構いません。俺はもう、貴方が傷つくような事はしない。もし、貴方が俺を傷つけても、どれだけ邪険に扱われたとしても、それが貴方のためになることなら、それだけで幸せなのです。だって俺の幸せは、はじめから貴方の傍にしかなかったのですから」
彼が優しく頬を撫でる。
宝物を撫でるような、心地の良いその感触に涙が出た。
と、同時に笑いが込み上げてきて思わず噴き出した。
「ふ、ふふ。やっぱり頭おかしいわよ」
彼は首を少し傾けると、不思議そうに私を見つめた。
こんなに真剣なお願いをされて、答えないわけにはいかないわよね。
私は涙が零れ続ける瞳で彼を真っ直ぐ見つめた。
「私も貴方も、あんなに酷い事をしたのに生まれ変わってもお互いを求めるなんて馬鹿な生き方。でも、仕方ないわよね。1人じゃ生きていけないんだもの」
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