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序章
プロローグ1 いつかの未来
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「久しぶり」
俺はそう声をかけて、思わず笑った。きっと目の前の幼馴染みは、「せっかく会えたのに、そんな寂しそうにするな」と怒るだろう。それとも、「遅いよ」と拗ねるだろうか。どちらにせよ、ふくれっつらでそっぽを向くだろう。そう思うと笑わずにはいられなかった。
「遅くなってごめん。次はもっと早く会いに来れるようにするからさ」
言い訳せずに謝った。声に寂しい気持ちが表れないようにしたつもりだが、上手く出来ただろうか。毎年帰省しているけれど、いつも俺の精一杯の誤魔化しは簡単に見破られる。ふとそよ風が俺を通り過ぎて行った。それが彼女に「いい加減元気出して」と言われてるように思えて、苦笑いした。誰のせいだよ、と零したら、またふてくされるに違いない。
「俺は変わっちゃったけど、お前はきっと変わらないんだろうな」
彼女はいつもそうだ。天真爛漫で、明朗な性格だから誰からも好かれるくせに、変な所に気を遣う。それはきっと今も変わらないだろう。初めて話したあの時のように、当然のように俺を振り回して、新しいセカイへ連れて行く。お節介で人を巻き込んでおいて笑顔にして、それでいて自分も楽しむことを忘れない。そんな彼女に俺は多少なりとも惹かれていたのだろう。
「懐かしいよな、もう何年経ったと思う?」
少しくらい感傷に浸るのも悪くない。そう思いながら、彼女に訊ねる。俺は青い空を見上げながら、その懐かしい記憶に思いを馳せた。夏らしい大きな積乱雲と熱い日差しに手をかざす。ここよりも暑い都会に慣れたからか、それとも風が吹いているからか、不思議と汗はかいていない。その内蝉の鳴き声も、懐かしく思えてきた。
「…もう10年、経つんだ。早いよな…」
少し濡れた目元を腕で拭って、俺は彼女に視線を戻す。余りしんみりしていると、また怒られそうだ。彼女に会いにここに来るたびに、虚しくなる。せっかくの再会だからと無理に笑えば、余計に空虚な気持ちになってしまう。こればかりは、いつまでたっても慣れそうにない。心にぽっかり空いた穴は、今もまだ埋められていない。
「そうだ、お前に渡すものがあるんだった」
出来れば笑っていたいから、俺はそう言って来る途中で買ったヒマワリの花束を取り出した。リュックサックに挿して持ってきたそれは、彼女によく似合う花だった。
「お前、ヒマワリ好きだっただろ?」
最後に会った時も、彼女の髪にはこの花と同じ髪飾りがあった。これも喜んでくれるだろう。その眩しい笑顔を想像して、俺も笑みを浮かべていた。
「今日はもう行くよ。今度来る時はあいつも連れてくるから」
立ち上がりながら、幼馴染みに別れを告げた。前に一度だけ連れて来た事のある、幼馴染みに瓜二つな彼女に、また会いたがっていたと伝えれば彼女も嬉しいはずだ。
俺は降ろしていたリュックを肩に掛け、彼女に背を向けた。
『待ってるから。バイバイ』
少女の声で言葉が聞こえた気がして、足を止める。少しだけ振り返る、そこには座って手を振っているあの時のままの幼馴染みが見えた。けれどそれも一瞬。すぐに風が吹いて、元の静かな景色に戻る。いつの間にか鳴き止んでいた蝉が、また夏の音を奏で始めた。ふと目の前を黒アゲハが横切る。
「ああ、約束するよ」
俺は独り呟き、再び歩き出す。また会いに来ること、忘れないこと、諦めないこと、彼女と交わした最後の『約束』。俺は一つ一つを確かめるように胸に刻み、彼女が眠るこの地を後にする。
俺はそう声をかけて、思わず笑った。きっと目の前の幼馴染みは、「せっかく会えたのに、そんな寂しそうにするな」と怒るだろう。それとも、「遅いよ」と拗ねるだろうか。どちらにせよ、ふくれっつらでそっぽを向くだろう。そう思うと笑わずにはいられなかった。
「遅くなってごめん。次はもっと早く会いに来れるようにするからさ」
言い訳せずに謝った。声に寂しい気持ちが表れないようにしたつもりだが、上手く出来ただろうか。毎年帰省しているけれど、いつも俺の精一杯の誤魔化しは簡単に見破られる。ふとそよ風が俺を通り過ぎて行った。それが彼女に「いい加減元気出して」と言われてるように思えて、苦笑いした。誰のせいだよ、と零したら、またふてくされるに違いない。
「俺は変わっちゃったけど、お前はきっと変わらないんだろうな」
彼女はいつもそうだ。天真爛漫で、明朗な性格だから誰からも好かれるくせに、変な所に気を遣う。それはきっと今も変わらないだろう。初めて話したあの時のように、当然のように俺を振り回して、新しいセカイへ連れて行く。お節介で人を巻き込んでおいて笑顔にして、それでいて自分も楽しむことを忘れない。そんな彼女に俺は多少なりとも惹かれていたのだろう。
「懐かしいよな、もう何年経ったと思う?」
少しくらい感傷に浸るのも悪くない。そう思いながら、彼女に訊ねる。俺は青い空を見上げながら、その懐かしい記憶に思いを馳せた。夏らしい大きな積乱雲と熱い日差しに手をかざす。ここよりも暑い都会に慣れたからか、それとも風が吹いているからか、不思議と汗はかいていない。その内蝉の鳴き声も、懐かしく思えてきた。
「…もう10年、経つんだ。早いよな…」
少し濡れた目元を腕で拭って、俺は彼女に視線を戻す。余りしんみりしていると、また怒られそうだ。彼女に会いにここに来るたびに、虚しくなる。せっかくの再会だからと無理に笑えば、余計に空虚な気持ちになってしまう。こればかりは、いつまでたっても慣れそうにない。心にぽっかり空いた穴は、今もまだ埋められていない。
「そうだ、お前に渡すものがあるんだった」
出来れば笑っていたいから、俺はそう言って来る途中で買ったヒマワリの花束を取り出した。リュックサックに挿して持ってきたそれは、彼女によく似合う花だった。
「お前、ヒマワリ好きだっただろ?」
最後に会った時も、彼女の髪にはこの花と同じ髪飾りがあった。これも喜んでくれるだろう。その眩しい笑顔を想像して、俺も笑みを浮かべていた。
「今日はもう行くよ。今度来る時はあいつも連れてくるから」
立ち上がりながら、幼馴染みに別れを告げた。前に一度だけ連れて来た事のある、幼馴染みに瓜二つな彼女に、また会いたがっていたと伝えれば彼女も嬉しいはずだ。
俺は降ろしていたリュックを肩に掛け、彼女に背を向けた。
『待ってるから。バイバイ』
少女の声で言葉が聞こえた気がして、足を止める。少しだけ振り返る、そこには座って手を振っているあの時のままの幼馴染みが見えた。けれどそれも一瞬。すぐに風が吹いて、元の静かな景色に戻る。いつの間にか鳴き止んでいた蝉が、また夏の音を奏で始めた。ふと目の前を黒アゲハが横切る。
「ああ、約束するよ」
俺は独り呟き、再び歩き出す。また会いに来ること、忘れないこと、諦めないこと、彼女と交わした最後の『約束』。俺は一つ一つを確かめるように胸に刻み、彼女が眠るこの地を後にする。
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