発展科学の異端者

2章

30.リリ・ルベール登場

　城ケ崎喜一と城ケ崎零の戦いは、山場を迎えていた。

　最後の特攻は、零を壊すものだった。

「ガハッ」
「まだ、このステージに立つのは早かったようだな」

　零は、斜めに大きく斬られる。出血量的に限界だった。

「あ…あ……」
「さあ、この一撃で死ね」

　喜一が止めを刺そうと、攻撃を咥えようとしたその時喜一の体が宙を舞った。

「なっ」

　それは、喜一にとって想定外のことだった。だが喜一も、そこら辺の科学武装師ではない。すぐに受け身を取り、武器を構える。

「貴様は……。誰だ？」
「……」

　喜一にとって想定外の女。しかも、情報が一切ない女だった。

「零。遅くなってごめんね」
「ガハッ。おせーよ」
「今からは、私が相手するよ」
「なんだ。この女」

　零の前に立ったのは、リリ・ルベール。

「リリ・ルベール」

　その名を聞き、喜一の顔が引きつる。

「あの実験生物の、生き残りかあああ」

　喜一の感情が爆発する。それと同時に、喜一の痛みが無くなる感触がする。

「お前だけは、この手で殺す」
「夜陰」

　それと同時に、リリの姿が夜と同化する。それは、いるはずの存在が見えないということ。

「くそ、これが完成形だというのか」
「月夜」
「くそがああ」

　喜一の横腹が、大きく斬られる。それは、喜一にとってきつい一撃になる。

「ぐうう。シャアア」
「夜陰」

　喜一の渾身の一撃は、空を切る。そしてリリは、また姿を消す。

　喜一はこの状況を、必死に考える。そして答えが出ると同時に、またリリが、攻撃を仕掛けてくる。

「朧月夜」
「うおっ。まず……」

　今度は正面を、大きく切り裂かれる。それは、喜一の意識を一瞬で刈り取るものに近かった。

「ガハッ」

　喜一が後ろに、倒れる。

「これは……本当に…まずい……」

　喜一は笛を咥える。そしてピィイイイと、高い音が鳴り響く。

「何をした。城ケ崎」
「ゲホッ。おまじない」
「なら死ね。殘夜」

　その一撃と同時だった。B級モンスターが現れたのだ。

「くっ。何こいつら」
「は…は。リリ・ルベールと言ったか貴様は、この世界に生きて居てはいけない。人間だ。だから、次は確実に殺す」
「待て……。ちっ、邪魔するなゴミども」

　喜一はモンスターに、連れ去られていく。

　リリは、今この場に居るモンスターを全て殺して見せる。

　だがこの場に残されたのは、致命傷になっている城ケ崎零とリリ・ルベールだけだった。

「くそが、城ケ崎喜一。あなただけは、死ぬべき人間です」

　リリはそれだけ言い残し、零を抱きかかえる。そして、リリ達はその場を離れる。

　逃げていく際に、喜一は昔の研究を思い出そうとしていた。