勘違い令嬢の日常

【3】侍女の楽しみ

私は、没落した子爵家の令嬢だった。
父と母は贅沢をし、まともだった兄も、騎士としての命を果たしこの世から消えてしまった。
兄がいなくなってしまってからは毎日が憂鬱だった。母と父は何を言っても聞いてはくれない…
もう限界だった。

そんなの時、この家の…侯爵家当主クラーク・ルイス様が私を拾ってくださった。私の家には使用人などと呼べるものはいなくて、私も家事や仕事などをしていたため働くことに嫌悪感はなかったので、この屋敷で侍女として働かせてもらっている。

最初の頃は、母や父に対しての怒りが大きく、何も考えていなかったが、時間が経つと娘としての情けなさや、父と母に対する謝罪の気持ちなどが溢れてきた。辛いことも沢山あったが、皆に支えられて今は、楽しく生きている。


そして、今は今までで1番、楽しい時間をすごしていると実感している。

理由は、侯爵邸で働いているものなら誰でもわかるだろう……そう、お嬢様だ。

お嬢様は、私のことを「まりあ」言う。
小さな口で「まりあ」と言われると、いつもなんて愛らしいのであろうと思ってしまうのも仕方の無いことなのである。

そして、まだ1歳にもなっておられないのに絵本を読まれるのだ。私は、絵を見ておられるのかと思っていたが、他の侍女によるともうすでに字を読めるらしい。さすがお嬢様である。

皆、お嬢様のお顔を見ると数秒後にはデレデレっとしている。普段から見慣れているお嬢様の侍女である私でさえも、数時間に１回ほど見とれてしまったりする。
氷の大狼と言われる侯爵様も、顔に大きな傷を持つ騎士様も、普段は厳しい執事長や侍女長でさえも、皆、デレデレっとお顔をくずす。

執事長や侍女長は、お嬢様のお顔を見たあとだといつもより雰囲気が優しくなるので、その時を選んで他の侍女や執事も話しかけられることが多い。

ほんとにお嬢様さまさまである。