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第三章 主人公、投獄!
28.ラノベの教訓と人生の教訓
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「さて、そんな話をするために私はタクヤたちを呼んだんじゃない」
「ノベルと呼べ、薄らハゲ」
俺はパイプ椅子に座って親父を睨み付けるが、もう俺のことを『ノベル』と呼ぶつもりは毛頭ないらしい、ハゲだけに。
ラノベにおいて、2つ名、3つ名は誰が誰やら分からんくなるから勘弁していただきたいんだけど。
「……この世界に降り立った理由は知っている。タクヤ、現世に蘇るために小説を完成させねばならんのだろう?」
「そうだけど、なんで親父が知ってるんだ? 神様にでも聞いたか?」
そこが疑問だった。
恐らくだが、先ほどの親父の言及によってあらかた検討はつく。
この世界に降り立つ前、親父はあるスキルを持って転生したのだ。
それは、『現世の全てを知れる』能力。
家族を残して転生した無念を払拭するために、親父はこんな一見無意味なスキルを選んだのだろう。
ただ、このスキルはかなり使い勝手がいい。
『現世の全てを知れる』というのは頭打ちなしの超絶賢者スキルだ。
最初は俺やお袋がどうしているかを知るために使うつもりだったんだろうが、この能力に触れていくにつれて沢山のことを知ることができた。
『地球の成り立ち』
『生物の誕生』
『人間の出現方法』
『物質の作り方』
『人間の倫理や宗教』
『統率する極意』
『機械の発明』
『暗黒物質の解析』
『万年解けなかった数式の解読』
『人類の行末』
『生物が滅亡する過程』
『太陽に地球が飲まれる日時』
過去から未来まで森羅万象を知れる破格のスキルだったって訳だ。
証拠に、至る所に見たこともない超未来の何かが落ちてるし、巨大なホワイトボードに数学界では有名な問題が解かれている。
いわゆる、『ミレニアム』だ。
7題ある永久不滅の数学問題が解ければ、数学組織から100万ドル貰えるって例のヤツだ。
ま、このホワイトボードに書かれてるこれが正解なのかぜんっぜん分からんけど!
それに、その知識と科学力があれば、あまりにも秀逸な街の区画整理や、大浴場にあったプラスチックなんかも全て合点がいく。
――つまり、俺の親父がこの文明をすべて作り出していると言っても過言ではないのである!
「まぁ、それはタクヤの想像通りだ」
「ノ・べ・ルだ俺は! いい加減にせんとハゲラッチョするぞあんたの頭で!」
これだけの文明をたった1人で作れるのであれば、そりゃこの世界の人たちからは色々言われるだろうな。
例えば、『三大賢者』とかな!
この世界でクローンを開発したり、人造人間や魔力無効化ジャマーなんかを開発できるポテンシャルを持ってすれば、何人たりとも親父には近づけない。
まさに、最強たる能力の持ち主だ!
「た、確かにマスターが凄いのは分かりました! この中世の世界観ではありえないようなものがあり、マスターはきっと素晴らしい頭脳をお持ちなのでしょう! でも、どうしてこの発明を街の至る場所に分けてあげないのですか? アズちゃん、この宮殿に住んで半年間、ずっと思っていました!」
なぁいすアズリエル!
俺もそれを親父から聞き出すつもりだった!
どう考えたって、親父の知恵を用いればすぐに最強の街が作り出せるぞ!
「――そういうわけにもいかんのだよ。私1人の独断で、この世界の理を書き換えるのが怖いからだ」
と、親父は俺の方を見て目を細めた!
な、なんでしょうか、俺ってば、何かしましたか?!
「はぁ。タクヤよ。私はこの世界に降り立って7年間、1度も世界に影響を与えるような事はしておらん。だが、お前ときたら……」
「はっ! ま、まさか」
俺は自分がやらかした愚かな行為に少しだけ反省する。
あそこに『廃棄』と書かれた大量の魔導書みたいなものが積まれている。
あれって、もう要らなくなったから置いてるやつだよな?
お尻ふきとかに使えばいいと思うよ?
「80を超える言語を廃止して日本語に統一し、公用語だけじゃなく書物の文字まで日本語に変えただろ? 幸い、世界中の人々は気付いてない。ただし、文の日本語翻訳により本の拡大や縮小によって、入り切れずに完結できてない書物や、半分ほど白紙の書物ができてしまった」
ギクっ!
「それにお前、詠唱を簡略化させたろ? それのせいで完全に魔導書の中の内容が意味不明な文章に仕上がっている。今、ニュースになってるんだぞ、『理由は分からないが、家に使い道のない書物がたくさんある』って」
ギクっ!
「それと、世界中の言葉という言葉から2つ名を消し、ステータスという概念を消した。タクヤ、これがどれだけ人様に迷惑をかけたか分かってるか?」
「は、はいっ……。すみません」
恐らく、あそこに山積みになっている本は、俺がこの世界の設定を弄った時に発生した歪みだ!
もし、この世界で魔法を覚える際に500文字ほどの詠唱を覚えるならば、それ相応の書物が必要になるはず!
詠唱を修行して覚えた魔導師がいただろう。
面倒だと思いながらもその局地を超えてきた人間だからこそ、賢者と崇められた人間がいたかもしれない!
それを俺のたった1つの空想でぶっ壊した!
500文字を『スターフレア!』とかで済むようにしてしまった!
歴史書だって恐らく同じ被害を受けてる!
妖精族のルビを消し取ったんだ!
もしかすると、クリッジアタモスってカタカナでしか書かれてないような書物があったなら、至る所が真っ白けになってるはず!
そこまで考慮せずに、ドカドカ設定を変更してしまったー!
この設定の変更がたった1の矛盾で本当に良かった!
「タクヤ。言っておくが、この世界にある全てのものにはちゃんと意味がある。どれだけ非効率でも、無くしてはならない文化もある。それは、人の手で、時間の流れによって徐々に解決されていくことが最も重要なのだ。戦争がそれを教えてくれたのだ。現代の人間はこれ以上進化はできず、思想は退化していく一方だ。なぜならば、人類は人類を守りたいと気づいてしまったからだ」
痛みなしでは生きていけない時代がある。
良い例が、現代の核爆弾だ。
人は殺し合い、そして戦いによって文明を作り続けてきた。
故に、文明の進化には痛みという多大な刺激が必要である。
抑止力で斥力が働き、第二次世界大戦後はどうにか今日まで巨大な戦争は起きなかった。
俺の考え方がこれだ。
刺激を怠り、急いて先に文明を人類に与えてしまえば最後――。
「文明の早送りは、進化を施す爆薬に同じ。それは命と精神を悉く浪費させ、社会の癌が戦争の火花を起こす。強き権力とは、1種の悪性腫瘍だ。だから私は、あえて文明には干渉しない。自分の小さな箱庭でのみ、知識を行使する。だから私は強く、儚い」
「悪かったよ、親父」
「いいのだ、過ぎた事はもう終いにしよう。今を笑えば、過去も笑う」
と、親父はニカっと笑った。
いつだって、親父は合理的で冷静だった。
転生してもなお、冷静で周りの世界が幅広く見えている。
――そんな親父を、俺はずっと尊敬して生きてきた。
社会を知り尽くし、戦争という概念を嫌悪していた。
知を積み、書物を肉に変え、思想を血として社会のために働いた。
本を読み、知力を重ね、いつか繭を割って社会へと飛んでいく。
死ぬ前に親父は言った、『社会には巣食う蜘蛛がいる。羽ばたく蝶が羨ましいのだ。だからタクヤ。お前は風になれ。蝶を助く気流となり、お前の知識で皆を救う風になれ』と。
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