勇者様とリトの赤魔法ー結ばれた契約ー

ユ性ペン

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リトの赤魔法

交渉

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 そうして完全に日が落ちたころ、部屋のドアがノックされ、給仕係と思しき者が入ってきた。

「お待たせしました。お食事の準備ができましたのでこちらにお運びしますね。」

 アレクの“部屋から出ないでほしい”という意向からか、この部屋に食事を運んでくれることになっているようだ。順番に料理が運び込まれ、手の込んだ料理の数々が振る舞われる。食事に何か毒でも仕込まれるのではないかと警戒していたが、特に何の異常もなく最後のデザートまで食べ終えた。

「正直、めちゃめちゃ美味かった……」
「そうだな。食べたことないものばかりで、いい経験になった。なにより、何事も無くてよかった」
「まだわからないけどね。このまま帰れればいいんだけど……」

 ひとまず安心したものの、まだ警戒は解けない。いっそ寝てしまって朝になるのを待ちたいが、吸血鬼に寝込みを襲われさらわれたばかりなので、早々に寝る気にもなれなかった。ひとまず備え付けてある本棚にある本でも読んで過ごすかと考えていたところ、再び部屋の扉がノックされた。

「勇者殿、王が一度お会いしたいと。お運びいただけますでしょうか?」
「陛下が……? わかりました」

 ミラが外に出るのに倣ってリトもそのあとに続こうとするが、アレクに制止された。

「リトさんは、少しこの部屋でお待ちいただけますでしょうか。王には勇者殿のことだけお伝えしておりまして……リトさんとのご挨拶はまた次の機会とさせてください」
「……はい、わかりました」

 ついに引き離され、怪訝に思う二人だったが、王の名前を出されては断ることもできなかった。
 一人アレクの後をついて、王の待つ場所へ向かう。通されたのはテーブルの置かれた応接間だった。どうやら、酒が用意されているらしい。

「失礼します。勇者殿をお連れしました」
「初めまして、ミラと申します」
「おお、どうもすまないね。アレクがいつの間にか依頼を出していて、今王宮に来ていると言い出すものだから驚いたよ」

 使用人と思しき人がミラの席を引いてくれたので、そこに着座する。アレクはミラを王に紹介した後すぐに部屋を出ていったのでまさかリトの元へ行くのかと警戒していたが、すぐに応接間に戻ってきて王の近くの壁際の席に腰かけた。視界の中にアレクがいるうちは、ひとまず安心できそうだ。

 ――――

 一方、部屋に残されたリトの元に、とある人物が訪れた。

「失礼します、リトさん」

 それは紛れもなく、先ほどミラを連れて行ったアレクその人だった。

「……? もういいんですか」
「王が会いたいのは、私ではなく勇者殿ですからね。しばらくは帰ってこないと思います。その間に、少しお話をさせてください」

 二人がバラバラになったときに何か動くとは思っていた。アレクが何をしてくるか警戒しつつ、会話を続ける。

「まあ、そんなに警戒しないでください。別に無理強いするつもりはありませんから。」

 そう言いながら軽薄な笑みを浮かべるアレクは、リトの座っているL字のソファセットへ腰かけてきた。リトはL字の長辺の端寄りに腰かけていたが、アレクは短辺の座面へと腰を下ろす。

「そのうち、こういう状況になるんだろうなとは思っていました」
「それはそれは……察しが良くて助かります」
「せっかくですが、俺はあなたと契るつもりはありません」
「あらあら、こうも門前払いだとさすがに少し傷つきますね。受け入れていただけない理由は何ですか? 待遇への不満? 拒否反応が心配? それとも、……勇者殿との関係が気がかりですか?」
「…………」

 まるでミラとリトの関係を知っているような口ぶりで問いかけられ、警戒心を上げてしまう。そんな様子を知ってか知らずか、アレクが優しげな笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「私としても、なるべく穏便に済ませたい。願わくは、あなたとは良好な関係を深めていきたいと思っているんですよ」

 言葉とは裏腹に、その目の奥底には暗い光が宿っているように見える。良好な関係というのが、世間一般で言われるような物とは少し違う形なのだろうとすぐに察する。

「待遇でのご不満があれば都度仰ってください。可能な限りすぐ対応します。拒否反応については……いきなり血を摂取するのは濃度が高いので危険ですからねぇ。私たち王家での仕来りでは避けられていたらしいのです」

 黙り続けているリトに、アレクは一方的に話し続ける。次々と話題を出すことで、こちらの様子をうかがっているのだろうか。すると、おもむろに立ち上がったアレクがリトの方に歩み寄ってきた。

「他の体液にも、赤魔法使いに対して血液と同じ力があるんです。中でも一番その濃度が低く危険性が低いのが……唾液」
「……っ!」

 そして、リトの顎を掴み、上向かせる。その強引さにリトは思わず無礼を忘れてキッと睨みつけてしまった。そんな表情もお構いなしにアレクは話を続け、顔を寄せてきた。

「少しだけ、試してみればわかります。それで拒否反応が出るようなら私も諦めましょう」

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