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第一章 チート勇者の存在
7.現世に
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……はっ!!
ここは、俺の部屋だ!
良かった、元の世界に戻って来たのか!
俺は心臓の鼓動が元に戻ったのを確認する為に手を自分の胸に当てようとした。
が、その前に1番に確かめたかったのはクロフィアの安否だった。
「クロフィア!」
俺は目の前で呆然として立ち尽くす彼女に向けて足を出すと、クロフィアの前に突然女神のフィローラ様が現れた。
「っ、フィローラ様! あの光景は何だ?! 俺達、殺されたんだが!」
俺は突然殺される未来に飛ばされた事に怒りを覚えて彼女を怒鳴りつけたが、フィローラ様は何も答えてはくれずに俯くのみ。
すると、フィローラ様の背後に居るクロフィアがやっと目を覚ました様に体を振るう。
「っギルディア! え、何で、何が起きたの?!」
クロフィアは一足遅い反応を見せる。
そして、説明不足だった事を指摘してやろうと眉を顰めて、怪訝と憤激を足したような表情をフィローラ様に向ける。
『……説明するよりも、体験して貰った方が話が早いと考えたのです。訳も分からず殺してしまってすみません。ですが、あの光景は間違い無く来たる未来なのです。勇者である貴方達には一刻も早く見せなければならない風景……』
フィローラ様は胸の前で手を組み、一筋の涙を頰に流していく。
……まぁ、確かに体感した方が、今の状況がどれだけヤバイかは分かったが。
「ユウマって野郎は2年後にはあんな風になるのか?」
『えぇ。私を殺して【明けぬ夜は無い】を奪い取り、毎朝欠かさずにスキルを使った結果、膨れ上がって暴発したのです。彼は自分の欲のままに働き、絶対の力を手に入れた事で彼の知的好奇心を擽り、実験感覚で世界を滅亡させようとするのです』
ユウマは魅せられてしまったのだ。
力を得ると言う快楽に。
俺もそうだ、力に溺れ、力が赴くままに人生を歩んできた。
強くなりたい、認められたい、褒められたい。
そんな承認欲求がいつしか、『誰かを殺したい』という歪んだ力を手に入れようとしていた。
気づけば、俺もユウマと全く同じだ。
気に食わなければ殺せば良い。
俺は頭を抱えながら、自分の間違いに気づいてゾっとした。
仮に自分がユウマの立場だったら、どうしていただろうか。
『そして、完全滅亡するのは3年後の世界、世界に一人残されたユウマは、試しに地面に魔法を打ち込んだ結果、地殻が砕けてマグマに落ち、数時間かけて苦しみながらHP0を迎えて朽ち果てます。こんな世界、私は許しません』
そう言うと、フィローラ様は再び俺の手を取って、祈るように額を手に付ける。
女神様、そんなに成ってまで俺達に願うなんて……。
『私が恩恵を与えた回数は12回、私を殺した後に2回、合計で14回の恩恵を受けています。もう既にレベルは100を超え、時間が経つに連れて更に彼は腕を上げて行くでしょう。……私からのお願いです、ユウマ・コンドウを、彼の魂を救ってあげてください! さも無ければ、この世界も彼も全て滅びる……それだけは許しません!』
フィローラ様の手は冷たく、俺の心をギュッと緊張させる。
俺だって調子に乗った糞野郎をぶっ殺したい、でもあれだけのレベルの差を見せつけられた今、レベル100付近のユウマでさえ勝てる気がしない……!!
「……お、俺は」
芋顔に勝てる気がしない。
現在レベルが75のグラディエーターが、レベル100付近の駆け出し冒険者にチビっちまうなんて笑っていいのか震えていいのか。
しかし、口が、首が動こうとしねぇんだ、どうすれば良い?
「くっ」
負ける、殺される。
そればかりが頭に浮かんで仕方が無い。
もう、ユウマには会いたく無い。
「やろう、ギルディア!」
「く、クロフィア……」
一瞬白けた空気を食い破ったのは、歯を軋ませて震えながら言うクロフィアだった。
そんな成りで何が出来る、股が締まってるじゃないか。
「わ、私だって怖いよ、ギルディア。ユウマ様は剣を振り上げた、それだけで私の体に穴が開いて吹き飛ばされた。ちゃんと覚えてるよ、内臓が零れ落ちる痛み、音、色。恐い、恐いんだ。でも、ここから逃げたってユウマ様は恩恵で膨張し続け、そして私達は羽虫を手で叩く感覚で殺されるんだ。だったら、羽虫じゃなくて毒虫にたりたい、一矢報いたい、ユウマ様を倒さなきゃギルディア! あいつに世界は壊させない!」
クロフィアは羽根塗れの床を踏み付けて俺の胸倉を掴んでベッドから立ち上がらせる。
『私からもお願いです、勇者・ギルディア! ユウマ・スノウウィの討伐をお願いします!』
「く、ううっ!」
俺はグラディエーターだ、近接攻撃専門の俺にレベルのかけ離れた人間とどう戦えってんだ!
震える腕、これから正攻法で鍛えて勝てる訳……!!
『努力した力を手に入れた者が、努力せずして手に入れた力に負けて良いのですかギルディア! 貴方には誇りがある、そうでしょう!』
……頭の中を覗きやがって、もう俺は立ち上がれる気が。
『家族を殺されて、まだそんな事を! ユウマがこのまま野放しになれば、魔王討伐なんて言ってられなくなるのですよ?!』
分かってる、分かってるけど!
『貴方は何故今生きているのですか?! 魔王を討伐する為なのですか?! 震えて明日を待つ為ですか?! 違うでしょうギルディア!』
うるさい、死んだお前に何が分かる!
生きてるんだぞ、わざわざ死にに行く必要なんて!
『奮いなさい、ギルディア! 貴方は託された希望を背負い続ける為に生きて居るのでしょう! 代わりに死んだ人間の思いを無駄にするつもりですか!』
「黙れ女神、お前如きに何が分かる! 俺は生かされたんだ、両親は俺に未来を託したんだ、だからこそ俺は生きてなきゃダメなんだよ!」
俺は女神を突き飛ばす為に両腕を思い切り振った。
しかし、俺はただ空気を切った様で、冷たい何かが腕を包んで行くだけだった。
……忘れていた、女神は既に実体は無かった。
女神は、もう死んでいた。
手を伸ばす、その先に何かが見えた。
幻覚、俺は何もかもを思い出した。
手を伸ばしても届かない両親の思い。
俺は、生かされたんだ。
手を伸ばしても届かない物は沢山ある。
俺を庇って死んだ、父さん母さん。
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