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マサキの父の日(魚六のロクさん編)
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ユキちゃんが、マサキのところに嫁に来てくれて、にぎやかになった。
とても明るくて気配り出来て、新しいことをやってのける女傑なところはエミさんの家系だなぁって感心する。
色々あって辛いことを乗り越えたユキちゃんも2児の母だ。
孫ってのはいいねぇ。こんなに可愛いものだなんて思わなかった。
死んだ女房にも会わせてやりたかったよ。
マサシとユカは男女の双子で、今年から小学生で元気いっぱい。
親父のマサキもガキの頃は学校帰りで鉄砲玉のようにどっかに遊びに出かけてたもんだったけど、やっぱり血は争えない。
いつもは、俺に遊んでくれって来るのに今日はふたりとも静かだ。
何やってんだろうと逆に心配になって居間をのぞくとなにやら作っているようだ。
学校の宿題か?
「お前ら何やってんだ?」
集中してなにかやってるところを見ると将来は学者にでもなれるんじゃないかって思っちまう。
爺馬鹿な話で恥ずかしいが。
「あ!じーじただいまー」
ふたりは輝くばかりの笑顔で返事する。
「今ねぇ、父の日のプレゼント作ってるのー」
なにやらミシン目を入れた用紙にたどたどしい字で書いている。
【おてつだい けん】
ああ、子供がお金を使わないで父の日にする定番のプレゼントだな。
その様子についついにやけてしまう。
ああ、マサキも親父なんだなぁって改めて思う。
何十年か前に俺もマサキからこれをもらったことがある。
マサキの場合は、【なんでもいうこと聞きます券】が1枚付いていた。
特別な時に使ってねって。そのスペシャルな券を使った時のことを思い出した。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・
あいつが、中学の頃からなんだかんだと問題を起こして女房がよく学校に呼び出されていた。
些細な喧嘩で相手にけがをさせたって言うが、先生の話では向うが弱い者いじめをして居たり、商店街の子供に偉そうに物言ったりしていたことが原因だっていう。
先生らは、それくらいで暴力はよくないというが、俺から言わすとマサキあっぱれって褒めてやりたい気分だ。先生らの職務怠慢で学校側がスルーしている問題をマサキやタカシが解決してるだけじゃねーか。横道それてるってほどでもないって俺は思っていた。
まぁ、主婦がお得意さんってのもあるから相手さんのガキがどうであれ、こっちが折れないといけない場面はある。それが親の役目と思って頭は下げる。
高校に入って、学校でもなかなかイカツイおトモダチのトップに立ったって話を聞いて、授業もまともに出ないって話をされて、このままだと大学は上がれそうにないようだ。
勉強が嫌いでも、仕事すればいいだけなんだから問題ないだろうが、そんな時に女房の癌が見つかった。どんだけ我慢していたんだか、もう末期で転移もしているから助からないって医者は言った。
それが俺の人生で一番の衝撃だ。
どうして、こいつが癌にならなければいけないんだって自問自答したよ。
目の前が真っ暗になるってこういう事を言うんだろうなぁ。
メシの食い方も忘れちまった。
店の仕事はマサトが手伝ってくれていたから女房の看病に割ける時間が多くなった。
女房のことを聞きつけたエミさんが、女手も要るでしょう?って手伝ってくれた時は有り難くて涙が出たよ。俺がなんとかしなきゃってそればっかり思っていたから、エミさんに不安な気持ちを打ち明けて聞いてもらってちょっと元気が出たもんだった。
息子らにはカッコ悪くて愚痴なんてこぼせないから。
しかし、マサキは相変わらず喧嘩三昧の生活だ。
さすがに小言を言いたくもなった。すると、今まで小言を言ってこなかったせいか、まともに聞かない奴になっていた。自分がこの界隈で名前が売れているっていう、若さゆえの誤った自信が付いちまっていたんだろう。
そんなある日、女房の容体が悪化して、まともに話が出来ない日が続いた。
少しだけ、元気が回復した時に、息子らを呼んでほしいって女房が穏やかな顔で俺に言った。
枕元に来たマサキを、女房は静かに見つめて言った。
「マサキ、あんたは優しい子だから学校でいろんな人に頼られて面倒をみてるのは分かってるけど、そろそろお父さんを助けてやってくれない?」
元気だったころのふっくらとした頬が今やげっそりとやつれていて、顔色も土気色をしている。
「母さん……」
そして、何も言えずにいるマサキに、枕もとのいつも大事にしているポーチから古びた一枚の紙切れのようなものを出した。
「これで、お願いね……」
渡された紙切れには、すっかり色の褪せたマジックでたどたどしいひらがなが書かれていた。
【なんでもいうこと聞きます券】
その紙切れを握りしめて、マサキはしばらく考え込んでいたが、うなづいた。
それからは、マサキは学校が終わったらすぐに病院に行き、女房の洗濯物を取り、家に帰ってきて洗濯機を回し、店番をしたり配達を手伝うようになった。
学校の友達とも、卒業と共に疎遠になったってことだったがたまにそのころのダチが遊びに来ているようだが、マサキの心配をしてくれているようだった。
彼女もいるようだったけど、女房の世話が忙しすぎておろそかにしちまっていたせいか振られてしまったようだ。可哀想なことをしてしまったが、ありがたくも思った。
マサキが真面目に働いているのを喜んでいた女房も、それを見届けたかのようなタイミングでこの世を去った。
女房は海の好きな女だったから、墓は海の見える高台に決めて収めた。
春には桜の咲くきれいな霊園で、俺も死んだらここに入れてくれって頼んどいた。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・
「じーじ、わたしたちちょっと忙しいから、あとで遊んであげるね!」
ユカはにっこりと笑う。その表情のなかに、確かに女房の面影が見える。
こうやって血は繋がっていくんだな。
「それが終わったら、ケーキでも食いに行くか?」
「わぁい!!「じーじ大好き~~~~~!!!」
孫らは最近出来たケーキ屋が大好きだ。
なんでも女店主がとても可愛らしいそうで、よくマサトに連れていかれてちょっとしたものをおまけしてくれているんだそうだ。
マサトにはいつも頭使う仕事を頼んでいたから、甘党なのは知っていたけど、それ以外にも目当てがありそうだ。いや、長男がいつまでもひとりもんってのも心配だったけど近いうちいい話が聞けそうな気がするな。
とても明るくて気配り出来て、新しいことをやってのける女傑なところはエミさんの家系だなぁって感心する。
色々あって辛いことを乗り越えたユキちゃんも2児の母だ。
孫ってのはいいねぇ。こんなに可愛いものだなんて思わなかった。
死んだ女房にも会わせてやりたかったよ。
マサシとユカは男女の双子で、今年から小学生で元気いっぱい。
親父のマサキもガキの頃は学校帰りで鉄砲玉のようにどっかに遊びに出かけてたもんだったけど、やっぱり血は争えない。
いつもは、俺に遊んでくれって来るのに今日はふたりとも静かだ。
何やってんだろうと逆に心配になって居間をのぞくとなにやら作っているようだ。
学校の宿題か?
「お前ら何やってんだ?」
集中してなにかやってるところを見ると将来は学者にでもなれるんじゃないかって思っちまう。
爺馬鹿な話で恥ずかしいが。
「あ!じーじただいまー」
ふたりは輝くばかりの笑顔で返事する。
「今ねぇ、父の日のプレゼント作ってるのー」
なにやらミシン目を入れた用紙にたどたどしい字で書いている。
【おてつだい けん】
ああ、子供がお金を使わないで父の日にする定番のプレゼントだな。
その様子についついにやけてしまう。
ああ、マサキも親父なんだなぁって改めて思う。
何十年か前に俺もマサキからこれをもらったことがある。
マサキの場合は、【なんでもいうこと聞きます券】が1枚付いていた。
特別な時に使ってねって。そのスペシャルな券を使った時のことを思い出した。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・
あいつが、中学の頃からなんだかんだと問題を起こして女房がよく学校に呼び出されていた。
些細な喧嘩で相手にけがをさせたって言うが、先生の話では向うが弱い者いじめをして居たり、商店街の子供に偉そうに物言ったりしていたことが原因だっていう。
先生らは、それくらいで暴力はよくないというが、俺から言わすとマサキあっぱれって褒めてやりたい気分だ。先生らの職務怠慢で学校側がスルーしている問題をマサキやタカシが解決してるだけじゃねーか。横道それてるってほどでもないって俺は思っていた。
まぁ、主婦がお得意さんってのもあるから相手さんのガキがどうであれ、こっちが折れないといけない場面はある。それが親の役目と思って頭は下げる。
高校に入って、学校でもなかなかイカツイおトモダチのトップに立ったって話を聞いて、授業もまともに出ないって話をされて、このままだと大学は上がれそうにないようだ。
勉強が嫌いでも、仕事すればいいだけなんだから問題ないだろうが、そんな時に女房の癌が見つかった。どんだけ我慢していたんだか、もう末期で転移もしているから助からないって医者は言った。
それが俺の人生で一番の衝撃だ。
どうして、こいつが癌にならなければいけないんだって自問自答したよ。
目の前が真っ暗になるってこういう事を言うんだろうなぁ。
メシの食い方も忘れちまった。
店の仕事はマサトが手伝ってくれていたから女房の看病に割ける時間が多くなった。
女房のことを聞きつけたエミさんが、女手も要るでしょう?って手伝ってくれた時は有り難くて涙が出たよ。俺がなんとかしなきゃってそればっかり思っていたから、エミさんに不安な気持ちを打ち明けて聞いてもらってちょっと元気が出たもんだった。
息子らにはカッコ悪くて愚痴なんてこぼせないから。
しかし、マサキは相変わらず喧嘩三昧の生活だ。
さすがに小言を言いたくもなった。すると、今まで小言を言ってこなかったせいか、まともに聞かない奴になっていた。自分がこの界隈で名前が売れているっていう、若さゆえの誤った自信が付いちまっていたんだろう。
そんなある日、女房の容体が悪化して、まともに話が出来ない日が続いた。
少しだけ、元気が回復した時に、息子らを呼んでほしいって女房が穏やかな顔で俺に言った。
枕元に来たマサキを、女房は静かに見つめて言った。
「マサキ、あんたは優しい子だから学校でいろんな人に頼られて面倒をみてるのは分かってるけど、そろそろお父さんを助けてやってくれない?」
元気だったころのふっくらとした頬が今やげっそりとやつれていて、顔色も土気色をしている。
「母さん……」
そして、何も言えずにいるマサキに、枕もとのいつも大事にしているポーチから古びた一枚の紙切れのようなものを出した。
「これで、お願いね……」
渡された紙切れには、すっかり色の褪せたマジックでたどたどしいひらがなが書かれていた。
【なんでもいうこと聞きます券】
その紙切れを握りしめて、マサキはしばらく考え込んでいたが、うなづいた。
それからは、マサキは学校が終わったらすぐに病院に行き、女房の洗濯物を取り、家に帰ってきて洗濯機を回し、店番をしたり配達を手伝うようになった。
学校の友達とも、卒業と共に疎遠になったってことだったがたまにそのころのダチが遊びに来ているようだが、マサキの心配をしてくれているようだった。
彼女もいるようだったけど、女房の世話が忙しすぎておろそかにしちまっていたせいか振られてしまったようだ。可哀想なことをしてしまったが、ありがたくも思った。
マサキが真面目に働いているのを喜んでいた女房も、それを見届けたかのようなタイミングでこの世を去った。
女房は海の好きな女だったから、墓は海の見える高台に決めて収めた。
春には桜の咲くきれいな霊園で、俺も死んだらここに入れてくれって頼んどいた。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・
「じーじ、わたしたちちょっと忙しいから、あとで遊んであげるね!」
ユカはにっこりと笑う。その表情のなかに、確かに女房の面影が見える。
こうやって血は繋がっていくんだな。
「それが終わったら、ケーキでも食いに行くか?」
「わぁい!!「じーじ大好き~~~~~!!!」
孫らは最近出来たケーキ屋が大好きだ。
なんでも女店主がとても可愛らしいそうで、よくマサトに連れていかれてちょっとしたものをおまけしてくれているんだそうだ。
マサトにはいつも頭使う仕事を頼んでいたから、甘党なのは知っていたけど、それ以外にも目当てがありそうだ。いや、長男がいつまでもひとりもんってのも心配だったけど近いうちいい話が聞けそうな気がするな。
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