運転手さん、お願いします

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運転手さん、お願いします

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「すいません」
綺麗な姿をした女性がタクシーに乗ってきた。

「ご乗車ありがとうございます、行き先は?」

「樹海へお願いします」

「え、樹海ですか、」

「えぇ、お願いします」

「こんなこと聞くのもアレですけど、お客さんなんで樹海なんかに行こうと思ったんです」

「私、もう辛くて耐えられないの」
そう答える女の声は無機質で生気がまるで感じ取れなかった。

「そんなに辛いことがあったんですか」

「正確に言えば、昔は今の生活でも十分でした、しかし...」

「しかし、どうしたんでしょう?」

「信じてもらえないと思いますが、夢の中で死後の世界を見てしまってから、向こうの世界の素晴らしさに感銘を受けて
今の世界に生きていくことが辛くなってしまったのです」

「そ、そうなんですね、はぁ...」

「やっぱり信じれませんよね、でも本当に見たんです」

「いやぁ、信じますよ」
「具体的にどんなところが素晴らしいんですか?」
俺は半信半疑だったが話の続きが気になった。

「死後の世界はみなさんが創造するような暗い世界ではなく、全ての人間を優しく包み込むような光に満ち、たくさんの天使たちが過酷な人生を生き抜いた死者の方々を、優しく労う素晴らしい世界なのです」

「そんなに素晴らしいところなんですね」

「はい、あなたも行きたいと思いませんか?」

「そんな世界なら是非行ってみたいが、実際に見たわけでもないし、この世界でもいいことがあると思うので今は遠慮しておきます」

「なら、見てみますか?」

「え、見れるんですか?」

「はい、私は夢の中で、その世界の天使たちに言われたのです」

「あなたはあちらの世界で苦しむ人々にこちらの世界を伝え、苦しみから解放してあげろと」

「なるほど、見れるのであれば是非この目で見てみたいですね」

「いいですよ、これが死後の世界です」

そうして俺は死後の世界を覗いた。
そこに広がるのは夢のような世界、幸せが全てを満たし、全ての人がこの世では味わえないほどの幸せと言えんばかりの表情をしていた。

「これは本当に素晴らしい、向こうの世界に比べたらこちらの世界なんて...」

「でしょう、あなたも一緒に行きませんか?」
「あなたとは向こうでも仲良くやっていける気がするの」  

「ぜ、是非、あんなに素晴らしい世界であなたのような美しい人と一生を過ごせるなんてこの世界では絶対に起こらない奇跡だ」

「分かりました」

その瞬間、男の息は途絶えてしまった。
女が殺したのだ。

「ふふ、タクシー運転手は本当に騙しやすいわ」
「どんなに馬鹿げた話でも相槌を打ってくれるもの」 
「自分から死にたいって口に出した人間の魂を剥がすのは楽で助かるし、これなら獲物に困ることもないわね」

女は男の口から魂を完全に引っ張り出してそれを一口で飲み込むと、体をヘビの姿に変えてどこかへ消え去ってしまった。



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