【完結】ラノベ作家の異世界転生〜ぐーたら美少女天使とのラブコメ×ファンタジー〜

王一歩

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第一章 アズリエルとの出会い

3.世界改変!

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 ◆

 アズリエルのバカが俺を殺しかけてから数分後。
 気持ちが落ち着いたから、何も喋らなくなったアズリエルに話しかける。

「なぁアズリエル」

『はい、なんでしょう?』

「そういえば、まだ俺がここに転生してきた理由とか目的を聞いてなかったなって。このペンとノートを使って俺は何をすればいい?」

 ラノベの主人公は、ほぼ100%と言っていいほど何か目的を持って転生する。
 魔王を倒す、村を救う、お姫様を助ける。
 いろんな目的があって、やっと主人公は冒険に出れるわけだ。
 でも、俺にはまだ冒険する理由が明確にない。

 これはつまり、クソラノベと同レベルだ。
 クソラノベは大抵、目的からズレて、話がしっちゃかめっちゃかになる。

 最初は目立たずにスローライフをすると言っていたのに、2話目で魔法を使って魔王幹部を倒したり。
 逆に魔王を倒すために転生してきたのにいつのまにか魔王の幹部になったりとか。
 挙げ句の果てに、殺戮を無くすために平気で殺戮を繰り返す主人公までいる。

 でも、俺に至っては目的すらない。
 クソラノベ以前に、ラノベの舞台すら整ってない始末だ。

『そういえば、まだ説明してなかったですね。女神様がおっしゃられた通り、これは大いなる試練です。君が元の体に戻って、再び小説家として生きていくための』

「そりゃ何度も聞いたよアズリエル。具体的に何をすればいい?」

 俺に課せられた試練か。
 確か女神様は『ラノベをモチーフに作らせていただいています』とか言ってたっけか?

『前提からお話ししますが、この世界はあなたが書くべきだった物語の中です』

「つまり、俺のラノベの中にいるってことだろう?」

『本当に順応が早いですね。一般人なら飛び上がると思いますけど』

 まぁ、転生ってことはラノベの話だからな。
 ラノベの中にいるって考えてもおかしくない。
 それよか、不思議の国のア○スとかの方がもっと設定がぶっ飛んでる。

『この物語の目的は、ラノベストーリーの完成だと女神様はおっしゃられています。1巻分のボリュームほどで、約10万字ほどの物語を実演してください、とのことですよ』

 アズリエルは棒読みで俺の頭の中にそう語りかける。
 はぁ、なんなんだそりゃ意味わからねぇよ!
 と、普通の転生者ならば混乱するかもしれないが、俺はどちらかと言えば全て辻褄が通ったと逆に安心したよ。

 要約すれば、俺はこのラノベの世界の中で中核を担う人間……主人公だ。
 俺はこのペンとノートを駆使して、俺に降りかかるあらゆる困難を払い除ける必要があるってわけだ。
 矛盾メーターってやつも、いわゆるラノベのバランスを崩さないために設けられたシステムだ。
 物語の敵を一撃で倒すようなチート技を俺が身につけないための最低限のリミッターってわけだ。

「全て合点が言ったよアズリエル。このノートに一つの物語を完成させればいいんだよな?」

『そうですとも! いやぁ、頭の回転が速い人は仕事をしなくてもいいから楽でいいですねぇ』

 それは聞き捨てならんが、まぁ状況はある程度把握できた。
 俺は、このラノベの世界の主人公で、設定は全てこのノートから管理できる。
 ペンのインクの色は4種類。
 設定を書き出す赤インク。
 矛盾点を書き直す緑インク。

「アズリエル。黒インクと白インクの説明をしてくれ」

『はいはい~。えっと、黒インクは物語に直接書き込めるインクで、白インクは物語を消すって書いてますね。白インクを使うと、その部分の過去は消えて忘れてしまうそうです。あ、ノベルメイカーの持ち主は例外みたいです。また、あった出来事も黒インクで改稿して【やった事実】を残せば白インクで消した後でも情報は消えないみたいですよ』

 もうツッコミはしないが、かんっぜんにノベルメイカーの説明書を読みながら言ってんなダメ天使。
 なるほど、黒と白のインクで物語を描いていけばいいんだな?
 大体の情報は整理できたぞ!
 あとは、このラノベメイカーでやるべきことをやるだけだ!

「アズリエル。設定記入欄に赤インクで書けば、なんでも俺の思い通りになるんだな?」

『はいはい。人の生死に関わることや、人間の存在が消える以外のことだったらなんでも叶いますよ、たぶん』

 そのたぶんっての、やめてくんないかな?
 不安で不安で仕方がないんだからもう。

「とりあえず、これは俺のラノベを書くにあたって不必要なものだ」

 俺は赤ペンでさらさらとたくさんのことを書き記していく。
 この設定記入欄では、世界の常識や価値観を改変できるということだ。
 だったら、絶対に必要ないシーンや設定は全てカットだ!

『何かたくさん書いているみたいですが、ノベルさんは今何をしてらっしゃる?』

「この世界の根幹を消してんだ。不必要なものは全部削除だ!」

『えっ! そんなことをしたらダメですよ! この世界の常識を書き換えたりしたら、今にでもまた矛盾メーターが!』

 アズリエルは困惑して泣き出しそうな声を出すが、俺は空を向いてニヤリと笑ってみせる。

「大丈夫だよ。本当に必要ないことしか書いてないから」

 と、俺は矛盾メーターのページを開く。
 針は未だに3を指しており、貰った時と同じ数字のままだ。

『あ、本当ですね。だとしても、何を削除したんですか? 山とか海とか削除したんですか?』

「なわけないだろ! もっと不必要なものさ!」

 俺はまたステータスの方のページを捲り、空から見えるように大きく開いた。

『なんですか? 何か変わってます?』

「変わってるだろ、ここだよここ!」

『ここ? あっ!』

 アズリエルはハッとしたのか、息を吸い込んで咽せる。

「ステータスをまず削除した。どうだ? これでスッキリしただろ?」

『な、なんてことを! ステータスを削除したら、強さを測るものがなくなってしまうではないですか!』

「違うって! ステータスの概念はなくしてはないさ! ただ、ステータスの記載をなくしたんだ!」

 俺はこれでもプロ小説家だ(成り立てではあるけど)。
 ステータスの記載ってのは、ラノベにおいてかなり不必要で邪魔になるパターンが多い。
 ステータスとかを記載しているラノベの大半はほぼそれに言及することはなく、ただ数値だけを見せて「強いんだな」って思わせて終わる。
 時々、そのステータスの高さから伏線回収が行われることもあるが、基本的には要らない情報だ。
 可視できなくすれば、ラノベ内で言及する必要はないしな。

『なるほどぉ……。伊達にプロ作家さんじゃないんですね』

「褒めてくれてありがとう」

 俺はノートをたたみ、ペンを黒いアウターのポケットに入れる。

「ノートによると、この方向をまっすぐ行けば街があるらしい。とりあえず、俺はそこに行くからな」

『まだノートに地図機能と目的地機能があると説明してないのに……。本当にノベルさんは何者ですか?』

 アズリエルは驚いているのか声が低い。
 今までにここまで転生してから慣れるまでが早い人間はいなかったのか。
 でも、言うて今のラノベ作者ならばこんなものじゃないのか?
 それとも俺が変なのか。
 いや、きっと俺が変なんだろうな。
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