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最終章 ノベルとアズリエル

74.ライトノベル

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 ◆

 ――ん、なんだ臭い。

 俺はバッと顔を上げると、そこはいつも小説を編集していた部屋だった。
 辺りにエナドリの瓶が散乱し、目の前には電源が付けっぱなしのパソコンが1台。
 見た感じ、昔と何も変わらない風景。
 パソコンで確認すると、今日の日付は現在時刻は2020年3月15日の午後2時。
 俺が死んだ時間と全く同じだ!
 いや、待てよ?
 まさか、今さっきのあの記憶は全て夢落ちかよ!
 うわぁ、じゃあアズリエルとか親父が生きてたとかは全部夢なのか!

 まじかぁぁぁぁ!

 俺は頭をかきむしって焦り、パソコンのメモ帳ページを開く!
 マジかよ、あの時となんも状況は変わってない!
 まずいぞ、早く10万字の小説を書き上げなければ締め切りに間に合わなくなる!。


 と、俺は目の前に物凄い量の文字が広がっていたのだ!

「こ、これってまさか――!」

 俺は文章を全て読み、そして全てを察した!
 このメモ帳の文、全部あの世界で俺が書いていた小説だ!
 ノベルメイカーで推敲していた文の全てがここに記されている!

 なんて言っていると、俺の足元に1枚の紙が落ちていることに気付いた。
 その紙を拾って見てみると、『神一同から』と書いていて、その隣に赤い文字で『40点』と書かれていたのである!
 40点って、まさか俺がノベルメイカーで描いてる作品の点数か?!
 えーっと、なになに……?

『全能神より。暇つぶしにはちょうどいいけど、ファンタジー面が弱い。どうして魔物と戦う展開がないのか意味不明。人間族の設定の言及が手薄で、世界観が分かりづらく感じた。しかし、主人公の情熱には憧れる箇所もあり、恋愛面からすればほぼ満点をあげてもいい。描写が少ないから、次から気を付けるべし。なかなか面白い。7/25』

 25点満点中7点!
 辛い、辛いなぁこの人の点数評価……。

『武神より。戦いの描写があまりにも弱い、弱すぎる! ガツンとくるファンタジー感が極めて少なく、もっと敵をフルボッコにするシーンが欲しかった。無双系が好きな俺からすれば、軟弱もいいところ! ただし、主人公が鍛錬を重ね、大いなる問題に直面したとしても立ち向かう素振りを見せたことには実に感動した! だが惜しい! 色々な面で味が出ていない。もう少し主人公を強く設定できる裏技を見つけられたのならば面白かったかもしれない。総合評価、つまらん! 3/25」

 武神様、たったの3点?!
 この人、ただ無双系が好きなだけだろうがよ!
 俺はそう言うのがあまり好きじゃないからこうやって地道に努力してきたの!
 てめぇの肌に合わんだけだろそりゃ!

『文才天より。問題外なところが多いが、読めなくはない。説明書きが多すぎて、ついつい目を遠ざけて読みたくなってしまう。作者からする説明とは、つまり言い訳に過ぎず、読者に対してへつらってるようにしか思えない。ただ、この作品のコンセプトである矛盾点の添削を逆にうまく利用した最後などは心にジーンとくる何かを感じた。構成自体はまとまっていたが、くどいと感じる方が多かった。伏線の回収を忘れており、なぜ矛盾メーターが初めから3だったのかを考えるべきだった。文才天的には、点数はあげられないかもしれない。これから頑張ってね。5/25」

 ぶ、文才天様……。
 これってもしかして、小説家からすれば絶望的な点数なんじゃない?
 文才、5点!
 やめようかな、小説家。

『慈愛の女神より。とても素晴らしい1作であると感動しました! 雑なところがあまりなく、理由なども全て説明できているところが良く感じました。ラノベ好きである所を強みとし、それに対応した戦闘方法を見せるところが非常に秀逸で、思わずメタ発言にクスッと笑ってしまうところもありました。それに、アズリエルさんに対する愛情が溢れすぎて、読んでいるこちらはキュンとしてしまいました。また、あなたにヲタクと言ったことをここで訂正します。あなたは素晴らしい才能の持ち主であると思ったので、おまけで赤点回避をしてあげます! アズリエルさんと、これからもお幸せに。25/25』

 ――この人、もしかして!
 俺と初めに会った女神か!
 あの人、審査員だったんだ。
 悪いことしちゃったなぁ、論破して追い詰めたりしちゃった。

 そんで、合計の評価が40点で、赤点回避か。
 ほとんど慈愛の女神様の点数依存だけど、こういうのって許されるのか?
 まぁいい。
 俺はこうして現世に戻ってきて、こうしてまた小説家を続けることができる。
 これから俺の小説で幸せを届けて、笑って、心が暖まってくれたらいいな。

 あ、パソコンに立てかけてある分厚い書物!
 これ、俺の努力の証じゃん!
 アズリエルが俺の鍛錬シーンを全て書き留めておいてくれたやつだ!
 神様たち、俺にくれたんだ。
 はぁ、アズリエルの字だ!
 可愛い、くりくりしててへなちょこな文字だ。
 ――あれは夢なんかじゃない。
 全て、俺が紡いでいた物語だったんだな。


 あ、そうだ!
 早く設定資料を作らなきゃ!
 キャラクター設定が1番のキモだからな!


 俺の1番の兄貴分であるハイライター!
 新竜人種ドラゴニアンという新種族で、戦いの才能に恵まれたカナヤNO.1の傭兵だ!
 こいつには、本当に感謝の言葉しかない。
 ってか、こいつの幻術龍技師スキルが見てみたかったなぁ。

 誰よりも心優しい亜人族・イレイザー!
 他人を傷付けることが怖いくせに、自分が傷つくことはいとわないって感じの大バカ野郎だ。
 お前の行動は、みんなの幸せにちゃんとなっている。
 もっと胸を張れ、赤髪イケメン拳法使い!

 ぴょこぴょこウサミミのルーラー。
 とにかく1人でいるのが怖いくせにやたら単独になりたがる女の子。
 イレイザーと一緒に姉を探し始め、気付くと2人は好き合ってたんだ。
 見つかるといいな、姉も、幸せも。

 親父!
 なんでアンタがここにいるんだよ!
 科学、これからもがんばれよな!
 それと、俺の頑張りを異世界から見ててくれ!
 俺が度肝抜くような一発で作品をアニメ化してやるよ!


 ――アズリエル!
 大好きだ、めちゃくちゃ大好きだ!
 お前がいてくれたから、俺はなんでもできた。
 強くなれた、愛を知った、命の始まりを知れた。
 全て、全て君のおかげなんだ。
 愛してるよ、アズリエル。
 俺が現世で死んでしまったら、絶対に俺の魂を刈り取って超絶極楽浄土に連れてってくれよな。
 それと、赤ちゃんが産まれたって吉報をくれよ!
 全力でベビーカー買ってくるからよ!


 俺は、ラノベが好きだ!
 主人公は何にでもなれるし、どれだけでも強くなる!
 人を好きになれるし、好きになってくれる人がいる!

 全部、全部教えてもらった。
 大切なものを、好きになることを。

 この経験を俺は糧として、これからの小説家人生を全うしてやるぞ!
 どれだけ難しい道だろうとも、どれだけ厳しい未来が待ち受けていようとも、俺は絶対に屈したりしない!
 チートもタイムループも存在しない、この現実世界で俺は頑張っていくのだ!
 やってみせる、見ててくれアズリエル!


「うぉぉぉぉぉっ! 人生はハードモードだぁぁぁぁぁっ!」
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